
自治・地域のミライ
自治・地域のミライ|出版記念鼎談(後編)吹田市が輪島市災害対策本部で一緒に悩んだこと
地方自治
2026.02.25
出典書籍:月刊『ガバナンス』2026年3月号
★「自治・地域のミライ」は「月刊 ガバナンス」で連載中です。本誌はこちらからチェック!

月刊 ガバナンス 2026年3月号
特集:東日本大震災15年──これまで、そして、これから
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,320 円(税込み)
詳細はこちら ≫
大阪府吹田市防災政策推進監 有吉 恭子
大阪府吹田市危機管理室参事 柴野 将行
関西大学社会安全学部教授 越山 健治
2024 年1月1日に発災した、令和6年能登半島地震。大阪府吹田市は、発災後4日後の1月5日に、それまで何の交流もなかった石川県輪島市に職員を派遣した。それから約2年。その延べ人数は1000人を超える。輪島市災害対策本部に支援に入り、長期間伴走支援の中心的役割を果たした同市職員らが、現場での経験や、自治体間の相互支援の構築のポイントを『令和6年能登半島地震―吹田市が輪島市災害対策本部で一緒に悩んだ36のこと』という一冊の書籍にまとめた。

左から柴野将行さん、有吉恭子さん、越山健治さん。
【前半は前号(2026年2月号)に掲載】⇒ 記事はこちら
「記録を残す」ということ
――本書では、輪島の現場と吹田市役所をつないだ「備忘録」も掲載しています。
柴野 この本では、支援中の特別職
とのやりとりを書き残しています。また、それぞれが日々活動した内容を記録としてまとめたものも掲載しています。
越山 災害対応に関する自治体の報告書では、きれいにまとめられて終わり、表に出てこない話も多いのが実情です。
柴野 支援者が変わるにつれて記録
がどこまで残るかが微妙です。今回、1つのフォーマットで一貫性のあるやりとりをしてきたことが、この形になったのだと思います。
有吉 記憶というのは薄れていくもの。越山先生からも事実を記録する癖をつけるように教えられました。本にも載せたように、検証して論文として残すこともしてきました。論文には、輪島市職員のみなさんにも一緒に名前を連ねてもらいました。
越山 データとして残すことは、その後の災害研究に生きてきます。何が一般化できる事例なのかということを検証することが重要です。有吉さんは、博士号を持った研究者という立場もあるので、そのような人材が、現場でデータを取り、分析することに意義があると思いました。
何もないところから始まった関係
越山 今回の支援の特徴は、事前に輪島市と吹田市との間の関係が全くないところから、災害対応を機に応援協定を結び、支援をし続けているということです。事前に関係性があって支援を続けるというのはよくありますが、これは珍しいケースだと思います。
柴野 自治体間の関係性はゼロの状態で支援に入りましたが、私たちの「吹田市」と書かれた服をみて、「吹田市ですか!」と喜んでくれた職員の方がいました。実はその職員は、人と防災未来センター(人防・ひとぼう)の研修を受けていて、偶然、隣に座ったのが吹田市の職員だったそうです。その際吹田市は防災に一生懸命に取り組んでいる自治体ということを認識してくれていたようでした。だからこそ「来てくれてありがとうございます」と声をかけてもらえたことがとても心に残っています。人防が今回の支援に大きく関係していると感じています。
――災害対策本部事務局では、意思決定までのプロセスを円滑にするために資料の共通化など整え、これが「吹田方式」と呼ばれるようになっていきました。
有吉 現場では「どうやってやるのか?」「誰と調整するのか?」を明確にするために、柴野さんと私で情報を整理して、資料のひな形を作り、それを現地の職員と共に輪島市にフィットする内容に整えていきました。
柴野 輪島市の職員が自分の言葉で上司にプレゼンできるように努めました。平時でも資料を一枚作るのは大変なこと。押しつけでやるのではなく、できるだけ合意を取って行きながら、なおかつ根拠を持って、現場感覚も失わずに、どうするべきかを互いに共有しながらやっていくことを意識していました。
規模の違いはあれど、同じ基礎自治体の職員だからこそ、住民との距離感は同じだと思います。日頃の事務でやっていることは同じだからこそ寄り添える。災害対応も非常時ではあるけれども、日常的な視点もそこで共有しながらやっていくことを大切にしました。

記録をすることで見えてくる
――越山先生は監修者として今回の本の内容をどのようにみていますか。
越山 災害時に自治体職員がどのような業務にどれくらいの時間を費やすのか、これまで見えていませんでした。どこかに記録はあるはずですが、表に出てくることはほとんどありません。出てきたとしても、「三日三晩徹夜した」「1か月間大変だった」ということが多く、具体的に何が大変だったのかがわからない。これが何かがわからなければ、できる支援もできません。記録がない状況で改善計画を作っても、結局うまくいかないものが作られます。
本来は日常から、どこに一番負荷がかかっているか、どこに一番時間がかかっているのか、業務のマネジメントをしなければなりません。
有吉 越山先生からアドバイスをもらいながら、輪島市でリアルタイムの業務量調査を行いました。日本初の試みです。どの業務がどれだけ大変か数字で示し、この業務にこれだけの人が欲しいと外部にお願いする根拠にしようと調査を行う事になりました。また、研究上も非常に貴重なデータになると思いました。
越山 吹田市では2022年に不発弾が市内から見つかる事案がありました。災害ではないけれども、危機対応。全庁的にどのような仕事をするのか、業務量調査をしてもらいました。危機事象が起きると行政は調整案件に時間を要します。人日投入がどれくらいなのか、どこの部署がどのくらい時間を要するのかさえわかれば、全庁的な仕組みとしても計画できます。逆に言えば、その根拠がなければその仕組みづくりもできないと思い、情報を取ってもらいました。
有吉 その時の調査項目を基に、輪島でも人事担当の意見もふまえながらアレンジしました。
越山 私も人防の研究員だった20年以上前から、危機時のマネジメントのあり方について研究してきました。災害があった時に自治体職員が大変になるのはわかります。しかし、具体的に何が大変なのか、考えている時間が長いのか、手を動かしている時間が長いのか、電話をしている時間が長いのか──。経験したことのない人にとってはわからない世界です。これが記録で見えれば、「やらなければならないこと」や「できること」、そして「できないこと」が見えてくると思っています。
――「Do No Harm(害をなさない)」という言葉も印象的でした。
柴野 「支援の名のもとにだれかを傷つけていないか」。発災当初は、周りも自分たちも考える間もなく日々が過ぎていきます。それが落ち着き、ひと呼吸置けるようなタイミングになった時に、ふと感じることがまさにこれです。良かれと思って輪島市の職員にかけている言葉が、実は相手を追い詰めてしまっているのではないかと。
有吉 今までの支援の現場ではその謙虚さが足りなかったのかもしれません。私はSCJ研修(*)を自治体職員として初めて受講し、スフィア・スタンダードをはじめ国際的な人道支援の理念と実践を約1週間、国内外の人道支援団体と共に学びました。日本ではあまり認知されていないかもしれませんが、支援現場では大事な考えです。復旧・復興を担っていくのは現地の職員達です。彼らの自尊心を失わせてはいけないのです。
越山 外から支援する側は得てしてそうなってしまいます。支援される側に立ち、その盾となる外部支援者の存在が大切だと思います。
柴野 ある程度の期間、被災地支援に入る中では、この調整役が不可欠です。その役割は、応急対策職員派遣制度の総括支援チームで担わなければならないと思います。時には厳しい言葉を受けながらも常に被災自治体ファーストの視点で考えながら調整できる人材の存在が重要です。
有吉 この本では失敗例もたくさん書かせてもらいました。
越山 上手くいかなかったことを、記録として「こういうことがあった」と残して、蓄積していかなければなりません。それがあれば、いつかどこかで検証することができます。
*セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン主催の人道行動における子どもの保護の最低基準(CPMS)ファシリテーター養成研修

同じ自治体職員。ほっとかれへん。
有吉 当市では、日頃から危機事象発生時には、危機管理室が全庁横断的な幕僚機能を担います。全庁的なマネジメントをするのが危機管理の役割だということが共有されています。
柴野 後藤市長が人防の研究員の方の研修を受けて、危機管理に対する意識を強く持たれたことも影響しているように思います。また、防災政策政策推進監の有吉さんに対しても、研究活動を軸に全国へ出向き、積極的につながりを築いてくるよう伝えています。そのうえで、「吹田市を起点としつつ、広く共有される知見として捉えてよい」といった考えも示されています。このような自治体は他にはないのではないでしょうか。
有吉 他の自治体の方と話すと、防災部局は孤立していることが多いです。平時はあまり役に立てず、お金を使い、しかも他自治体の災害応援にも行くとなると自分の自治体の仕事を置いていくことになります。でも、「他の自治体のためにやることが悪い」という思考になってほしくないと思います。後藤市長は、「ほっとかれへん。同じ自治体職員やろう」と言います。この言葉が、私たちの背中を押してくれています。他の自治体にもそういう利他的な動きが広がってほしいと思います。
柴野 自らの自治体で想定する最大規模の災害が起こった場合、自分たちだけで対応することは困難です。派遣制度を理解し、あらかじめ体制づくりをしておかないと、受入対応に忙殺され、せっかく支援に来てくれた人たちの能力を十分に生かせないまま、疲弊してしまい本末転倒な状況に陥ってしまいます。だからこそ、「支援を前提とした受援体制づくり」こそが、最も重要です。この点については、全庁で認識を共有しておくことが大切です。
有吉 小さい自治体では、一つの部署で防災含めて様々な所管を持っていることも珍しくありません。その人たちに全部やってもらうのは無理なことです。
一緒に悩んでほしい
――最後にこの本についてメッセージをお願いします。
越山 災害時に自分たちだけで対応する組織づくりは現実的ではありません。今ある解決策は、支援を受けるということです。他の資源も使いながら、できないことをできるようにするにはどうしたらいいか、現実策として考えられることを読み取ってほしいです。内部の情報もいろいろと書き込んだつもりです。災害対応業務の実態を受援側も支援側も知ってほしいと思います。
柴野 全国の自治体は、応急対策職員派遣制度について、知らないでは済まされない状況にあると思います。災害大国の日本にあって、全国の自治体とつながり、何かあった時には支援を受けながら災害を乗り越えていくという意識を共有しなければならないと思います。制度、考え方を知ることで、それぞれの自治体での受援体制づくりへとつながっていく、その取り組みの一助になればと思っています。
有吉 サブタイトルを「一緒に悩んだ36のこと」にしました。受援側として、外部の支援者からこれが正しいやり方だと示され現場が苦しんでいる様子を見てきました。その時々で正しいこともあったかもしれないが、できないことばかりで、今できることを手探りで一緒に悩んで対応してきました。考えたというより悩み、探ったのです。学識者やNPO、他自治体にも頼りました。ヒーローやすごいチームがやってきて何とかしたのではなく、現場で泥臭くやってきた日々を追体験してもらえたらと思います。この実態を知ることで、普段から人とつながっておくことや、知っておくことの重要性を理解してもらえればと思います。
越山 これはハウツー本ではありません。これを読んだから解決策がわかるということはありません。一番伝えたいことは、「一緒に悩んでください」ということです。必要な知識などは研修で学ぶことができますが、実際の災害対応というのは悩むこと。だから支援する側も一緒に悩んでほしいのです。
この本は、吹田市視点で書いたものですが、実際は「輪島市が悩んだことの本」です。輪島市が災害対応で悩んだことを、第三者の視点、支援者の視点から書いたものです。つまり、輪島市の協力なしでは絶対に出すことができなかった本なのです。主役は輪島市職員、そして輪島市という組織です。彼らと一緒に悩んだことの貴重な記録なのです。

吹田市職員らは、輪島市職員らと一緒に悩みを共有しながら、一歩一歩を共に歩みを進めた。
(取材・構成/本誌 浦谷收、写真/秦 裕一)
【新刊紹介】

令和6年能登半島地震
吹田市が輪島市災害対策本部で一緒に悩んだ36のこと
【監修】越山健治(関西大学)
【編著】有吉恭子・柴野将行 (吹田市、関西大学すいた防災ラボ)
【編集協力】吹田市・輪島市
販売価格:3,300 円(税込み)
詳細はこちら ≫
現場性と客観性の両方を備えた、受援側・支援側双方に役立つ災害対応の実務マニュアル
2024年1月1日の令和6年能登半島地震発災直後から石川県輪島市災害対策本部に支援に入った著者らが、災害対策本部支援のリアルを詳細に紹介。
被災地に「寄り添う」支援のための考え方やポイント、災害対策マニュアルの見直しにも活用できる一冊。
★「自治・地域のミライ」は「月刊 ガバナンス」で連載中です。本誌はこちらからチェック!

月刊 ガバナンス 2026年3月号
特集:東日本大震災15年──これまで、そして、これから
編著者名:ぎょうせい/編
販売価格:1,320 円(税込み)
詳細はこちら ≫






















