寺本英仁の地域の“逸材”を探して

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寺本英仁の地域の“逸材”を探して 第18回|先代からの技術をつなぎ、さらに先へと進む 「飛騨牛」ブランドの若き担い手【有限会社「牛丸畜産」(岐阜県高山市)】

地方自治

2026.09.01

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出典書籍:月刊『ガバナンス』2026年9月号  【WEB限定連載】

◆変化を続ける“和牛ブランド事情”の中で

 今回は、岐阜県高山市で飛騨牛を生産する、有限会社「牛丸畜産」の牛丸裕喜さんをご紹介しよう。爽やかな次世代の後継者で、しかも、「牛丸」という名字が和牛の生産者にピッタリとくる、というのが僕の第一印象だった。

 僕も、邑南町役場職員時代に石見和牛のブランド化を担当し、今も父親が経営する繁殖牛の会社の運営に関わっているので、今回の取材はとても興味深かった。


「牛丸畜産」代表の牛丸裕喜さん。
「牛丸畜産」代表の牛丸裕喜さん。


 飛騨牛といえば全国でも指折りの一流ブランドであり、僕にとっては憧れの存在だ。一方で、近年は全国各地に新たな和牛ブランドが生まれている。若い生産者を中心に、飛騨牛や松阪牛といった地域ブランドではなく、個人名を押し出すプライベート和牛ブランドも続々と出てきている状況である。

 確かに、生産者個人がこだわりのえさの配合や飼育方法を消費者に伝えるには、その方法がわかりやすいと思う。牛丸さんの若さから考えてみても、自分自身のこだわりをもっと外へ発信したいのではないかと思い、その疑問をぶつけてみた。すると牛丸さんは、「飛騨牛というブランドをしっかり守っていきたい」と、きっぱり発言された。このことが、僕には少し意外だった。

 しかし話を聞くうちに、祖父の代から3代にわたり続いてきた牛丸畜産の歴史と、飛騨牛を肥育する者としての強いプライドが伝わってきた。牛丸畜産では約300頭を肥育している。特に驚いたのは、牛丸さんがすべての牛の顔と名前を覚えていることだ。「学校の先生になったような気持ちで、牛舎を巣立つまで、一頭一頭を丁寧に見送りたい」そんな思いから、現在は大規模化する考えもないという。

 畜産業では、経営を安定させるため規模を拡大することも1つの方法である。しかし牛丸さんは、自分の目が届く範囲で一頭一頭の牛と向き合い、納得できる肥育を続けている。そこに僕は、牛丸さんのプロフェッショナリズムを感じた。


牛舎の写真

牛との2ショット写真

一頭一頭の牛と日々向き合い、大切に育てている。

◆「好きこそ物の上手なれ」若い世代がつなぐ、これからの畜産業

 牛丸畜産には全国和牛能力共進会で最優秀枝肉賞(日本一)を獲得した実績があり、牛丸さん自身も2022年の第12回全国和牛能力共進会に岐阜県代表として出場している。牛丸さんだけでなくほかの肥育農家でも、若手が後を継ぎはじめていると聞き、畜産業の共通課題である後継者問題も解決していっていることに少し安心した。

 「A級グルメ」の理念には、永遠につながれる食材という意味で、「永久」という思いも込められている。高山市のA級食材である飛騨牛は、牛丸さんたち肥育農家だけが守っているわけではない。高山市には計127戸の繁殖・肥育農家があり、春から秋にかけて放牧する市営牧場も5か所あり、食肉加工を担う「飛騨食肉センター」もある。精肉を全国に販売するだけでなく、市内の精肉店や飲食店で食べることもでき、多くの観光客が飛騨牛を目当てに高山市に訪れているのである。これもまた、繁殖・肥育農家、JA、行政、飲食店など、多くの人たちが関わることで構築された強固な体制と、ブランド牛という特色があるからだと感じた。

 インタビューの最後に聞いたのだが、牛丸家では週3回ほど飛騨牛が食卓に並ぶそうだ。なんとも羨ましい話である。

 これだけ飛騨牛を愛しているからこそ、飛騨牛を守り続けることができるのだろう。「好きこそ物の上手なれ」とは、まさにこのことなのかもしれない。


子供と牛との写真

「飛騨牛」の写真

「飛騨牛」というブランドは、生産者と消費者の愛情によって、これからも守られ続ける。

寺本英仁氏の写真

著者プロフィール 寺本英仁(てらもと・えいじ)
㈱Local Governance代表取締役

1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。海と食を旅する地方創生プロデューサーとして活動中。

★この記事は、月刊「ガバナンス」のWeb限定連載です。本誌はこちらからチェック!

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㈱Local Governance代表取締役/ちよだ地方連携ネットワーク地方連携特命官。1971年島根県生まれ。東京農業大学卒業後、石見町役場(現邑南町)に入庁。「A級グルメ」の仕掛け人として、ネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。NHK「プロフェショナル仕事の流儀」で紹介される。著書に『ビレッジプライド~「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、藻谷浩介氏との対談本『東京脱出論』など。22年3月末で役場を退職し、㈱Local Governance 代表取締役に就任。

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