各学校種を通した教育課程編成の在り方 「何を学ぶか」

トピック教育課題

2019.09.25

各学校種を通した教育課程編成の在り方
「何を学ぶか」

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.1 2017年1月

市川市教育長 田中庸惠

各学校種をつなぐもの

 本年度から小中一貫教育が制度化され、市川市でも、千葉県初となる義務教育学校「塩浜学園」が開校した。今まで別々の校舎で学んでいた児童生徒が身近に生活するようになったことで、子供たちの心や行動に、様々な面で目覚ましい変化が現れた。日常的な交流活動の中で、中学生はやさしく下学年をいたわり、小学生は、少し大人びた顔つきになった。学習や生活の規律も自然と整い、学校全体がやわらかな一体感に包まれた。

 ところが、学びの中核である「授業の在り方」となると、小中のつながりを生み出すのはそれほど簡単ではない。義務教育学校とはいえ、学習指導要領に沿って、従来と同じ教科書を使って授業をしている。小学校、中学校それぞれに、いままで培ってきた授業づくりの文化もある。これはそう簡単には変わらない。教科の系統性を意識して振り返り場面を設け、小中の教員が連携してよりきめ細かな指導を行うなど、様々な努力を重ねても、「授業の在り方」についての一貫性はなかなか現れない。

 「塩浜学園」では、特別の教科「塩浜ふるさと防災科」を設けて、9年生までの子供たちの学びを見通した探究的な学習を行っている。しかし、その他の教科では授業そのものの接続、一体化はまだまだその端緒についたところである。

 では、学校種を越えて「授業の在り方」をつないでいくもの、それは何だろうか。

「学ぶ意義」が「授業の在り方」をつなぐ

 答申によると、次期学習指導要領においては、教育課程について、知識や技能の内容に沿って整理するのみならず、それらを学ぶことでどのような力が身に付くのかまでを視野に入れていくとしている。

 「何を学ぶか」というと、「知識や技能」の項目に目を奪われがちだが、「どのような力が身に付くか」、すなわち、学ぶことで子供たちに育まれる「資質・能力」にも一層注目していくということである。

 昔から、教育現場で先輩から後輩に伝えられてきた言葉に、「教科書を教えるのではなく、教科書で教えよ」というものがある。教科書とは、「知識や技能」の象徴である。では、「知識や技能」ではなく、それを通して何を「教えよ」というのだろうか。

 それこそが、「知識や技能」にとどまらない、教科等を学ぶ目的であり、意義である。すなわち「何を学ぶか」の根本であり、育むべき資質・能力につながるものである。「知識や技能」のみにとらわれず、その向こうにある「学ぶ意義」を見通して「授業の在り方」を見直す。こうした営みが、学校種を越えて共有され、授業づくりの文化が同じ方向に向かう時、真の一貫教育が実現されるのではないだろうか。

 では、次期学習指導要領では、この「学ぶ意義」をどのようにとらえ、共有していくのであろうか。

「学ぶ意義」の中核は「見方・考え方」

 答申では、「各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすのが『見方・考え方』である」としている。

 現行の学習指導要領でも、理科において「科学的な見方・考え方を養う」として示されているが、次期学習指導要領では、この「見方・考え方」を全ての教科等にわたって改めて定義し、それを軸として授業改善の取組を活性化しようというのである。

 「見方・考え方」とは、「どのような視点で物事を捉え、どのように思考していくのか」ということである。この「見方・考え方」を養うことで、その教科特有の「資質・能力」を育てていくことになる。

 このことを明らかにしたものが、内容の列挙にとどまらない、次期学習指導要領が示すべき「何を学ぶか」という理念であると考える。

学習内容はどうなるか

 こういった次期学習指導要領の理念を豊かに実現していくためには、学びの質に加えて、量的な充実も欠かすことができない。子供たちの「深い学び」を実現する「見方・考え方」を育てるためには、十分な知識や概念も必要なのである。そのため、答申でも「学習内容の削減を行うことは適当でない」としている。学習内容を変えずに、学びの意義を捉え直すことによって、どのように授業を改善していくのか。その改革の方向を指し示す、次期学習指導要領を策定しなくてはならないのである。

新たな内容について十分な研究を

 また、現代的な諸課題に対応するため、一層の充実を図ったり、新たな枠組みを設けたりすることが求められる内容もある。

 小学校における外国語教育の改善・充実や、プログラミング教育の実施、中学校における、高等学校の新たな設置教科を見据えた指導内容の見直し、小学校で教科となる外国語の、小中でのより円滑な接続などは、今までの経緯や成果、問題点を踏まえた十分な研究と、確実な準備が必要である。

2030年の子供たちの未来に向けて

 「学びの地図」として示される次期学習指導要領は、2030年頃までを見通したものである。学校種を越えて、学ぶ意義を改めて問い直し共有すると同時に、新たな課題についても、十分な研究と準備をしていくことで、よりよい教育の未来を描いていきたい。

 

Profile
市川市教育長

田中庸惠
たなか・ようけい 昭和29年生まれ。千葉大学大学院修士課程を教育長在任中に修了。市川市中学校教員、千葉県教育委員会指導主事等を経て、平成15年市川市立第八中学校長。その後、市川市教育委員会義務教育課長・学校教育部長を経て、平成21年から現職。

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