徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第63話 見極める(2)

NEW地方税・財政

2020.02.26

徴収の智慧

第63話 見極める(2)

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長
鷲巣研二

『月刊 税』2019年9月号

処理の方向性を判断する

 ある対象を見極めるというときに私たちはどのようにしているだろうか。恐らく多くの方は、白か黒かとか本物か偽物かといったように、二者択一的な場面を想定されるのではないだろうか。しかし、実際にはそんなにシンプルではない場合も少なくない。なぜなら、求めているものが必ずしも常に一つであるとは限らないからだ。卑近な例でいえば、公務員の採用もそうである。たった一人だけ採用するという場合も絶対にないとは言えないかも知れないが、通常は、○○人採用予定とか若干名採用予定というのがほとんどであろう。そこでは筆記試験と面接考査による二段構えの採用試験が行われるのが通例であろうし、採用予定者の何倍かの応募者が試験(考査)というふるいにかけられて、最終的に採用予定人数の者が採用予定候補者名簿に登載されることになるわけだ。つまりは、公務員としてふさわしい能力と人格を兼ね備えた人物であるかどうかが見極められるということである。

 翻って滞納整理の場面で最も肝心な見極めと言えば、ある滞納事案を今後「滞納処分の方向で整理していくのか、それとも納税緩和措置の方向で整理していくのか」処理の方向性を判断することである。この見極めのために必要な判断材料は、調査によって収集した滞納者に関する客観的な情報であり、事実である。具体的には、滞納者の収入であり、支出であり、財産(積極財産だけでなく、消極財産も含む)であり、その他の特段の事情である。収入・支出・財産は、滞納者の納付能力を判定するために必要な情報であり、その他の特段の事情とは、例えば、失業した場合や、疾病や怪我により入院した場合、盗難に遭ったなど納付資力に影響を及ぼすような特殊な事情(事実)のことである。調査によって滞納者につきこれらの情報や事情(事実)が認められるのか、それとも認められないのかを明確にする必要がある。その上で、認められる場合は、それらが税法のいずれの規定の要件を充足しているのか当てはめ(判断)をして処理の方向性を見極めていくのである。この一連の過程が滞納整理事務の本体であり、正に肝心なところにほかならないのである。

受動的な態度ではなく、能動的な態度で

 ところで、読者諸兄の職場で行われている滞納整理事務はいかがであろうか。以上述べてきた滞納整理事務の本体たる「調査によって収集した滞納者に関する客観的な情報及び事実」を税法の規定に当てはめて事案を見極め、そして処理の方向性を判断しているだろうか。納税交渉だとか粘り強く(滞納者を)説得するなどと称して、納付能力の判断や税法が定める要件への当てはめに必要のない「無駄話(=滞納整理に関係のない話)」に多くの時間を割いていたりしないだろうか。処理の方向性を見極めるために必要なのは、「客観的な情報」であり「客観的な事実」であって、それ以外の行政批判や担当者への個人攻撃、あるいは毒にも薬にもならない世間話などは聞く必要がないし、万一そのような話になったときは、徴税吏員はその相手をするのではなく、納付能力の判断や税法が定める要件への当てはめに必要な話へと軌道修正をさせるべく指導しなければならない。唯々諾々と滞納者の話に引きずられてはならないのである。滞納者と接触したときは、受動的な態度ではなく、能動的な態度で主導権をもって接する必要がある。

必要なことと必要でないこと

 いま地方税の滞納整理の最前線では、少なからぬ職場において「担当者一人当たりの受け持ち件数が多すぎて処理が追いつかない」という声も聞こえてくるというのに、徴税吏員たるもの行政批判や担当者への個人攻撃など(滞納整理の)処理の方向性を見極めるのに役立たぬ話など聞いていてはだめである。一般常識として「相手の話を遮る」とか「話の腰を折る」というのは失礼に当たることであり、してはならないのであるが、滞納整理は法律に基づいた事務であり、行政サービスの原資たる税収を効率的に確保する(地方自治法2⑭)ために「必要なことと必要でないこと」とを峻別して事務処理に当たる必要があるのであって、滞納者とは「言葉遣いは丁寧に、姿勢は毅然として」接するよう心掛けてほしいものである。

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元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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