新・地方自治のミライ

ガバナンス編集部

検査証明行政のミライ|新・地方自治のミライ 第114回

NEW地方自治

2026.08.31

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出典書籍:『月刊ガバナンス』2022年9月号

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本記事は、月刊『ガバナンス』2022年9月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

はじめに

 厚生労働省は、「感染症法に基づく医師の届出により、疑似症患者を把握し、医師が診断上必要と認める場合にPCR検査を実施し、患者を把握」するとしている(注1)。いわゆる全数把握の方針である。

(注1) 厚生労働省ウェッブサイト「新型コロナウイルス感染症に関する検査について」。

 さらに、2022年3月6日より、PCR検査に医療保険を適用した。これにより、保健所を経由することなく、医療機関が民間の検査機関等に直接依頼を行うことが可能となった。保健所の負担軽減である。

 しかし、このことは玉突き的に、検査のための受診を促す構造がある。こうして、医療機関の発熱外来は、検査を求める受診も含めて、アクセス困難状態となった。今回は、第7波を受けた自治体の対応を、検査に焦点を当てて、論じてみたい。

PCR検査と抗原検査

 検査には、PCR検査の他に、抗原検査もある。承認後当初は、抗原検査キットで陽性の場合は確定診断となる一方、陰性の場合は確定診断のために再度PCR検査が必要だった。その後、6月16日に一定条件が整えば陰性でも確定検査ができるようになった(注2)

(注2) 「SARS-CoV-2 抗原検出用キットの活用に関するガイドライン」。鼻咽頭拭い液による検査は、発症2日目から9日目までの患者について、検査結果が陰性でも確定診断できる。

 とはいえ、その条件を満たさなければ、PCR検査を受けるための医療機関への受診を否定できない。陽性者は確定診断であるが、治療・療養(入院・宿泊・自宅)のために医療機関や保健所・入院調整本部にアクセスする必要は消えない。

 ともあれ、厚生労働省は抗原定性検査キットの供給を全国に向けて順次開始した。

抗原定性検査キットの無料配付

 こうしたなか、自治体は抗原定性検査キットの無料配付を開始した。例えば、神奈川県は、8月3日に無料配付の申込を開始した(注3)。その仕組の概要は以下の通りである。

(注3) 神奈川県庁ウェッブサイト。「検査無料化事業について」。なお、神奈川県庁を含め一般には「配布」と表記している。千葉県庁は「配付」である。

 無料配付の対象は、①重症化リスクが低い2歳から39歳②40歳から64歳までで重症化リスク因子がない③妊娠していない人で、❶発熱等の症状がある、もしくは、❷感染者の濃厚接触が疑われ、そして、神奈川県内居住者である。

 行政配給は、手続と配送がネックである。対象条件を満たした県民は、「抗原定性検査キット申込みフォーム」から無料配付を受けるクーポンを申込む(注4)。1枚のクーポンで2キット分を1人1回に限り受け取れる。複数人数の申込はできるが、希望者1人ずつの申込が必要である。受け取る際は全員分の氏名と県内住所が分かる本人確認書類を窓口で提示する。1日の発行クーポン数の上限に達すると当日受付が停止される。フォーム申込の同日中にメールで案内があり、クーポン券をダウンロードする。結果入力のために、LINE公式アカウント「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」に友達登録する(注5)

(注4) 神奈川県庁ウェッブサイトによると「アクセス数が増えると一時的に回答できなくなることがありますので、その場合は時間を空けてのアクセスをお願いします」とある。
(注5) https://page.line.me/336ldusd?openQrModal=true

 配付は8月5日以降、体制が整った機関から順次開始する。抗原定性検査キットを配付している機関と在庫状況は、メールに記載の検査キット配付機関検索システムで検索できる。窓口が逼迫するため、電話での問合せをしないように求めている。配付量に限りがあるため、配付先で必ず受領できるわけではない。クーポン券の有効期限は発行日を含めて5日以内である。

無料PCR検査事業

 検査キットを配付するよりもPCR検査を拡大すればよいかもしれない。これも各地の自治体・事業者で拡充されている。例えば、神奈川県は、7月1日に感染拡大傾向時の一般検査事業は終了していたが、7月13日に再開した。さらに、8月4日にターミナル駅・新幹線停車駅の検査体制を拡充した(注6)

(注6) 神奈川県庁ウェッブサイト「検査無料化事業について」。

 無料PCR検査事業には二つの形態がある。第1の「ワクチン検査パッケージ・対象者全員検査等定着促進事業」では、受検目的は、ワクチン検査パッケージ制度または対象者全員検査および飲食・イベント・旅行・帰省等の活動に際して、陰性の検査結果を確認する民間の取組のために必要な場合である。

 対象者は以下の①飲食・イベント・旅行・帰省等の経済社会活動を行うに当たり必要②ワクチン3回目非接種③無症状、を満たす必要がある。但し、3回目接種完了者でも、❶対象者全員検査等❷高齢者・基礎疾患を有する者等との接触を伴う活動に際して検査結果を求められた場合は、対象となる。原則、抗原定性検査である。

 第2の「感染拡大傾向時の一般検査事業」では、受検目的は、感染に不安を感じる無症状者に対し、ワクチン接種済者を含めて、検査を受けることを推奨するものである。

 対象者は以下の①県内在住②濃厚接触の可能性は低いが感染リスクが高い環境にあるなど感染不安を感じていて感染の不安を解消したい事情がある③無症状、を満たす必要がある。PCR検査、抗原定性検査どちらも可能である。但し、登録事業者によってはどちらかに限られている。ターミナル駅検査場でも抗原定性検査のみである。

 以上のように、検査は無症状者が対象であり、有症状者は無料検査ではなく、医療機関への受診となり、医療機関の負担は減らせない。また、制度上は予約不要であるが、希望者が多く混雑していて、現実には予約優先や、行列順番待ち(打ち切り)もある。登録事業者に検査申込し、様々な申立・同意記入・疎明資料提示・本人確認などが求められる。

 無症状者を対象とする無料検査では、有症状者等の検査・受診の需要を満たせない。また、無料検査では、陰性でも感染の可能性は否定できない。陽性者は、①65歳以上②40歳から64歳までで重症化リスク因子あり③2歳未満④妊娠の場合には、必ず発熱診療等医療機関への受診が必要となる。

自主療養届出制度

 従って、無症状者への無料検査を拡充すれば、医療機関への負担は大きくなる。そこで負担を軽減すべく、「自主療養届出制度」へ陽性者の誘導がされる(注7)

(注7) 神奈川県庁ウェッブサイト「新型コロナ 自主療養届出制度について」。

 オミクロン株は、若年・無基礎疾患の場合は重症化の可能性が低いことが分かってきたので、限られた医療資源を高リスク者へ重点的に提供するため、重症化低リスク者が抗原検査キットや無料検査で陽性が判明した場合は、医療機関の診断を待たずに、申請により療養を選択できるようにした。医師による確定診断がないので、全数把握も放棄される。

 自主療養届出制度の希望者は、「自主療養届出システム」で申請を行う必要がある。毎日の健康観察がLINEやAIコールにより行われる。療養開始を示す書類(「自主療養届」)を発行できる。自主療養終了後に「療養証明書(自主療養専用)」を発行するためにも、自主療養届の発行済みが必要である。証明書は保険金請求時の根拠資料として、一部の保険会社で活用が可能という。

おわりに

 新型コロナ対策は、対策が次の問題を玉突き的に起こす。陽性証明が、療養に必要ならば、検査を抑制できない。陰性証明が、社会経済活動にとって不可欠ならば、検査を抑制できない。無症状感染や濃厚接触や隔離待機を偽政者(にせいしゃ)・煽悶家(せんもんか)・メディアが喧伝してきたため、民間企業や人々は行動変容してしまい、証明を求め続ける。一々証明が必要な場合、その証明書を自治体が適時に発給できるかが問われる。

 検査証明業務は、対人公証という自治体らしい仕事ではある。しかし、通常でも公証業務は、手続が面倒で窓口で行列と待ち時間が必要である。こうした検査証明が日常的・適時的に多数の住民にとって必要になれば、第一線行政の対応能力は破綻する。各自治体は、対応を工夫しているが、困難の波は大きい。

 

著者プロフィール

東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき


1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。

主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)、『行政学講説』(放送大学教育振興会、24年)、『自治体と総合性』(公人の友社、24年、編著)。

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