議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第103回 議会BCPがお守りでいいのか?
NEW地方自治
2025.05.15
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年10月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
8月号で紹介した「議会事務局研究会」(駒林良則・立命館大学特任教授主宰)設立15周年記念シンポジウムは、台風10号の影響で残念ながら来年2月15日(予定)に延期された。最近、凶暴化する台風や南海トラフ地震臨時情報が発表される状況もあってか、議会BCP(業務継続計画)に関する研修依頼が増えているので、今号ではあらためて議会BCPについて考えてみたい。
■地方議会にBCPができるまで
議会BCPが普及する以前は、非常時に議会にできることなどなく、むしろ執行部の邪魔をしないように何もしないことが良いとの考えが一般的であった。地方議会では全国初の議会BCPを策定した大津市議会でも、策定議論が始まるまでは同様であった。
だが、豪雨災害の渦中で市民のために動いた議員の活動が、結果的に執行部の災害対応を阻害し、非常時における行動指針の必要性を感じさせられた。これが契機となって、部分最適の誹りを免れない非常時の議会活動を、全体最適化しようとする機運が高まったのである。
■最近の課題の傾向
以前は議会BCPを策定しようとする段階での研修依頼ばかりであったが、最近は原案があっても合意形成できない、策定はしたがどのように運用すべきか、などの観点での研修依頼がとみに増えた。
これは議会基本条例の制定傾向とも重なる。初期のころはモデルになるものが少なく、自分たちで一から構成を考えなければならないが、制定数が増えればそれぞれの良いところを寄せ集めれば原案を作成すること自体は容易である。
だが、切実な必要性を感じないまま、何となく形式だけを整えたものは実践に繋がらないことが多い。では、議会BCPを活きた計画とするにはどのようにすべきだろうか。
■BCP策定後に求められるもの
まずは、議会BCPの意義を議会内で共有する取組みが必要だろう。議会BCPは策定済みでも、策定時の議論に関わっていないメンバーには「やらされ感」が強いものであることが多い。それは根本的なところで、非常時でも議会活動を継続する意義が腹落ちしていないからだ。
議会は地方自治法96条に定める事件の議決に法的義務を負うが、同時に同法は議決不能時には長による専決処分を認めているため、非常時には専決処分で良いと考えがちになる。だが二元的代表制は平時に限るとの規定がない以上、議決機関として機能発揮するための最大限の努力が、議会には求められるだろう。安易に専決処分を認めることは、議会としては自殺行為だとの認識の共有が必要ではないだろうか。
そのうえで、議会BCPには単なる理念を定めるだけでなく、非常事態を類型化し、その対応を可能な限り実務レベルに落とし込んで規定しておくことが必要である。実務の裏打ちがない理論は、現場では何の役にも立たないからだ。
そして、めったに発動する計画でないからこそ、議会独自での定期的な発動訓練が必須である。平時においてさえ経験値のない実務は、非常時には絶対に行い得ない。
最後に求められるのは、訓練や数少ない発動時の経験からの、計画の不断の見直しである。議会BCPに完成はない。常に見直しながら策定時の熱い思いを如何に継承できるかに、議会BCPの存在意義がかかっているのではないだろうか。
第104回 本会議場が国会の模倣でいいのか? は2025年6月12日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学デモクラシー創造研究所招聘研究員
元大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。