子どもの学びをみとる評価とこれからの学習活動の在り方 「何が身に付いたか」

トピック教育課題

2019.09.24

パフォーマンス評価の活用

 次に、評価方法について注目してみよう。「答申」では、「資質・能力のバランスのとれた学習評価を行っていくためには、指導と評価の一体化を図る中で、論述やレポートの作成、発表、グループでの話合い、作品の制作等といった多様な活動に取り組ませるパフォーマンス評価などを取り入れ、ペーパーテストの結果にとどまらない、多面的・多角的な評価を行っていくことが必要である」と述べられている。学力評価の方法には、図1に示したような様々なものがある。個々の知識・技能を身に付けているかを確認するには筆記テスト・実技テストが有効だが、「思考力・判断力・表現力」や「主体的に学習に取り組む態度」を育成していくためには、複数の知識やスキルを総合して使いこなすことを求めるようなパフォーマンス課題を用いることが必要だと考えられる(図2参照)。

 「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を実現するという視点からは、特に深く扱うべき目標・内容に対応させてパフォーマンス課題を位置づけるとともに、その課題に取り組むのに必要な力を身に付けさせるために主体的・対話的な学びを取り入れることが有効だと考えられる。実は、「答申」に先立ってまとめられた「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」の「論点整理」(平成26年3月)では、「教科等ならではの見方・考え方など教科等の本質に関わる」目標・内容を重視することが提言されていた。この考え方を引き継ぎ、「答申」でも、「各教科等の特質に応じた『見方・考え方』」を重視する方針が打ち出されている。

 そこで本稿では、各教科の本質的な「見方・考え方」を身に付けさせるために、各教科の「本質的な問い」に対応させてパフォーマンス課題を用いることを提案しておきたい。各教科には、その教科を貫くような包括的な「本質的な問い」がある。国語科や英語科であれば「何を、どのように読み/書き/話し合えばいいのか」、社会科であれば「私たちはどうすればより良い社会を形成することができるのか」、算数・数学科であれば「様々な量を、どのように測定すれば良いのか」といった問いが、様々な単元で繰り返し扱われる。包括的な「本質的な問い」を単元の教材に適用して具体化すると、単元の「本質的な問い」を設定することができる。パフォーマンス課題を作る際には、単元の「本質的な問い」を問わざるを得ないような状況設定をすると良い(注1)。たとえば、理科においては「身の回りの事象や現象は、どのように探究することができるだろうか?」、中でも粒子に関しては「物質を分類するには、物質のどのような性質や実験手段を使えばいいだろうか?」といった「本質的な問い」が考えられる。このような「本質的な問い」に対応させた課題としては、「実験助手であるあなたが、ある日実験室で薬品棚などを掃除していると、ラベルのはがれた黒い粉の入った瓶が出てきました。実験室にあるもので物質を調べる実験を考え、実験計画書を作って実際に行い、結果とその考察を書きなさい」(注2)といったものが考えらえる。

ポートフォリオ評価法の活用

 今回の「答申」のもう一つの特徴として、「子供たち自身が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにする」ことが目指されている点がある。「子供一人一人が、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり、振り返ったり」する「自己評価」が重視されているのである。これは、子どもたちに学習に関する自己調整を行う力を身に付けさせるとともに、自らにとっての学習の意義について考える機会を提供しようとするものだと考えられる。

 そのための方法として、「日々の記録やポートフォリオ」、「キャリア・パスポート(仮称)」の活用が推奨されている。「キャリア・パスポート」とは、「小学校から高等学校までの特別活動をはじめとしたキャリア教育に関わる活動について、学びのプロセスを記述し振り返ることができるポートフォリオ的な教材」だと説明されている。ポートフォリオとは、子どもの作品や自己評価の記録、教師の指導と評価の記録などをファイルや箱などに系統的に蓄積していくものを指す。

 ポートフォリオを有効に活用するためには、第一に、学習者と教師の間で、見通しを共有することが重要である。ポートフォリオをなぜ作るのか、意義は何か、何を残すのか、いつ、どのぐらいの期間をかけて作るのか、どう活用するのかといった点について、共通理解した上で取り組み始めることが求められる。第二に、蓄積した作品を編集する機会を設けることが必要である。日常的に資料をためておいたファイルから永久保存版の資料を選び取る、資料を整理して目次を作り、「はじめに」と「おわりに」などを書く、といった方法が考えられる。第三に、定期的に、ポートフォリオ検討会を行うことが重要である。ポートフォリオ検討会とは、子どもと教師やその他の関係者がポートフォリオを用いつつ学習の状況について話し合う場を意味している。そのような検討会は、子どもにとって到達点と課題、次の目標を確認し、見通しを持つ機会となるだけでなく、学習の成果を披露する場にもなる。さらに、子どもによる評価と教師による評価を照らし合わせることで、子どもたちに、より的確に自己評価をする力を身に付けさせる場面ともなることだろう。

 

[注]
1 詳細については、西岡加名恵「教科のカリキュラムづくり」(田村知子・村川雅弘・吉冨芳正・西岡加名恵編著『カリキュラムマネジメント・ハンドブック』ぎょうせい、2016年pp.96-109)を参照されたい。

2 井上典子先生の実践を踏まえて課題文を作成。大貫守「理科アクティブ・ラーニング」(西岡加名恵編著『「資質・能力」を育てるパフォーマンス評価―アクティブ・ラーニングをどう充実させるか』明治図書、2016年、p.60)を参照。

 

Profile
京都大学大学院准教授
西岡加名恵
にしおか・かなえ 英国バーミンガム大学にてPh.D(.Ed.)取得。鳴門教育大学講師を経て、現職。専門は教育方法学(カリキュラム論、教育評価論)。日本教育方法学会(常任理事)、日本カリキュラム学会(理事)などに所属。文部科学省「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」委員など。共編著に『カリキュラムマネジメント・ハンドブック』(ぎょうせい)、『新しい教育評価入門』(有斐閣)など。

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