
自治体債券運用のイマ
【自治体債券運用のイマ 第8回】高知県グリーンボンド個人向けスタートで広がる顧客層/高知県庁
NEW地方自治
2026.06.03
目次
出典書籍:月刊『地方財務』2026年6月号
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月刊 地方財務 2026年6月号
特別企画:令和8年度地域力創造施策と地方財政措置
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,870 円(税込み)
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【自治体債券運用のイマ 第8回】
高知県グリーンボンド個人向けスタートで広がる顧客層/高知県庁
高知県グリーンボンド個人向けスタートで広がる顧客層/高知県庁
高知県が四国の自治体として初めてグリーンボンドを発行したのは2023年(令和5年)3月。発行額50億円に対して応募額は171億円(応募倍率約3.4倍)と市場に好感されたことで、それ以降、毎年発行を続け、地球温暖化対策の安定的な財源として機能している。さらに25年からは個人向け債を発行し、投資家層の拡大にも繋がっている。スタートから5年度目を迎えた高知県に、財政課と会計管理課の皆さんを訪ねて話を聞いた。
2003年4月、分権改革による地方独自課税の機運の高まりのなか、高知県が全国に先駆け導入したのは森林環境税だった。同税は森林の公益的機能に着目し、森林や水源涵養林の保護を趣旨としたもの。県土の84%が森林という森林県ならではのこの新税は、個人、法人ともに県民税に500円を一律に上乗せ徴収するかたちでスタート。税収を年間約1億4000万円程度と見込み、県はその資金を活用した基金を設置。森林の間伐や野生動物の食害防止等の事業費に充てるとともに、県民向けの環境学習の費用としても活用した。この取り組みには他自治体も追随。課税団体が全国に広がった。「豊富な自然資源を有する高知県だからこそ、この恵みを次世代へとつないでいかないといけないという思いが根付いているのは確かです」と語る高知県総務部財政課課長補佐の永倉慶太さん。その言葉のなかには課題解決先進県として、いち早く森林環境税を導入し、森林環境の保全に取り組んできた自負がうかがえる。

高知県財政課課長補佐・永倉慶太さん。
人口約63万8,300人(令和8年4月1日推計)。四国地方南部に位置し、県庁所在地は高知市。面積は四国最大で、太平洋を望む扇状の海岸線や四万十川・仁淀川の清流、県域の8割超を占める森林などが特徴だ。カツオをはじめとした海鮮や山の幸に恵まれ、「土佐和紙」の伝統工芸や「よさこい祭り」、献杯の文化も色濃く残る。令和6年度一般会計歳出決算は約4,905億円、令和8年度一般会計当初予算は約5,070億円。

1962年竣工。高知城の下屋敷跡。
「高知県元気な未来創造戦略」とグリーン化への取り組み
高知県の推計人口は、現在約64万人(2026年(令和8年)4月1日現在)。温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、ナス・みょうが等の農産物は生産量日本一を誇るなど、国内屈指の農業県といえる。だが、将来にわたり持続可能な県政運営を展望するうえで気がかりなのは、人口減少だ。県は24年3月に「高知県元気な未来創造戦略」(以下「未来戦略」)を策定し、活力ある高知県を実現していくために若年人口の減少を食い止め、持続可能な人口構造への転換を目指すこととした。未来戦略は「将来を担う若者が、地域地域で魅力ある仕事に就き、いきいきと住み続けられる元気な高知県」の実現に向け、2060年の人口を55.7万人に押しとどめる目標を設定。「①魅力ある仕事をつくり、若者の定着につなげる」、「②結婚の希望をかなえる」、「③こどもを生み、育てたい希望をかなえる」、という3本柱の政策を推進している。
高知県総務部財政課チーフ(公債・基金担当)の弘末尚史さんも「若年層の県外転出が多い事情に加え、男女別に見ると一貫して女性の転出が男性を上回っている状況」と分析したうえで、「高知県に残ってもらう、もしくは、いったん出ても戻っていただくためには、魅力ある仕事が必要。まず魅力ある仕事をつくって若年層の定着につなげ、出会いや結婚を後押しし、子どもを産み育てる希望を叶える取り組みを進めているところ」と説明する。
このように、人口減少への対策が喫緊の課題と位置付ける高知県だが、実はもうひとつ、同じ文脈で重要と未来戦略が位置付けるのがグリーン化の取り組みだ。県は2020年12月に「2050年カーボンニュートラル実現」を宣言。21年4月には「環境基本計画第5次計画」を、22年3月には「脱炭素社会推進アクションプラン」をそれぞれ策定して環境政策の方向を鮮明にした。しかも、今後はカーボンニュートラルに貢献する新技術・商品開発が経済成長を牽引するとして、「経済と環境の好循環」にも挑むと謳っている。つまり、地球温暖化対策は経済成長の制約的な要因ではなく、むしろ成長の原動力になるという。そのため、アクションプランの柱として、①CO2 の削減に向けた取組の推進、②グリーン化関連産業の育成、③オール高知での取組の推進の3つを据え、CO2 削減には再生可能エネルギーの導入促進等を、グリーン化関連産業育成には脱炭素に繋がる新たな製品・サービスの開発の支援等を、オール高知の取り組みには県の率先垂範やSDGs推進企業登録促進等の公民協働の強化をそれぞれ掲げている。
このように、高知県の人口減少対策とグリーン化の取り組みは、実は相互に関連する政策目標なのである。

高知県総務部財政課チーフ(公債・基金担当)弘末尚史さん。
四国初のグリーンボンドを発行
では、これら多様な事業に要する費用をどう賄うのか。弘末さんは近年の動向について次のように説明する。
「従来、地方債の借入先は公的部門や地元金融機関の縁故債が中心でした。そうした中で、資金調達の手段を多様化させ、安定的な調達を行おうという趣旨で2013年から市場公募債をスタートさせ、毎年100億円ずつ借り入れています。さらに4年前からは地球温暖化対策に充てるグリーンボンドを発行して、さらなる分散化を図っているところです」
高知県のグリーンボンド発行は2023年3月のこと。四国の自治体として初めてのチャレンジだった。その目的はアクションプランに沿った気候変動の緩和策や適応策を推進するための事業資金調達にあったが、行政・企業・団体等のさまざまなステークホルダーとの連携を通じ、「オール高知」による対策を金融面から支えるしくみづくりも狙いとした。発行額は50億円。応募額は171億円で応募倍率は3.4倍となり、即日で完売した。
弘末さんはグリーンボンドの利点について、「まず環境関連事業をPRできることにあります。縁故債の場合は、充当事業を広くお知らせする機会があまりないのですが、グリーンボンドはIR活動を通じて高知県の取り組みを知っていただけます。また、金利面では他の市場公募債よりも低利率で調達できる、グリーニアムを確保できることも大きな利点です」と語る。その説明のとおり、高知県では広く投資を呼びかけるため、濵田省司知事自らが先頭に立ちIR活動を展開。調達資金の使途やプロジェクトの評価等について定めたフレームワークを事前に公開。起債翌年度には「資金充当状況レポーティング」によって実際の充当プロジェクトと充当金額を開示した。「インパクト・レポーティング」では環境改善効果に関する項目が公にされている。具体的には、適格プロジェクトとレポーティング項目に基づき、起債翌年度に県HP等で公表される(表参照)。
表 令和6年度適格プロジェクトとレポーティング項目
| 適格プロジェクト | レポーティング項目 |
|---|---|
| ・県有施設への太陽光発電施設の導入 |
・整備事業実績 ・CO2排出削減量 ・年間発電量 |
|
・県有施設の設備更新(空調)等による環境負荷低減 ・LED化の推進 |
・整備実績 ・県有施設の設備更新(空調)やLEDの導入・入替により実現したエネルギー消費量の削減量 ・温室効果ガスの排出削減量 |
|
・公用車への電動車導入の推進 ・電気自動車充電設備の整備 |
・電動車、電気自動車充電設備の導入、整備実績 ・温室効果ガスの排出削減量 |
|
・森林整備 ・公共事業や公共施設での県産材の率先利用 |
・実施したプロジェクトの箇所数、箇所名、整備状況 ・県産材の使用状況 |
|
【水害対策】 ・河川整備、放水路・ため池整備、浚渫事業 【土砂災害対策】 ・砂防・傾斜・地すべり対策 ・道路整備(法面対策、緊急輸送道路整備等) |
・実施したプロジェクトの箇所数、箇所名、整備面積、被害軽減効果等 |
|
【高潮・高波対策】 ・防波堤や海岸堤防の整備 |
|
|
・希少野性生物の保全 ・植物の情報収集と標本の適正管理 ・植物多様性保全のための教育・研究活動拠点の整備 |
・整備概要 ・保全実績 ・教育活動の概要、実績 ・研究活動の概要、実績 |
このように説明責任を果たし、事業の透明性が確保され、事業効果も客観化できることで、投資家の信頼性が高まることもグリーンボンドの特徴といえる。とはいえ、公債・基金全般を担当する財政課にとって、IR資料等、きめ細かい資料作成は大きな事務負担になるのではないか。弘末さんは、「導入当初より実務的な蓄積は増えましたが、どういう説明が投資家に“刺さる”のか、県側では十分把握できない部分もある」ため、主幹事社に「資料の作成をはじめノウハウの提供を受けています」と打ち明ける。サポートにあたる大和証券デット・キャピタルマーケット第二部の平澤里佳さんも「IR資料更新等は高知県さんにかなり事務負担がかかりますから、主幹事社として発行実務だけでなく、資料のデザインや内容の更新までお手伝いさせていただいています」とバックアップに力を入れていると話す。2025年度に高知県が初めて個人枠(3億円)を設けて募集した際も、顧客層の裾野の拡大をという県の意向に、同社による市場動向の情報提供が生きたという。

高知県会計管理課課長補佐兼チーフ(資金・国費担当)・
馬殿昌彦さん。
投資表明が示すプロジェクトへの期待
グリーンボンドにはもうひとつ大きな特徴がある。それが投資表明だ。発行されたグリーンボンドの趣旨に賛同して投資する企業・団体等の法人は、投資行為を公に宣言できる。高知県グリーンボンドの場合、「投資表明投資家一覧」が県HPに掲載されると共に、投資家は自社のHPに投資を行った旨を掲載するなどして、環境政策に貢献する企業(団体)というイメージをアピールできるようになる。
高知県ではこれまで4回の募集に対してのべ400件を超える団体が投資表明している。しかも県内の金融機関、民間企業、県内市町村等が名を連ねる。これには「主幹事社のノウハウを借りながら県内投資家を意識した取り組みを行っていて、県内企業向けのメルマガ配信やセミナー開催等の効果が出ています」と弘末さんは話す。平澤さんも「高知県は県内でESG投資の裾野を広げようと努力されており、SDGs推進企業登録制度を推進しつつ地域課題とも連動させたセミナーを実施されています」と取組を高く評価し、「弊社も四国銀行との業務提携により、高知県内の投資のすそ野をさらに広げ、
ESG機運の醸成の一助になればと考えています」と話す。ここまで即日完売が続くのは、公民連携が奏功している効果だと言える。

大和証券(株)デット・キャピタルマーケット第二部公共債二課上席課長代理・平澤里佳さん。
“金利の時代”迎え迫られる資金運用連携
資金をめぐる調達と運用はクルマの両輪だが、債券や基金の管理は会計管理局会計管理課の役割になる。担当するのは資金・国費担当チームの課長補佐兼チーフの馬殿昌彦さんだ。「近年、“金利
のある世界”が復活してからは議会質問も増えて注目され、運用益の数字などにより責任感が増してきました」と馬殿さん。「会計管理課は基金を所管する各部署から運用委任を受けています。今年3月時点で財政調整基金等が34基金あり、債券も国債や地方公共団体金融機構債券等を取扱っています」と話を続け、「高知県では資金管理運用方針を定めていて、その原則のもと安全性及び流動性の保持に十分配慮した上で、効率的な運用に努めています」と語る。
ところで、財政課と会計管理課の連携・協力関係はどうなっているのか。弘末さんは両課の役割分担について、「起債による借入は財政課の所管ですが、会計管理課はこの借入をはじめとする歳計現金の流れを見て運用余力があるかを判断し、資金運用を行うのが役割です」と説明する。会計管理課では毎月の「資金収支計画」をつくるにあたり、各担当課が財務会計システムで入力した収入・支出の登録を元に資金の出入りを把握する。その結果、剰余金が出た場合は運用資金として回す額を決め、部門トップの会計管理局長等が参加する資金会議を開いて、取扱いを決めるというプロセスを踏むのだという。
そのうえで弘末さんは「近年、借入れの際の金利が上がっており、新たな調達は財政負担が大きくなる。どのように財政運営を行っていくのが良いのかを常に考えています」と打ち明ける。馬殿さんも「会計管理課では1か月以上運用して普通預金よりも有利な定期預金にできるかどうか、1〜2週間の短期でも他の有利な預金にしようか等と検討し、歳計現金利息を稼ぐという意識でやっています」と話す。では、両課は日々動く金利など金融情報の交換等をどれくらいの頻度でしているのかと聞くと、「日常的によく行き来しているので、かしこまった会議などではなく、日常的にコミュニケーションを取っています」(弘末さん)と微笑むその顔に、関係のよさが窺える。
最後に今後の抱負を聞くと、「この間、グリーンボンドにチャレンジしたことで、安定的な資金調達と新たな投資家の確保に繋がりました。今後も新しい取組に挑んでいきます」と弘末さん。馬殿さんも「財政課と会計管理課は垣根を作らずにいい関係を築けています。今後も今まで通り意思疎通を図りながら資金の効果的な運用に取り組みます」と明快に応えてくれた。温暖化防止と人口減少対策の二兎を追う高知県の挑戦は、グリーンボンドが成否のカギを握る。課題解決先進県として新たなステージへとステップを踏む今後が楽しみだ。

(左から)大和証券(株)・平澤里佳さん、高知県会
計管理課課長補佐兼チーフ・馬殿昌彦さん、同財政課課長補佐兼チーフ・永倉慶太さん、同財政課
チーフ・弘末尚史さん。
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