最新法律ウオッチング
最新法律ウオッチング―教育職員性暴力等防止法(2021年6月4日施行)
時事ニュース
2021.11.02
※2021年8月時点の内容です。
最新法律ウオッチング 第113回 教育職員性暴力等防止法
(『月刊 地方財務』2021年9月号)
2021年の通常国会において教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律が成立した。
教育職員等による児童生徒に対する性暴力等は、児童生徒の権利を著しく侵害し、児童生徒に対し生涯にわたって回復し難い心理的外傷その他の心身に対する重大な影響を与えるものであり、決して許されるものではない。19年度には、121名の公立学校教員が児童生徒に対するわいせつ行為を理由として懲戒免職となったが、現行の教育職員免許法は、このような教員であっても、一定期間が経過すれば、形式的な確認で再免許を授与しなければならない仕組みとなっており、これを改めるとともに、教育職員等による児童生徒に対する性暴力等の防止等を図る必要があると指摘されていた。
このような状況を踏まえ、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を推進するため、法案が衆議院の議員立法として提出され、成立した。
教育職員性暴力等防止法
●児童生徒性暴力等の禁止
教育職員等は、児童生徒性暴力等をしてはならないという禁止規定を定めることにより、教育職員等が児童生徒性暴力等を行うことは法律違反であり、懲戒処分の対象となることを明確にした。
なお、教育職員等とは、教育職員免許法に規定する教育職員と、学校の校長、副校長、教頭、実習助手、寄宿舎指導員をいうこととした。
また、児童生徒性暴力等とは、児童生徒等(学校に在籍する幼児、児童、生徒や18歳未満の者)に性交等をすることや児童生徒等をして性交等をさせること(児童生徒等から暴行、脅迫を受けて当該児童生徒等に性交等をした場合や児童生徒等の心身に有害な影響を与えるおそれがないと認められる特別の事情がある場合を除く)、児童生徒等にわいせつな行為をすることや児童生徒等をしてわいせつな行為をさせること等をいうこととした。これらは、現在の運用上、児童生徒等に対する性暴力等として懲戒免職処分の対象となり得る行為を列挙して定めたものであり、被害を受けた児童生徒等の同意や、当該児童生徒等に対する暴行、脅迫等の有無を問わないとされている。
●基本理念・国等の責務
基本理念として、教育職員等による児童生徒性暴力等が全ての児童生徒等の心身の健全な発達に関係する重大な問題であるという基本的認識の下に施策が行われなければならないこと等を定めた。
また、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関し、国、地方公共団体、任命権者、学校の設置者、学校、教育職員等の責務をそれぞれ定めた。
●基本指針等
文部科学大臣は、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な指針を定めるものとした。
また、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止に関する措置として、教育職員等や児童生徒等に対する啓発等について定めるとともに、児童生徒性暴力等を行ったことにより免許状が失効した者や取上げの処分を受けた者の氏名、免許状の失効・取上げの事由、原因となった事実等に関する情報に係るデータベースの整備等について定めた。
さらに、教育職員等による児童生徒性暴力等の早期発見やその対処に関する措置等について定めた。
●教育職員免許法の特例
児童生徒性暴力等を行ったことにより免許状が失効した者や取上げの処分を受けた者に対する教育職員免許法の特例を定め、これらの者に対する免許の再授与は、改善更生の状況その他その後の事情により再び免許を授与するのが適当であると認められる場合に限り、認められることとした。
都道府県の教育委員会は、再び免許状を授与するに当たっては、あらかじめ、都道府県教育職員免許状再授与審査会の意見を聴かなければならないこととした。
●施行期日
この法律は、公布(2021年6月4日)後1年以内(データベースの整備については2年以内)に施行される。
国会論議
国会では、なぜ教育職員等の対策を先行するのか、保育士、ベビーシッター、塾講師等の対策をどう進めるかについて質問があり、法案提出者から、時間的な制約もあり、着手できるところから着手するという認識の下で法案をまとめたが、児童生徒等と接する他の職業の者についても対策が必要という認識の下、法案の附則で、政府は、法施行後速やかに、児童生徒等の性的な被害を防止する観点から、児童生徒等と接する業務に従事する者の資格や児童生徒等に性的な被害を与えた者に係る照会制度の在り方等について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとしたとの説明がされた。