政策形成力の磨き方 - その7 デザイン力

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2024.02.29

★本記事のポイント★
1 政策のデザインは、原因、改善すべき現状、解決策、望ましい状況の因果関係の流れを明確にして、問題の全体構造を理解したうえで、望ましい状況を達成できる解決策を模索すること。2 ゴミ集積場の不法投棄の問題について、望ましい状況を想定し政策案の目的や手段を考察する。 3 大きすぎる問題で、望ましい状況を直観的に想定するのが困難なものについては、問題の構造が明らかになるように分解して考えることが必要。

 

1.デザイン力

 政策のデザインは、原因、改善すべき現状、解決策、望ましい状況の因果関係の流れを明確にして、問題の全体構造を理解したうえで、望ましい状況を達成できる解決策を模索することになります。

 これまで何度か紹介しました「問題の分析から政策のデザインに至る一連の知的活動には、因果関係についての推論に加えて、公共政策・政府政策を通して実現しようとする望ましい将来の状態を思い描き、その状態に到達するための道筋をデザインするという、豊かな構想力と想像力を要求する思考のプロセスが含まれている」という論述も、同様の趣旨だと思います。
 望ましい状況については、法令の目的規定、理念規定などの理解を深めておくことにより、社会的正義・公共性の理念を探り、具体的な問題において望ましい状況を思い浮かぶようにすることが重要だと思います。
 そして、望ましい状況と改善すべき現状とのギャップを埋めることは、現状の問題に関する原因を突き止め、その原因を取り除く方策を考えることです。この点について、『政策思考力入門』では、政策に対する仮説設定に関して、観察と分析に基づき認識した共通点、類似点や相違点から政策によって解決しようとする課題と高い因果関係を持つ原因を模索することとしています
 そして、解決策を政策の内容である目的と手段を表現する際には、「政策形成の職人芸」の第13回以降でお示しした目的と手段に関する知識が役立つと思います。
 なお、手段の表現には、いろいろな知識が必要ですが、手段の基本的な形である手法が実際の法令ではどのように規定されているかを理解すると手段の構成・内容の理解も深まるのではないかと思い、「条例化の関門」の第11回では「政策手法の規定例」 (https://shop.gyosei.jp/user_data/pdf/seisaku_kiteirei.pdf)を参照できるようにしておきました。

 

2.事例で考えましょう

 <事例>
 本稿の第3回で例にあげたゴミ集積場の不法投棄の問題について、望ましい状況を想定し政策案の目的や手段を検討しましょう。

 <考察>
 この場合、望ましい状況は、ゴミ集積場の不法投棄が減少することです。
 そして、調査・分析の結果、次のような問題に関する構図を描くことができます。

 この場合は、望ましい状況と問題とされた現状とのギャップを埋める方策については、調査した資料に基づく情報から、自治会の啓蒙活動ということが明らかになりました。これを前提として、政策の目的と手段を考えていくことになります。
 まず、政策の目的は、不法投棄が減少し生活環境が向上することでしょう。目的を考える際、「生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする」(廃棄物の処理及び清掃に関する法律第1条)、「生活環境の保全及び公衆衛生の向上並びに資源が循環して利用される都市の形成を図り、もって都民の健康で快適な生活を確保することを目的とする」(東京都廃棄物条例第1条)のような廃棄物処理に関する法令の目的規定などの文言を参照しています。
 次に、政策の手段は、不法投棄をしないように行動変容を起こすことです。人の行動を変容させるための手法としては、強制、誘導、自主性の助長などがありますが、この事例の場合は、調査・分析の結果から、自治体が啓発したり、自治会の啓蒙活動を誘導するような手段が思い浮かびます。手段を考える際、「国、都道府県及び市町村は、廃棄物の排出を抑制し、及びその適正な処理を確保するため、これらに関する国民及び事業者の意識の啓発を図るよう努めなければならない」(廃棄物の処理及び清掃に関する法律第4条第4項)、「国及び地方公共団体は、海岸漂着物等の処理等に関する活動に取り組む民間の団体等が果たしている役割の重要性に留意し、これらの民間の団体等との緊密な連携の確保及びその活動に対する支援に努めるものとする」(美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律第25条第1項)などの文言を参照しています。

 

3.望ましい状況の想定が難しい場合

 ただ、この事例のように、問題が顕在化しており、その解決の方向性や望ましい状況も直観的に想定できるものもありますが、望ましい状況を直観的に想定することが難しい場合もあります。例えば、今後さらに深刻になると予想される少子高齢化・人口減少社会における社会保障を持続可能なものとすることは、公共政策の取り組むべき問題でしょうが、大きすぎる問題で、望ましい状況を直観的に想定するのが困難です
 このような大きすぎる問題については、問題の構造が明らかになるように分解して考えることが必要だと思います。例えば、全世代型社会保障構築会議の報告書(令和4年12月16日)では、社会保障全般にわたる持続可能な改革を検討して、こども・子育て支援の充実、働き方に中立的な社会保障制度等の構築、医療・介護制度の改革、地域共生社会の実現などの項目ごとに「今後の改革の工程」が示されています。
 このように分解すれば、問題の構造が明らかとなり、望ましい状況も想定しやすくなると思います。例えば、介護制度については、今後、介護を要する人口が急増するのに対して、生産年齢人口が減少する中で、介護人材の不足が深刻化するおそれがあるとされています。そうすると、この問題についての望ましい状況としては、介護人材の確保となり、解決策としては、処遇や職場環境の改善が考えられます。

 ただ、このように問題を分割すると、個別の解決策は得やすくなるかもしれませんが、財源の制約、社会保障制度全体の中でのバランスなどを考えると、問題全体の中で個別の解決策をどの程度実現できるかはさらに検討しなければならないでしょう。

 

1 足立幸男『公共政策学とは何か』(ミネルヴァ書房、2009年)32頁。 2 同書119頁。 3 社会保障は、社会保険(年金・医療・介護)、社会福祉(障害者、母子家庭などの支援)、公的扶助(生活保護)、保健医療・公衆衛生(国民の健康を図る)からなるとされています。厚生労働省HP参照。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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