アフターコロナにおける被災者支援システムの活用(特集:ニューノーマル時代の防災・減災とレジリエンス)
地方自治
2021.09.30
この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2021年9月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。
アフターコロナにおける被災者支援システムの活用
(特集:ニューノーマル時代の防災・減災とレジリエンス)
地方公共団体情報システム機構
1 はじめに
地方公共団体情報システム機構(J-LIS)研究開発部では、地震や大雨等による大規模災害に備え、全国の市区町村で共通的に利用可能なシステムである「被災者支援システム」のソフトウェアを市区町村等に対して無償で提供しています。
被災者支援システムは、阪神・淡路大震災で被災した兵庫県西宮市において、震災発生直後から職員自らが災害業務のニーズを直に捉えて発想・構築し、実際に活用した実践的なシステムがベースとなっている点が特徴です(図-1)。
被災者支援システム(中核システム)は、住民基本台帳の情報を基盤にして被災者の属性情報を管理する被災者台帳と被害を受けた住家等の情報を管理する被災住家等台帳の二つの台帳で構成されており、刻一刻と変化する人的被害及び住家等被害の状況を記録・更新することができます。また、罹災証明書の交付をはじめ、被災住家等の調査票の出力、各種支援制度や義援金の処理等にも対応するなど、被災者の支援状況を総合的に管理する機能を有しています。さらに、サブシステムからも被災者支援システム(中核システム)を参照できるシステム構成となっているため、被災者支援システムの利用により、一元化された被災者台帳を元に、避難所や仮設住宅の管理運営といった一連の災害対応業務を効率的に実施することができます。
近年、ますます増加する大規模災害と多様化する被災者支援業務に対応するためには、システムの活用が不可欠となってきております。加えてこのコロナ禍において、密を避けた避難所の運営や、罹災証明書の発行で市区町村庁舎の窓口に人が殺到することのないような対策など、新しい対応が被災者支援業務にも求められています。
2 コロナ禍での被災者支援とシステム導入に向けた課題
2020年は、新型コロナウイルスの世界的な大流行により社会や暮らしが大きく変化することとなりました。そしてその変化は日常生活だけでなく、災害時の行動や、住民の意識にも影響を与えています。密を避けるために対面からリモートへ、行政サービスの申請も個人のスマートフォン等から行えるようになることが望まれています。こうした中で、どのように被災者支援業務を行っていくのかが、アフターコロナの行政に求められています。
J-LIS研究開発部では、被災者支援システムの提供の他にも、マイナンバーカードを活用した証明書のコンビニ交付の促進やマイナンバーカードアプリケーション搭載システム、自治体が共通的に利用できる情報システムの研究・開発等を実施しています。特にコンビニ交付は、コンビニエンスストア等の店舗に設置してあるキオスク端末(マルチコピー機)から、住民自らがマイナンバーカードをかざして画面操作を行うことで、市区町村が交付する住民票の写し等の証明書を取得することができるサービスで、「いつでも取れる」「どこでも取れる」「すぐに取れる」「なんでも取れる」「安心して取れる」を特徴としています。
このコンビニ交付サービスを活用した将来的な拡張機能として、罹災証明書の交付機能追加が考えられます(図-2)。被災時に罹災証明書を受け取ることができるようにすれば、窓口での交付に比べ密を避けることができます。過去の大規模災害では、市町村窓口に罹災証明書の交付を求める人々の長蛇の列ができ、交付まで数時間待ちという事例もありました。罹災証明書のコンビニ交付が実現すれば、こうした事例の解消に役立つことが期待されます。
こうしたアフターコロナのニーズに対応しうる利便性の高いシステムへの期待の一方で、罹災証明書の発行業務を行うために必要な災害時の被災者情報を管理する業務システムの導入を予定していない市区町村は依然として650団体以上あり、こうした団体へのシステムの普及が課題となっています。
J-LISが提供する被災者支援システムを導入する市区町村は、同システムをインストールするサーバ等のハードウェア機器の調達及び保守、インストール作業、住民情報(個人・世帯)等の初期データ登録等を、自らの負担で実施していただく必要があります。そこでJ-LISでは市区町村からの問合せに対応するため、「被災者支援システム全国サポートセンター」を設置し、市区町村による同システムの導入から運用、操作方法に至るまでをトータルに支援しています。また、市区町村からの要請に応じて被災者支援システムの説明会を実施し、同システムの普及促進を図っています。しかし、それでもなお、被災者支援システムのインストールから初期データ登録までの構築及び運用保守等の業務を市区町村の職員自らが実施するには、ある程度のITスキルが必要であること、また、そのような職員を十分に確保することができない市区町村では、当該業務を民間ベンダ等に委託するなどの対応が必要となることが、被災者支援システムを導入する際の一つのハードルになっていると考えられます。
3 被災者支援システムの普及に向けた近年の取り組み
こうした課題を念頭にJ-LISでは2020年度に、全国の市区町村が共同で利用可能な「基盤的クラウドシステム・サービスセンター」を構築し、住民情報データのバックアップ機能を提供することで主に小規模市町村におけるBCP対策に貢献するとともに、バックアップデータを活用した様々な付加機能を提供することで各団体の事務の効率化などを目的とし、様々な実証を行ってまいりました。そして2021年度は、内閣府において、J-LISが管理するバックアップセンター上に被災者台帳の作成等の被災者支援手続のための基盤的なシステム(以下、基盤的クラウドシステム)を整備する予定であり、当機構も事業協力者として実証構築事業に参加しております。
4 基盤的クラウドシステムの開発予定について
基盤的クラウドシステムで開発予定のサービスは大きく2点あります(図-3)。
1点目の被災者支援システム機能は、クラウド上でシステムを提供することにより、自治体におけるシステムの構築・維持の負担を低減し、災害時のBCP対策や、応援・受援の円滑化にも寄与します。
2点目のオンライン申請・発行、管理機能では、政府が運営するマイナポータルの「ぴったりサービス」の機能を活用し、被災者の方がPCまたはスマートフォンを用いて、罹災証明書の電子申請を行うことができるようになります。これにより、被災者は、役所に出向くことなく罹災証明書の申請・受取が可能になるとともに、自治体においても、これまで紙作業等で実施していた確認照合作業をシステム上で効率的に行うことができるようになり、迅速な罹災証明書の発行が可能になります。
全国の市区町村が共通して利用できるシステムを構築することにより運用コストの低減を図り、多くの自治体に安心してサービスを利用していただけるようにし、自治体におけるBCP対策と被災者支援システムの更なる普及促進に貢献していきたいと考えています。
5 おわりに
被災者支援業務は、発災の前後、期間を問わず様々な業務が必要となります。こうした中で迅速な被災者支援を行うための台帳管理は必要不可欠であり、システムによる管理は非常に有効性の高いものであると言えます。
J-LISでは、今年度内閣府で開発予定の基盤的クラウドシステムを引き継ぎ「自治体基盤クラウド」としてコンビニ交付とも連携した被災者支援サービスを2022年度4月以降に提供予定です。こうした被災者支援サービスが、アフターコロナに求められる自治体の支援業務の一助となれば幸いです。