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事業承継における財務の外側にある価値―地方事業承継が問う、支援者の「事業理解」|政策トレンドをよむ 第40回

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2026.08.07

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    月刊地方財務 2026年7月号

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    【政策トレンドをよむ 第40回】
    事業承継における財務の外側にある価値
    ―地方事業承継が問う、支援者の「事業理解」

    EY新日本有限責任監査法人 コンサルタント
    森本 凪

    ※2026年6月時点の内容です。

     地方における中小企業の廃業が加速している。中小企業庁の2026年版中小企業白書によれば、後継者不在率は2018年以降減少傾向にあるものの、2025年時点でも50.8%と、半数近くの企業で後継者不在が続いている。また、後継者の不在に伴って中小企業の廃業予定時期も加速しており、日本政策金融公庫による「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年)」では、廃業予定企業の廃業予定時期は早まっており、2023年調査では5年以内の廃業を考えている割合が半数近くまで上昇したことが確認されている。

     このような前提を踏まえ、本稿では地方における事業承継を取り巻く諸問題について再考することで、地域産業の再編・高度化推進を行う上での参考となる情報を提示する。

     記事執筆にあたり行ったヒアリングの中で、各関係者から承継が進まない背景について、3つの構造的な壁が挙げられた。

     第一は「情報の壁」である。地域金融機関へのヒアリングでは、後継者を探したいが相談先がわからないという経営者が少なくないことが確認された。また廃業の選択においても、経営者が受け身になっているケースが多く、自らアドバイスを求める動きが見られにくいのが現状である。

     第二は「評価の壁」である。売り手である高齢経営者は長年の経営努力や顧客との関係性を価格に反映させたい一方、買い手(事業会社・ファンド等)はEBITDAベースの収益性で企業価値を評価する。この認識の非対称性が地方の中小案件では顕著に現れる。個人と法人の切り分けが不明確なオーナー企業では財務情報の整備が不十分なケースも多く、銀行査定において企業価値が実態より低く評価されやすい傾向がある。

     第三は「支援体制の壁」である。事業承継は税務・法務・財務にまたがる複合的な課題だが、地域の士業のM&A経験は全体的に乏しく、経営者への適切なアドバイスが行われないまま、廃業の判断が先送りされていく構造がある。

     こうした課題に対し、地銀・信金による承継マッチング支援や、独立系PEファンドによる地方中小企業への投資が広がりつつある。特に一部のPEファンドは、特定業種において複数の中小企業を順次取得・統合するロールアップ戦略を展開しており、建設・運送・介護といった業種では、個社単独では実現できなかった規模の業務改革が統合によって生まれる可能性がある。

     しかし、金融機関・ファンド・事業会社を問わず、支援主体が投資・融資判断を優先するあまり、対象企業の事業実態への理解が不足しやすいという根本的な課題が指摘される。財務諸表に現れない顧客関係・現場のノウハウ・属人的なオペレーションを正確に把握することが、承継支援の質を左右する。事業理解を伴わない承継支援は、統合後のPMI(経営統合プロセス)の難航や、承継した企業の価値毀損につながるリスクをはらんでいる。

     こうした状況を踏まえると、いくつかの論点が浮かび上がる。

     自治体は許認可や税務申告等を通じ、地域企業の実態を早期かつ網羅的に把握できる。後継者不在のシグナルを民間の承継支援とどう接続するかは、今後の地域産業政策における1つの問いとなりうる。加えて、承継に関わる民間プレイヤー自身にとっても、「事業実態の理解をいかに深めるか」という問いは避けられない。融資・投資の論理だけで地方中小企業に向き合うことの限界は、現場での経験の蓄積によって明らかになりつつある。

     事業承継は個社の延命策ではなく、地域産業の再編・高度化の入口ともなりうる。自治体・地銀・PE・士業それぞれが役割を分担しながら連携する構図の中で、各関係者による事業実態の理解が重要となる。

     その一例として、川崎市の「KAWASAKI事業承継市場」がある。市の行政職員が積極的な企業訪問によって経営課題を把握する中で事業承継問題の深刻化に気づいたことを契機として、2017年に創設された。同市は伴走支援を継続的に実施しており、今後は伴走支援コーディネーターの育成とともに、経営デザインシートの作成なども検討している。自治体主導で地域産業の再編を目指す先進的な事例の代表例の1つである。

     民間の知見とリソースが地方に向き始めている今、問われているのは各プレイヤーが自らの役割と限界を認識したうえでどう連携するか、という仕組みの設計である。地域事業者の廃業という危機に自治体、金融機関等の関係者がどのように関与するかが、地方産業の行方を左右するだろう。

     

    〔参考文献〕
    中小企業庁(2026年4月)「2026年版中小企業白書」
    日本政策金融公庫(2024年2月)「経営者の高齢化の進行と事業承継問題」日本政策金融公庫論集第62号
    中小企業庁(2025年3月)「基礎自治体(市区町村)における事業承継支援の取組事例集」

    〔取材協力〕
    株式会社事業承継通信社
    首都圏近郊を地盤とする地域金融機関融資担当地方企業のロールアップ投資を手がける独立系ファンド 投資担当

    私たちは、持続可能な社会の実現に向け、調査分析から政策提言、実行支援まで一貫して支援しています。
    本記事に関するご相談は以下よりお気軽にお問い合わせください。
    EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 ガバメント・パブリックセクター
    https://www.ey.com/ja_jp/functional/forms/contact/gyosei-online

     

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