条例化の関門 その1 手順の概要

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2023.04.26

★本記事のポイント★
1 法的検討については、政策法務、法制執務、憲法、行政法等の書物で解説されている理論を理解すれば、「職人芸」の出る幕は少ない。 2 政策は、法令としての性格に適合すること、条例の所管事項であること、法律との関係において適法であること、憲法に適合することなどの関門を通過して条例になる。 3 ワクチン接種に何らかのメリットを与え、あるいは、不接種に何らかのデメリットをかけて、ワクチン接種を誘導する政策について、条例立案の法的検討を行う際の検討事項(条例化の関門)を示す。

 ぎょうせいオンラインで連載しました「政策形成の職人芸」(以下「前作」といいます。)では、政策形成に必要なスキルについて考察しました。折角、政策形成に必要なスキルを考察したにもかかわらず、政策形成で終わり条例立案について論じないのは中途半端だと思い、政策を条例にする際の検討事項等について考察したいと思います。
「政策形成の職人芸」については、以下より閲覧ください。
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1.法的検討に「職人芸」はあるか?

 前作の第1回で述べたように、条例立案においては、政策をどう立てるか(政策形成)、政策をどのように条例にしていくか(法的検討)というプロセスがありますが、政策形成については、法的検討と比較すると、検討の手順・内容は、十分には定型化されていないように思い、前作においては、政策法務や公共政策学の書物で解説されている理論とともに政策形成に必要とされる経験に基づくスキル「職人芸」について考察しました。
 それと比較すれば、法的検討については、検討の対象となる政策が特定されているとともに、条例の所管事項、法律と条例との関係、憲法適合性など、検討の手順・内容がある程度定型化されており、それぞれについて参照すべき判例・学説の蓄積があります。法的検討については、政策法務、法制執務、憲法、行政法等の書物で解説されている理論を理解すれば、「職人芸」の出る幕は少ないのではないかと思います。
 また、条例の作成に関する書物も多く出版されていて、皆さんも条例作成に関する知識をお持ちだと思いますので、本稿では、その知識を前提に、前作の第16回で事例としてあげたワクチン接種促進政策の条例化について考察したいと思います。皆さんがこの応用問題を考えていただくことにより、政策形成から条例立案の法的検討に至る一連のプロセスの理解を深めていただければ幸いです。

 

2.法的検討の手順の概要

 社会の現実あるいは社会状況に対応して何らかの方策の必要性が認識され、政策が形成されます。その政策のうちで法的な手段を利用するものが、条例等の法令となります。それなら、条例となるための要件を示す必要がありますが、筆者は、法令としての性格に適合すること、条例の所管事項であること、法律との関係において適法であること、憲法に適合することが必要だと考えます。つまり、政策がこのような関門を通過して条例になるというイメージです。前作の第12回で述べたように、法的検討には政策を型にはめるような批判的な思考方法が必要だと考えていますので、本稿では、条例化の関門を設けて法的検討のプロセスを深掘りしたいと思います。
 なお、次に掲げる内閣法制局の法令審査の様子から、法律と条例との違いは別として、法令審査の概要と厳しさが理解されると思います。

終日でも終夜でも納得がゆくまで時間をかけて、①当該省庁が行いたい政策は何か、②当該政策は法律をもってしないと行い得ないものか、③当該政策は条文に正確に表現されているか、④表現(用語・排列等を含む。)は既存の用例に倣っているか、⑤条文全体(一部改正の場合は改正後の全条文)が論理一貫したものとなっているか、⑥条文に規定された作用・組織等が同種・類似の作用・組織等を規定した他の法律と比べて“相場„を外れたものとなっていないか、先例がないものには相応の理屈が用意されているか等が(総じて穏やかな口調ながら)徹底的に問い質される。出来ては壊され、出来ては壊されているうちに、全体を通しで審査する「一読」に入るまで数週間を費やすことも珍しくない。・・・⑥は既存法秩序との整合性を確保するための“牴触性審査„であり、侵害作用について行われる場合には違憲審査そのものとなる。⑥の理屈は、日参の挙句それぞれ一枚紙に纏められ、論点集の骨格をなすことになる

 このうち、本稿では、主として法的検討の内容的な側面について考察します。
 なお、前作の第13回~第16回で、政策を構成する目的と手段についてお話ししましたが、法的検討を行う際は、この目的と手段を常に念頭においてください。条例だけでなく法令立案の際には、白紙で検討すると取り留めのない検討になりかねませんので、検討の対象となる案が必要です。また、前述のように、法的検討では、様々な関門を通過して条例が出来上がりますが、検討の対象となる案がないと、問題点のみ浮かび条例化が進まないことにもなりかねません。条例の案文を想定しつつ問題点を考える方が、条例化が進むと思います。

 

3.ワクチン接種促進政策の条例化

 前作の第16回において、新型コロナウイルスのワクチン接種を促進する政策を考察しました。そのうち、ワクチン接種に何らかのメリットを与え、あるいは、不接種に何らかのデメリットをかけて、ワクチン接種を誘導する政策、具体的には、ワクチン接種をすると何らかの特典を与える、あるいは、ワクチン接種証明書を提示しなければ飲食店、劇場等のような多数の人が利用する施設に入場できないという政策を採るとして、条例立案の法的検討を行いましょう。
 その際には、次のような検討事項があるでしょう。これらは、とりもなおさず条例化の関門となる事項で、すべてクリアできれば政策が条例となります。

Q1 これらの政策には、条例等の法令が必要でしょうか。
Q2 これらの政策は、条例で定めることができる事項でしょうか。
Q3 これらの政策は、関係する法律との関係で適法でしょうか。
Q4 これらの政策は、憲法に適合しているでしょうか。

 皆さんもすでに答えをお持ちかもしれませんが、次回以降、これらの事項について、法的検討の手順に沿って考察していきたいと思います。

 

1 仲野武志「内閣法制局の印象と公法学の課題」北大法学論集61巻6号(2011年)190頁以下参照。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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