議会局「軍師」論のススメ
自治体議会の政策形成が受け身でいいのか?|議会局「軍師」論のススメ 第108回
NEW地方自治
2025.10.09

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出典書籍:『月刊ガバナンス』2025年3月号
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本記事は、『月刊ガバナンス』2025年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
議会改革のテーマの一つとして、議会の政策形成機能の強化がある。議会と執行機関はともに、憲法93条の規定によって公選された住民代表による機関であり、憲法94条で両者には政策形成に欠かせない自治立法権が付与されている。
つまり両者は独自に政策形成し住民福祉の増進を競う機関競争主義の関係にあるにもかかわらず、多くの議会では行政監視だけに特化しているのが実態だからである。
■予算・決算サイクルの限界
地方自治法96条では、議会に議案の議決を義務づけており、毎年必ず上程される重要議案である予算、決算については、その審査過程で疑問点を抽出し、決議や提言の形で議会から政策提案することも行われている。だが、それらは法的根拠のない事実上の行為でしかないため、その実現可能性は首長に委ねられる。
また、構造的課題としては、「首長・執行機関は、自ら執行すべき政策を自ら企画・立案しているから、執行したくないことや自分たちにとって不都合なことを企画・立案するはずがない」(注1)ため、不都合なことへの予算計上などあり得ず、そもそも議会での議論の俎上に載らないことがある。
注1 大森彌『変化に挑戦する自治体――希望の自治体行政学』(第一法規・332頁)
したがって、予算決算審議のみに議論を特化していては、議会に予算提案権を付与しない限り、将来を見据えた政策を議会が形成することは難しいと言わざるを得ない。
そのため、執行機関の原案に拠るのではなく、議会独自に立案することが必要であり、究極的には「基本構想・基本計画をはじめ自治基本条例など自治体のゆくえに係る重要政策は議会が主導権を発揮して企画・立案に当たるべきである」(注2)と大森彌・東大名誉教授は示される。
注2 同掲書・333頁
■政策条例制定による可能性
大森先生が求める高みに到達することは容易ではないが、前述のとおり自治体議会は自治立法機関であり、まずはその強みを活かした政策条例を制定することが、最初の一歩となるのではないだろうか。
もちろん、議会を支える補助機関が脆弱である現実を踏まえれば、首長と同等に数を追うのは現実的ではなく、執行機関任せでは実現できないことを優先すべきである。筆者が想定する、議会が提案すべき政策条例は3パターンに集約される。
一つ目は、行政の縦割りの狭間に落ちた課題を、議会が解決しようとするものである。当初は行政の守備範囲外と認識されていた空き家問題が、議員提案の「空き家対策条例」で解決されたことが好例である。
二つ目は、執行機関の率先垂範が期待できない行政課題に関する政策条例である。具体例としては、埼玉県で議員提案条例により実現した「防災ヘリによる山岳救助の有料化」がある。国の見解に反することや近隣自治体への忖度から執行機関がためらっていたものを、議会だからこそ実現できた例である。
三つ目は、執行機関が当面の対応に追われ、将来を見据えた施策を立案する余裕がない場合である。具体例としては、いじめ事件への対応に忙殺されていた執行機関に代わって議員提案で制定した「大津市子どものいじめの防止に関する条例」のようなケースである。
これらの例からは、議会でなければ実現できない自治体の政策が確実にあり、だからこそ、議会は受動的活動で満足することなく、主体的に将来を見据えた政策形成の可能性を追求すべきと考えるのである。
第109回 議会で最初に感じる違和感は何か? は2025年11月13日(木)公開予定です。
著者プロフィール
早稲田大学デモクラシー創造研究所招聘研究員
元大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。
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