議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第97回 「シン・議会(事務)局職員」に求められるものは何か?
NEW地方自治
2024.12.12
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年4月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
この4月から新たに議会(事務)局に配属された人も多いと思われることから、今号では、あらためて議会で局職員に求められるシゴトについて考えてみたい。
■議会からの政策立案の必要性
議会のシゴトというと行政監視が主務であり、政策立案などは首長の仕事だと考える関係者も多い。だが、政策立案を首長の専権事項とする法的根拠はなく、多くの自治体議会が行政監視しか行ってこなかった現実から刷り込まれてしまった思い込みではないだろうか。
憲法に由来する二元的代表制は、等しく住民の代表である執行機関と議事機関の双方が、住民福祉の増進のために活動する機関競争主義であり、自らの政策立案なくして二元的代表制の一翼を担っているとは言い難い。社会通念上も、他人を批判するだけで自ら代案を示さない人に人望が集まらないのと同様、監視一辺倒では住民にとっての議会への信頼感は高まらないだろう。
それにもかかわらず、監視機能に偏重する議会が多いのは何故か。それは、監視機能の発揮プロセスには、法定事項や標準モデルが示されているものも多いが、政策形成プロセスには法定されたものや、標準化されたものなどなく、それぞれの議会で独自に確立する必要性に迫られることが大きいだろう。
もちろん予算決算の議案審議から立案される政策もあろうが、それが議会発の政策の全てとはなり得ない。なぜなら予算調製権は首長にしかなく、首長に執行意思がある政策しか審議対象にならないからだ。たとえば、執行部の縦割りの狭間にある行政課題などは、予算要求されること自体がなく、議案審議過程で政策提案に繋がることはあり得ないからである。
したがって、議案審議とは別次元で、行政課題を住民広聴の中から発見し、対応策としての政策の立案を可能とする政策サイクルの確立が議会には求められる。そして、局職員にも、それを支えようとする意識と能力が求められるのである。
■ボトムアップにおける課題
では、局職員は議会の政策立案にどのように関わるべきだろうか。
局職員の政策サイクルでの協働には課題も多いが、ここでは紙幅の関係上、局職員による政策のボトムアップと政治的中立性の問題に絞りたい。論点の詳細については既出の論稿(注)をご覧いただきたいが、端的に言えば執行部では職員からのボトムアップによる政策も珍しくないが、議会では局職員からのボトムアップなど出過ぎた行為とされてしまうことが問題の本質である。それは執行部職員と同様の公務執行であるにもかかわらず、局職員にだけ法的根拠なく適用されるダブルスタンダードの問題である。
注 清水克士「議会局による『補佐の射程』はどこまでか?」(「ガバナンス」2023年2月号)、清水克士「議会(事務)局職員の『補佐の射程』」(自治日報2023年9月11日号)
■「シン・局職員」のあり方とは?
この問題は議会を支える局職員にとっては根幹的課題であり、委員を委嘱されている政策サイクル推進地方議会フォーラム(日本生産性本部主宰)の議会(事務)局分科会でも問題提起している。
議会(事務)局分科会の設置趣旨は、「議会からの政策サイクル」の確立に不可欠な「チーム議会」醸成に寄与していくことを目指すもので、これからの議会(事務)局のあり方の検討を重ねてきた。分科会での議論については、今後、提言書を調製のうえ公開セミナー等で発信される予定である。紙幅が尽きたので、詳細はそちらに委ねたい。
第98回 議会は如何にして民意を反映すべきか? は2025年1月16日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。