「新・地方自治のミライ」 第16回 少子化のミライとストップ、少子化・地方元気戦略

時事ニュース

2023.02.17

本記事は、月刊『ガバナンス』2014年7月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

はじめに

 日本創成会議・人口問題検討分科会が、『ストップ少子化・地方元気戦略』を2014年5月8日付で公表した。かなりの数の市町村が「消滅」する予測を打ち出したこともあり、大きな関心を集めている。

 同会議は、「民間」有識者の組織(事務局は日本生産性本部内)であり、政府機関が関わった公的報告書ではない。しかし、そのメンバーを見ると、政府の審議会と見まがうほどである。その意味では、「民間」が設置した、文字通りの「私的諮問機関」とでも呼べよう。そこで、今回はこの報告書を採り上げて考察してみたい。

過疎・限界集落と市町村消滅

 個々の自治体レヴェルでは、1960年代からすでに人口減少=過疎が問題となっていた(過疎法は1970年制定)。引き続いて、少子高齢化が始まった。それを概念的に精緻化したのが、高齢化率を基本尺度とする限界集落である。市町村単位ではなく、集落単位に焦点を据えたところが特徴的ではあるが、基本スタンスは同じである。

 ただ、国全体としては総人口の人口減少局面に突入することが最近であったため、認識が遅れてきた。実際、合計特殊出生率の2以下への低下は、すでに1975年から見られる現象であり、人口減少は、ある意味で既定路線であったはずである。かつて、SF作家の小松左京は「日本沈没」を描いた(注)。今回の報告書は一部の市町村の消滅だけではなく、「日本消滅」を打ち出してもよかった。そのような意味で、本報告書は、政治的波紋に配慮したのか、「微温的」である。

(注)小松左京『日本沈没(上・下)』、1973 年、光文社。

 本報告書は、人口減少という「不都合な真実」を、「冷静」「正確」に認識するというスタンスである。しかし、「悲観論」を「益にならない」として却下している。全く「冷静」でも「正確」でもない。さらに、「若者や女性が活躍できる社会」は、「安倍政権と方向性は同じ」と主張している。つまり、為政者に訴えかけようと、大変に「情熱」的である。

二つの基本目標

 戦略の基本方針は、(1)人口減少の深刻な状況に対する国民の基本認識の共有、(2)長期総合対策、(3)国民の「希望出生率1.8」の実現(第1目標)、(4)子どもを産み育てやすい環境づくりに全政策を集中、(5)男性の問題としても取り組む、(6)財源は「高齢者世代から次世代への支援」として高齢者政策の見直しにより捻出、(7)地方から大都市への人の流れを変える(第2目標)、(8)選択と集中で地域の取り組みを支援、(9)生産年齢人口減少は、女性・高齢者・海外人材の活用で対処、(10)海外人材は「高度人材」中心、などである。

 10項目が並べられているが、基本目標は(3)と(7)の二つである。それを20か年の「長期ビジョン」と10か年の第1次・第2次の「総合戦略」で計画化する。

 第1基本目標の人口増加の達成のためには、出生率の上昇が必要になる。それには、地方圏に人間が沢山いる、という第2基本目標が必要になる、という論理構造である。現在の出生率の地域間分布は、相対的に、大都市圏で低く、地方圏で高いからである。かなり強引な論理であるが、ともかく、人口対策と地方圏対策を連結するには、このように議論を組み立てるしかない。

二つ(三つ?)の戦略

 第1基本目標に対する戦略が、「ストップ少子化戦略」である。そこでは、①「若者結婚子育て年収500万円モデル」、②結婚妊娠出産支援、③子育て支援、④多子世帯支援、⑤企業の働き方改革、⑥政策総点検、⑦高齢者政策見直し、などが掲げられている。

 もっとも、雇用破壊(⑤)が進展しているなかで、年収500万円(①)などまず現実性がない。時給1000円の非正規雇用だと、夫婦年間5000労働時間が必要である。困難な労働経済状況を改善せず、自治体が支援しても(②③④)、気休めにしかならない。結局、少子化対策費用を、高齢者政策をカットすることから捻出(⑦)するだけである。「少子化戦略をストップ」すると読むべきなのである。

 なお、「女性・人材活躍戦略」なるものも、掲げられている。基本目標が二つなのに、戦略が三つなのは不可解ではある。しかし、この点は簡単である。少子化対策は、生産年齢人口という意味で効果が発揮するのは、20年以上も先の話である。つまり、第1基本目標は、20年以上の無為無策を意味する。すると、短期的に、女性・高齢者・外国人を使うしかないという話になる。

 第2基本目標に対する戦略が、「地方元気戦略」である。具体的には、①「若者に魅力ある地域拠点都市」、②自治体の地域連携、③地域経済基盤づくり、④農林水産業再生、⑤地方へ人を呼び込む、ということが掲げられている。

 もっとも、こうした「戦略」は特に目新しいものでもないし、効果が見込めるかどうかは不明である。そもそも、過疎対策、一極集中是正は、戦後一貫して不可能だった。さらに、「東京オリンピックを節目」とすると位置づけており、全体としての整合性は理解しがたい。

 ただ、「少子化戦略」のストップが財務省的に、高齢者政策から少子化対策費用を捻出するのが本旨であるとすれば、「地方元気戦略」は総務省的に、既存の過疎政策から地方元気対策費用を捻出するのが本旨と読むべきであろう。つまり「地域拠点都市」に「選択と集中」させて、「新たな集積構造」を構築して、人口の「ダム機能」を目指そうというわけである。人口が「渇水」であるから、ダムはダムでも、渇水対策のための「溜池」である。

 「選択と集中」をされない過疎集落・地区、合併旧町村、過疎市町村を切り捨てる。従来の「地方元気戦略をストップ」する。ただ、せめて何とか、「地方拠点都市」を最前線にして「元気」を出そうという。地方圏一般を切り捨て大都市圏のみに集中する方針を採っていない意味では、道県や地方圏中堅市からは安堵されるかもしれない。

 グローバル経済では、発展途上国的な大都市圏への(スラム的高齢者の)集中が予測されるから、統治の観点からも、大都市圏に「流民」が雪崩込まないことを期待している。人口の「洪水」調節のための「調整池」「遊水地」でもある。つまり、負担を背負う地方拠点都市においても、「地方元気戦略をストップ」することになる。

第3の戦略こそが鍵

 地球温暖化は「不都合な真実」であるが、人口減少・少子化も「不都合な真実」である。対処方法の両極は以下の通りである。第1は、未来に予測される「真実」の方を変える戦略・方針を打ち出すことである。第2は、「真実」を前提に、「不都合」という認識枠組みや価値観を変えることである。

 「人間はいずれ死ぬ」ということは「不都合な真実」であるから、不老不死の薬を探すのも一つの対策である。「死ぬことは幸福である」という認識転換も、論理的には有り得る。しかし、両極のどちらでもないのが普通である。「死ぬ」ことは不可避の「真実」だとして、そのうえで、「不都合な死に方」と「好都合な死に方」の弁別を行う価値観を持ったうえで、後者にどのように向かうのかと戦略・方針を立てる。

 人口減少は、仮に少子化対策(第1の戦略)が「成功」したとしても、続く。本当は長期人口減少社会にどのような対策を打つべきかという、第3の戦略こそが鍵になるべきであった。しかし、同報告書は、従来の「中年男性労働者の長時間労働」の模倣の域を出ず、焼畑的・資源収奪的に、基礎方針(8)のように高齢者・女性・外国人を長時間労働させる戦略しか打ち出されていない。本当はこのような知的貧困こそが「不都合な真実」である。実は、二つの眩惑的戦略を打ち出すことで、同報告書は最も重要な論点として第3の戦略を真剣に考えることから、国民の目を逸らせているのである。

 

 

Profile
東京大学大学院法学政治学研究科/法学部・公共政策大学院教授
金井 利之 かない・としゆき
 1967年群馬県生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学助教授、東京大学助教授などを経て、2006年から同教授。94年から2年間オランダ国立ライデン大学社会科学部客員研究員。主な著書に『自治制度』(東京大学出版会、07年)、『分権改革の動態』(東京大学出版会、08年、共編著)、『実践自治体行政学』(第一法規、10年)、『原発と自治体』(岩波書店、12年)、『政策変容と制度設計』(ミネルヴァ、12年、共編著)、『地方創生の正体──なぜ地域政策は失敗するのか』(ちくま新書、15年、共著)、『原発被災地の復興シナリオ・プランニング』(公人の友社、16年、編著)、『行政学講義』(ちくま新書、18年)、『縮減社会の合意形成』(第一法規、18年、編著)、『自治体議会の取扱説明書』(第一法規、19年)、『行政学概説』(放送大学教育振興会、20年)、『ホーンブック地方自治〔新版〕』(北樹出版、20年、共著)、『コロナ対策禍の国と自治体』(ちくま新書、21年)、『原発事故被災自治体の再生と苦悩』(第一法規、21年、共編著)など。

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