議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

「自治体議会」は「地方議会」のままでいいのか?|議会局「軍師」論のススメ 第107回

NEW地方自治

2025.09.11

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本記事は、『月刊ガバナンス』2025年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 昨年末、「地方自治の『これまで』と『これから』」とのテーマが設定された、滋賀大学公共政策イブニングスクール後期課程の1コマで講演した。依頼された演題は「これからの地方議会」であったが、「地方議会」を「自治体議会」に変えさせてもらった。今号では、その趣旨を中心に論じたい。

■言葉の視点へのこだわり

 端的に言えば「地方」との言葉自体が、「中央」である国の、上から目線のもので、地域に暮らす住民視点からの言葉でないと感じるからだ。国と自治体の関係は、建前では対等、協力の関係とされつつも、実態では上下、主従の関係だと、自治体が許容しているように思えてしまうのである。

 趣旨が類似する例としては、下請法(注1)の名称変更が検討されていることがある。「下請け」という用語が、発注企業との上下関係をイメージさせ、不公正な取引を助長してきたとの理由からだ。しかし、法改正が検討されるまでには、16年にわたって「下請け」を「パートナー」などの用語に変えることを業界団体が国に訴えてきた背景がある。

注1 下請代金支払遅延等防止法

 一方、自治体議会でも同様の問題意識を持っているなどという話は聞いたことがない。議会の世界では、ひとえに国との事実上の主従関係に鈍感なのである。

■根強い潜在的中央集権意識

 国の自治体議会に対する本音が垣間見えた例としては、オンライン本会議に関する国会答弁がある。

 2021年3月12日の衆議院内閣委員会では、中谷一馬議員が「地方自治体がそれぞれの事情に応じたオンライン本会議の開催を決定できるよう環境整備する必要性」について質問し、当時の熊田裕通総務副大臣は、「国会における出席という考え方にも留意しながら考えていく課題だと認識をしております」と答弁している。自治体議会が国会に準拠しなければならない法的根拠など存在しないにもかかわらず、自治体議会のオンライン化は国会に先行すべきでないとの考えが示されている。未だに「中央」優先で「地方」は二の次との意識が、図らずも露見しているのである。

 一方で、自治体議会側においても標準会議規則の本会議欠席事由に、産休期間を明示する議論の過程では、「『国が対応していないのに地方がやるのか』という声があるのは事実」と議長会幹部も認めている(注2)。このように、自治体議会側に立脚する人でさえ、国会への従属意識が強いのも残念ながら事実である。

注2 『地方行政』11030号(時事通信社、2021年2月25日)参照

 だが、執行機関では情報公開制度など、自治体が独自条例を制定して制度確立で先行し、国が後追いで法整備した例は以前から珍しくない。

 まさに今求められるのは「地方議会が地方を変え、地方から国を変える」(注3)意識であろう。

注3 北川正恭・早稲田大学名誉教授による格言

■自治体にふさわしい議会へ

 議会で中央集権意識が残る背景には、自治体議会は分権改革の洗礼を受けておらず、議会関係者の分権意識が希薄であることも一因ではないか。執行機関では機関委任事務が廃止され、対等関係を担保する制度整備もなされたため、必然的に意識変革も促された。そのような機会がなかった自治体議会では、国会の地方版に甘んじる中央集権意識が潜在的に残っているように思える。

 これからの自治体議会は自治体の一翼を担うに相応しい、自律意識と政策立案能力を兼ね備えた機関であるべきではないだろうか。

 

第108回 自治体議会の政策形成が受け身でいいのか? は2025年10月9日(木)公開予定です。

著者プロフィール

早稲田大学デモクラシー創造研究所招聘研究員
元大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし


1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。


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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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