DX時代におけるデジタル・コンテンツ著作権
ICT
2021.11.02
デジタル・コンテンツを取り巻く技術は、飛躍的に進歩しています。個々人によるデジタル・コンテンツである著作物の複製や送信が簡易となり、かつ、不特定多数者への発信が日常的になされることで、著作物のインターネット上での利用行為は、文化の形成および著作者の経済的利益や人格権に多大な影響を及ぼしています。このたび、(株)ぎょうせいは、このような状況下における著作権の問題を分析・解説した書籍として、『DX時代におけるデジタル・コンテンツ著作権』を発売します。コンピュータ・プログラムの著作権をめぐる法的問題を中心に理論・実務の両面から解説した本書をご活用いただきたく、その本文を抜粋して紹介します。
AIにより創作された著作物
近時、音楽や小説といった著作物の膨大なデータを用いて、自律的に新たな著作物を創作するAI(Artificial Intelligence)の開発およびその利用が、現実化しつつある。このようなAIにより新たにもたらされた作品は、そもそも著作物となり得るのか、仮に著作物となる場合、誰にその著作権が帰属するのかが議論されている。
先述のとおり、現行著作権法においては、人間が「思想又は感情を創作的に表現した」ものにのみ、著作物性が認められる。そのため、どれだけ美しい模様や音色であっても、それが人間により創作的に表現されたものでなければ、著作物には該当しない。また、象がどれだけ奇抜な絵画をキャンバスに描こうとも、それは人間の思想または感情の表現ではないのであって、やはり著作物性は認められない。このことと同様に、人間の思想または感情による創作的な関与をともなうことなく、AIが新たな作品を生成した場合には、その作品は、いかに美的感得性を強く有していたとしても、著作権法上、著作物とは認められないことになる。
ただし、人間がAIをあくまで創作のための道具として利用したに過ぎず、その人間が自身の思想または感情を、AIを用いて表現していると評価できる場合には、それにより創作された作品は著作物となるであろう。とはいえ、AIを利用して作品を創作するうえで、どの程度人間が関与していれば、その者に著作権が認められるかについては、一義的に判断することは困難であり、今後議論されるべき点であろう。
また、作品を生成するAIを開発した者は、作品生成に金銭的および技術的な投資をしているのであるから、AIによって生成された作品については、AI開発者に著作権を帰属させるべきとの考え方も理論上はあり得るものの、AI開発者は、個々の作品について創作的に関与したとはいえない以上、この考え方を採用することは難しいように思われる。仮に、このようなAI開発者に対して法的な保護を与えるのであれば、著作権法ではなく、別個の立法により、そのような保護を実現すべきであるとの見解もある(注)。
(注) 出井甫「AI創作物に関する著作権法上の問題とその対策案」パテント69巻15号(2016年)35頁、40頁以下
*本稿は、金井重彦=髙橋淳=宮川利彰著『DX時代におけるデジタル・コンテンツ著作権』の一部を抜粋したものです。