子どもの学びをみとる評価とこれからの学習活動の在り方 「何が身に付いたか」

トピック教育課題

2019.09.24

子どもの学びをみとる評価とこれからの学習活動の在り方
「何が身に付いたか」

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.1 2017年1月

京都大学大学院准教授 西岡加名恵

「何が身に付いたか」という視点

 中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(平成28年12月21日)(以下、「答申」と記す)では、新しい学習指導要領等に向けて改善すべき事項の一つとして、「何が身に付いたか」(学習評価の充実)が挙げられている。これまでカリキュラムを考える際には、「何を教えるのか」を主軸に構想しがちであったのに対し、教えた結果として子どもたちに何が身に付くのかを考えることが提案されていると言えるだろう。

 また、引き続き「目標に準拠した評価」を実施するものとされている。「目標に準拠した評価」は、本来、教育の結果として、子どもたちの身に付いた学力を評価することを通して、教育の効果を評価し、改善に役立てる趣旨のものである。その点、「答申」において、学習評価について、「子供の学びの評価にとどまらず、『カリキュラム・マネジメント』の中で、教育課程や学習・指導方法の評価と結び付け、……授業改善及び組織運営の改善」につなげていくことが提唱されていることは意義深い。評価を、各学校の授業・教育課程や組織運営の改善につなげるためには、各学校が目標や評価規準の設定権を持っていなくてはならない。「答申」において、「学習指導要領改訂を受けて作成される、学習評価の工夫改善に関する参考資料[以下、「参考資料」と記す]についても、詳細な基準ではなく、……教員が評価規準を作成し見取っていくために必要な手順を示すものとなることが望ましい」とされているのも、学校の自律性を尊重する方針を示唆していると言えよう。

 ただし、子どもたちの間の経済格差やそれを反映した学力・学習意欲の格差が拡大する中で、各学校にできることに限界があることも事実である。各学校の努力を求めるのみならず、教育行政による条件整備も必須であろう。

評価の三つの観点

 今回の学習指導要領改訂では、教育目標や内容を、資質・能力の三つの柱(①「知識・技能」、②「思考力・判断力・表現力等」、③「学びに向かう力・人間性等」)に基づき再整理するという方針が採られている。また、指導要録の観点別評価については、①「知識・技能」、②「思考・判断・表現」、③「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理するとされている(下線部は引用者による)。

 ここで、三つ目の観点が異なる理由は、「『学びに向かう力・人間性』には①『主体的に学習に取り組む態度』として観点別評価(学習状況を分析的に捉える)を通じて見取ることができる部分と、②観点別評価や評定にはなじまず、こうした評価では示しきれないことから個人内評価(個人のよい点や可能性、進歩の状況について評価する)を通じて見取る部分がある」からだとされている。「主体的に学習に取り組む態度」は、個々の教育場面で設定される具体的な目標として位置付けられうる。一方、感性や思いやりといった「人間性」は子どもたちの内奥にかかわるものであり、カリキュラム全体で涵養を図るべき目標として位置付けられるとしても、成績付けの対象としてはならない点を確認しておく必要がある。

 また、「関心・意欲・態度」の観点を「主体的に学習に取り組む態度」に変更した理由としては、「関心・意欲・態度」の観点については、「挙手の回数やノートの取り方など、性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面を捉える評価であるような誤解が払拭し切れていないのではないか、という問題点が長年指摘され現在に至る」からだと説明されている。

 「主体的に学習に取り組む態度」については、「子供たちが自ら学習の目標を持ち、進め方を見直しながら学習を進め、その過程を評価して新たな学習につなげるといった、学習に関する自己調整を行いながら、粘り強く知識・技能を獲得したり思考・判断・表現しようとしたりしているかどうかという、意思的な側面を捉えて評価することが求められる」とされている。

 さらに「答申」では、「これらの観点については、毎回の授業で全てを見取るのではなく、単元や題材を通じたまとまりの中で、学習・指導内容と評価の場面を適切に組み立てていくことが重要である」と述べられている。2001年改訂指導要録において「目標に準拠した評価」が導入された際には、指導要録の四つの観点について毎回の授業で全てを見取ろうとする例が多く見られた。その結果、知識やスキルを総合して使いこなすような思考力・判断力・表現力がかえって評価しづらくなったり、教師たちが過度に忙しくなったりしてしまうといった問題も生じた。それに対し、「答申」では、より長期的な見通しの中で、各観点の評価を適した場面で行うことが推奨されていると言えよう。具体的には、各観点に適した評価方法を選択した上で、どの評価方法をどの場面で用いるのかを明確にすることが有効だと考えられる。

 また、「答申」では、「参考資料」において、「複数の観点を一体的に見取ることも考えられることなどが示されることが求められる」と述べられている。実際のところ、たとえば各教科において、「思考力・判断力・表現力」と「主体的に学習に取り組む態度」は、子どもたちが課題に取り組む中で統合的に発揮されるものである。複数の観点を意識しつつも、「一体的に見取る」可能性を指摘したことは、より学習の実態に即した評価を実現する方向性を示したものとして注目しておきたい。

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特集 中教審答申を読む(1)─改訂の基本的方向

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