公務員のための人材マネジメント

高嶋直人

「文章を直し過ぎない」――『公務員のための 人材マネジメントの教科書 部下を育て活かす90の手法』(高嶋直人/著)より

キャリア

2019.11.21

「文章を直し過ぎない」

 (株)ぎょうせいはこのほど、『公務員のための 人材マネジメントの教科書 部下を育て活かす90の手法』(高嶋直人/著)を公刊いたしました。人材育成を推進する管理職だけでなく、基本を学んでステップアップしていく若手層にも役立つ内容です。具体例を交えつつ軽快な語り口で解説する本書から、内容を一部抜粋してお届けします。(編集部)

部下の文章は全面的に添削すべきではない

 「部下の文章を責任持って具体的に直すのが上司の役割」と教わってきた人からすると「文章を直しすぎない」ということが果たして部下のモチベーションを引き出す手法なのかと疑問に思われるかもしれません。上司たるもの部下の文章を上手に直せるよう文章力を磨いておくべしというのはその通りです。しかし、部下の文章を全面的に添削すべきではありません。
 なぜなら、部下の文章を「上書き」のように全面的に書き直す行為は、部下からさまざまなモチベーションの要素を奪う行為に他ならないからです。上書きするような直し方は、「達成感」、「自律性」、「有能感」といったモチベーションの要素を奪います。文章を直す場合は、必要最小限に行うことが肝心です。
 「上司自らがやってみせるのが、育成の基本では?」と疑問に思われるかもしれません。育成とモチベーションの関係は複雑です。モチベーションが高まれば育成に繋がることがあります。しかし、育成とモチベーションが常に両立する訳ではありません。文章を直す行為は育成には必要でも、モチベーションを下げるリスクがあります。だからこそ、両立を図るため、必要最小限に留めることが必要になってきます。

部下を他律的にしてはならない

 モチベーションと育成の両立を図るためには、文章の一部については上書きするほど直したとしても、文章の全ては添削しないという方法がよいでしょう。
 私は、「課長になったら自らペンを持ってはならない」と考えて来ました。もどかしい自分の気持ちを抑えてでも、部下を他律的にしてはならないと考えたからです。
 文章を添削された場合、面前で不満を漏らす部下はいません。しかし、面前で直されることに納得する部下ばかりではありません。文章は手段です。内容の修正であれば内容の修正を指示すれば足り、文章力が足りないせいであれば、手本となる過去の文章に当たらせば済みます。
 昔は部下が紙で上司に提出し、上司は文字通りペンを取り、赤色インクで加筆修正をしました。その方法だと元の文章をできる限り活かそうとして一定の抑制が働きます。しかし、今は部下に上司宛てに電子情報で文章案を送らせ、上司自ら修文することも珍しくありません。抑制が働かず全面的に上書きして趣味レベルと言える修正までしてしまうことも増えました。
 上司の修正が客観的に見て改悪である場合もあります。言質をとられない「お役所言葉」への変換に過ぎない場合もあります。部下の文章案にはそのような言葉を改革しようという思いが込められているかもしれません。それを書き直すとモチベーションは下がります。
 上司は部下の文章を添削し、全面的に書き直すようなことをしてはなりません。できるだけ「部下の仕事」として残すよう配慮しましょう。そのような配慮が部下のモチベーションを引き出します。

「文章を直し過ぎない」POINT

・部下の文章を直しすぎる行為は、モチベーションを引き出す要素を部下から奪う行為に他ならない。
・育成とモチベーションの両立を目指そう。
・修正は最小限に留め、「部下の仕事」として残るよう配慮しよう。

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公務員のための 人材マネジメントの教科書 部下を育て活かす90の手法

2019年10月 発売

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高嶋直人

人事院 公務員研修所客員教授

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。人事院公務員研修所主任教授、財務省財務総合政策研究所研修部長などを経て現職。人事院、財務省、国土交通省、自治大学校、市町村アカデミー、マッセOSAKA、東北自治研修所、全国の自治体などにおいて「マネジメント」「リーダーシップ」「働き方改革」「ハラスメント防止」等の研修講師を務める。月刊『ガバナンス』に「人財を育てる“働きがい”改革」連載中。

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