
政策課題への一考察
持続的な自治体経営に向けた地方公務員の兼業・副業の在り方|政策課題への一考察 第115回
地方自治
2025.12.11
出典書籍:『月刊 地方財務』2025年11月号
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【政策課題への一考察 第115回】
持続的な自治体経営に向けた地方公務員の兼業・副業の在り方
株式会社日本政策総研研究員
平林 慶之
※2025年10月時点の内容です。
1 はじめに
人口減少に伴う人材不足や若年層の公務員試験志願者数の減少を背景に、地方自治体における採用試験の競争率は低下傾向にあり、2014年度の7.0倍から2023年には4.6倍まで低下した(1)。加えて、30代以下の若手職員による普通退職率も3割前後となっており(2)、新卒一括採用と人事異動を基本とする閉鎖型の人事制度は、開放型へと移行しつつあると考えられる。こうした状況の中で、新たな人材確保の手段として兼業・副業制度の活用が進んでいる。特にこれまで公務の中立性や公正性の観点から抑制的に扱われてきた営利企業への従事も緩和する方向で見直しが進んでおり、2025年6月に総務省は地方公務員の兼業に関する技術的助言を提示した。
〔注〕
(1)総務省「令和5年度『地方公務員における働き方改革に係る状況~』1.競争試験の状況」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000984529.pdf
(2)総務省「地方公務員の退職状況等調査」(令和2年~令和5年)を参照。
そもそも地方公務員制度における兼業・副業は制度創設時から、地方自治体の多様な実情や人的資源の有効活用の観点で、公務に特定の私企業の影響が及ばない限りは、兼業を許可した方が実情に即した人事行政の運営が可能であるという考え方に立っていた。そのため、原則として営利企業での兼業・副業を認めていない国家公務員制度と比べ、地方公務員制度ではより柔軟な基準での運用が可能であった。しかし、現行の運用実態では、許可基準を設けている自治体の約9割が国家公務員の基準に準拠しており、制度上は柔軟性を許容しているにもかかわらず、実務的には抑制的な運用が続いている。
この制度趣旨と運用の乖離の背景には、兼業先との相反する利害関係の有無の確認や、社会通念上相当と認められる報酬額など、明確な許可基準の設定が困難であることが挙げられる。特に、営利企業との兼業する際の利害関係の判断は複雑である。本稿では、今後各自治体が今回の技術的助言を踏まえつつ、営利企業との兼業・副業の許可基準を設定するにあたり課題となるであろう「兼業先との相反する利害関係」について、論点を整理した上で、今後の検討の方向性を提示する。
図表 営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する実態調査(2024.4.1時点)

出典:総務省の調査資料をもとに筆者作成
2 地方公務員による兼業・副業の活動状況
地方公務員の兼業・副業は、社会貢献を目的とする活動(地域振興、文化、教育、移住定住等)と、それ以外の活動(農業、不動産賃貸等)に大別される。さらに、これらの活動は「類型Ⅰ(営利企業の役員等)」「類型Ⅱ(自ら営利企業を営む)」「類型Ⅲ(報酬を得て事業・事務に従事)」の3つの類型に分類される。2018年度と2023年度の許可件数を比較すると、全分類の内で社会貢献を目的とし、かつ報酬を得て事業または事務に従事する活動については、許可件数が顕著に増加している一方、それ以外の活動分類では許可件数が停滞している。
また、公務人材の兼業・副業への意欲に関する参考として、2024年度に人事院および内閣人事局が国家公務員を対象に実施した調査では、現行制度では認められないものも含め、今後兼業を行いたいとする職員の割合が30代以下の世代において高くなっている(3)。この結果から、若い世代で潜在的な兼業・副業への意欲が高いことが推察される。
〔注〕
(3)人事院・内閣人事局「兼業に関する職員アンケート結果(概要)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000999590.pdf
3 総務省の技術的助言を踏まえた検討事項
総務省が示した地方公務員の兼業に関する技術的助言では、制度運用にあたっての基本原則として、①職務遂行上の能率低下を招かないこと、②相反する利害関係が生じず、職務の公正を妨げないこと、③職員および職務の品位を損なわないことの3点を挙げ、「兼業先との相反する利害関係」や「報酬額の妥当性」「勤務時間数」など5つの観点で留意点を示している。
中でも注目すべきは、「兼業先との相反する利害関係の確認」である。今回の技術的助言では、国家公務員の官民人事交流制度の基準を踏まえ、「兼業する職員の職務と兼業先の団体・事業・事務との間に相反する利害関係がないこと」が留意すべき基準として示されている。今回の技術的助言の基準によれば、営利企業と自治体の間に利害関係が存在していても、職員が所属する部門との間に利害関係がない場合は、兼業・副業を認めることが可能となる。例えば農業分野においては、従来から認められていた自営業に加え、農業法人で兼業として従事する場合でも、それが地域の農産業の持続可能性に資するものであれば、一定の利益相反があっても認められる可能性がある。公務における公正性の担保と、兼業・副業を通じて公務員が地域産業や地域活動に果たす役割とを比較衡量し、後者の公益性が前者のリスクを上回る場合には、兼業・副業が可能となる。
一方で、この基準もその曖昧さゆえに、運用上の課題が残る。例えば、長野県では「営利企業等の活動であっても副次的に広く不特定多数の利益の増進に寄与するもので、社会的な需要が高いと認められるもの」は許可をするよう明確化されている(4)が、憲法第15条などとの兼ね合いで法的に不安定な面があり、どこまでが認められるのか現場で不安視されているとの指摘がある。そのため、単に利害関係に関する原則を提示するだけでは、事実上の曖昧な運用基準を打破することはできない。実際、公務員を対象とした調査では、副業・兼業を行う上での障害として、「規則の解釈が難しく、処罰の恐れがある」という回答が最も多くなっている(5)。そのため、各自治体において明示的なルールを示すことが必要である。例えば、兼業・副業の先進自治体である神戸市は、特に地域でニーズが高い農業・福祉分野では、社会貢献的な活動に限らず有償の副業・兼業を認めており、特に福祉分野では「保育士のサポート(保育補助者)」や老人福祉施設・障害者支援施設の「事務補助」などの就業ができることを示している。このように特に就業を推奨する業種などを例示列挙することも一案である。
〔注〕
(4)長野県の「地域に飛び出せ!社会貢献応援制度(2022年更新)」を参照。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000985528.pdf
(5)公益財団法人東京市町村自治調査会「公務員の副業・兼業に関する調査研究報告書~職員のスキルアップ、人材戦略、地域貢献の好循環を目指して~」
https://www.tama-100.or.jp/cmsfiles/contents/0000000/900/fukugyo_all.pdf
4 おわりに
本稿では、地方公務員の兼業・副業の許可基準の中でも、特に明確な線引きが難しい利害関係に関する論点を整理した。一般に、各自治体が兼業・副業制度の整備を認める背景には、地域活動や地域産業の維持、庁内に不足する専門知識の補完、職場で習得が困難なスキルの獲得機会の提供、さらには職員の業務へのモチベーション向上などの目的が考えられる。兼業・副業を解禁する理由に応じて設定すべき許可基準は異なるため、各自治体がそれぞれの目的に応じて、「全体の奉仕者」という原則を維持しつつ、明確な許可基準を設定することが求められる。
さらに、庁内に不足する専門知識の補完の観点では、PRやデジタル、観光など、民間の専門性が期待される分野で、週1~2日程度のリモートワークを前提とした求人などがみられ、今後は民間での就業を主、公的機関での就業を副とする働き方も広がることが予想される。公務と民間の垣根を越えた柔軟な人材活用の在り方が、今後の地域及び行政における持続可能な人材確保の鍵となるだろう。
〔参考文献〕
・総務省「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する留意事項について(通知)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001014253.pdf
・総務省「(別添1)地方公務員の働き方に関する分科会報告書(地方公務員の兼業について)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001014377.pdf
・総務省「(別添2)営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する実態調査」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001014255.pdf
・総務省「(別添3)兼業許可基準を設定する際のポイント等」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001014303.pdf
・人事院・内閣人事局「兼業に関する職員アンケート結果(概要)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000999590.pdf
・長野県「長野県における兼業の取組について」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000985528.pdf
・公益財団法人 東京市町村自治調査会「公務員の副業・兼業に関する調査研究報告書~職員のスキルアップ、人材戦略、地域貢献の好循環を目指して~」
https://www.tama-100.or.jp/cmsfiles/contents/0000000/900/fukugyo_all.pdf
*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。
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