時事問題の税法学
時事問題の税法学 第49回 夏の行方
地方自治
2020.02.23
時事問題の税法学 第49回
夏の行方
(『税』2019年11月号)
台風15号の爪痕
暑さ寒さも彼岸までというが、今年は暑さが残った。
この夏、お盆休みに房総の海で遊んだ。40歳代後半になろうとする教え子たちの20年を超える慣例の行事に付き合った。それぞれの子供たちも成長しているので、参加した子供たちは、小学生の数名だったが、もう数年もすれば、原点に戻り親父たちだけの集まりになるのだろう。そんな房総半島は、台風15号の影響で長期にわたる停電となった。世話になった教え子の家も被害に遭ったが、地元自治体職員である彼も自宅の修理どころではなく、地域のために頑張ってくれたと思う。
海底トンネルと海上橋で東京湾を横断し、千葉県木更津市と神奈川県川崎市をつなぐ高速道路である東京湾アクアラインは、開通当初の高額な通行料金を大幅に下げることで、物流、観光はもちろん通勤、通学にも大きな効果をもたらした。その実現に寄与したとして評価されてきた千葉県知事は、今回の停電騒動での後手の対策で批判を浴びた。首長の責任は重い。
会社役員より意識が高い男子学生
地下鉄の中で、インフラ事業を民間企業に任せていいのか、とサラリーマンふたりが声高に議論していた。そういえば、真山仁の小説「シンドローム」のなかにそんな会話が登場した気がする。この小説は、テレビドラマや映画でも人気を博し、最近でも綾野剛主演のドラマでリメイクされた企業買収がテーマの作品「ハゲタカ」シリーズの最新作であるが、東日本大震災直後の政財界が舞台となっている。
そんな折、関西電力の役員らの不祥事が発覚した。役員らは、2018年までの7年間に、原子力発電所のある福井県下の自治体元助役から、3億2千万円分の金品を受け取っていた。最初の報道によれば(朝日新聞9月27日夕刊)、「金沢国税局による元助役への税務調査で、元助役が原発工事に関わった建設会社から約3億円を受け取り、関電側にその一部が渡っていたことが判明した」という。
元助役は、本年3月に90歳で死亡しているが、相続税申告期限は10か月であるから相続税の調査ではない。その後の報道で、建設会社の税務調査において約3億円の支出目的が問われた結果だという。元助役への資金移動を、建設会社が秘匿できなかったのは、出納記録を国税当局が入手していたからかもしれない。ここまで大きく報道されると、関電も露骨な対応ができないと建設会社も開き直っただろうか。
関電役員らに対するリストもあったはずだ。まさしく芋づる式に露見したわけだが、役員らは、自分たちも覚えていない、日時、金額、品物を当局から提示され驚いたかもしれない。修正申告をしたと報じられているが、渋々し、追徴課税に応じたと思う。情けない話だ。
この夏の驚いたニュースに、SNSで年間約1千万円の広告収入を得ていた少年のアカウントを削除したとして、通信制高校の男子生徒ら少年3人が電子計算機損壊等業務妨害の疑いで逮捕された事件がある。生徒らは少年と同じ方法で収入を得ていたといい、「自分たちの収入を増やそうとアカウントを譲るよう求めたが断られたので、消去するしかないと思った」と供述しているという。年間収入が1千万円というのは驚くが、この18歳の被害少年は税務申告をしているという(朝日新聞9月25日夕刊)。関電役員より意識が高い男子といえる。
申告納税制度は負担大
早いもので、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書の用紙がもう届いた。さすがに税理士事務所でも、この時期では、まだ準備をしていない。多くの年金受給者は、給与所得者として年末調整で所得税の精算が行われていたので、全く気にしていなかった。そのため長く痛税感に欠けるといわれてきた。ところが、リタイアし、年金受給者になって初めて税務署に出向き、確定申告をするようになった年金世代は多い。年末に向かい、同級生たちからの質問が多く舞い込む。パソコンを使った電子申告をこなす者もいるが、事務系、技術系を問わず最初は頭を悩ます者は少なくない。
やはり申告納税制度は、納税額や世代に関係なく、納税者の負担が大きいと、今さらながら感じる。