政策課題への一考察 第97回 地方自治体の情報システム経費の捉え方と将来的な課題

地方自治

2024.06.05

※2024年4月時点の内容です。

政策課題への一考察 第97回
地方自治体の情報システム経費の捉え方と将来的な課題

株式会社日本政策総研理事長・取締役
(兼)東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員
若生 幸也


「地方財務」2024年5月号

 

はじめに

 令和7年度末の自治体基幹業務システム標準化の完了目標に向けて、地方自治体の情報システム経費は極めて注目を浴びている状況にある。しかし地方自治体全体の情報システム経費をマクロで捉えようとしたときに、これまで公表されている決算統計では限界がある。一方で、総務省は平成30年度から「地方単独事業(ソフト)の決算情報の『見える化』の推進」(以下「見える化調査」という)に取り組んでいる。

 本稿ではこの「見える化調査」を活用して、これまで実施された情報システム経費の調査結果と比較しながら、地方自治体全体の情報システム経費の捉え方と将来的な課題を整理する。

1 情報システム経費の捉え方

(1)「見える化調査」の位置づけ
 財政部門に所属する本誌の読者であれば、「見える化調査」はよくご存じであろう。そもそも前提は「経済財政運営と改革の基本方針2017」(平成29年6月9日)において、「地方税収の回復に伴う財政力格差や民生・教育などの行政サービスの水準の地域差の状況を含め、総務省は関係府省と地方単独事業の実態把握と『見える化』に早急に取り組む」と示されたことに端を発する。その後も経済財政諮問会議や地方財政審議会等で子ども医療費無償化等との関係で議論が続けられてきた(1)

〔注〕(1)総務省「地方単独事業(ソフト)の『見える化』に関するこれまでの議論について」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000557912.pdf

 これらの議論と並行して、総務省は平成30年度(対象は平成29年度決算)から一般行政経費(単独)に相当する「地方単独事業(ソフト)の決算情報の『見える化』の推進」に向けて試行調査を実施している。平成29年度決算~令和3年度決算までの5か年の決算額調査は歳出小区分の設定の在り方及び歳出小区分への振り分けの精度を検証するための試行調査であり、各歳出小区分への振り分け及び計上は各地方自治体の判断で行われている点、推計値である点に留意が必要である。

 令和4年度決算額に関する調査は令和5年度に実施されているが、決算統計システムにより全ての歳出区分を回答対象とする全数調査を実施している(2)

〔注〕(2)総務省自治財政局財政課事務連絡「令和6年度の地方財政の見通し・予算編成上の留意事項等について」令和6年1月22日、31頁
https://www.soumu.go.jp/main_content/000924051.pdf

 現時点で公表されているのはこれまで実施された試行調査結果である平成29年度決算~令和3年度決算までの5か年の決算額調査となる(3)

〔注〕(3)総務省「地方単独事業(ソフト)の決算額の状況」
https://www.soumu.go.jp/iken/02zaisei07_04000111.html

(2)情報システム関係経費の洗い出し
 5か年の決算額調査のうち、情報システム経費に関する経費区分が安定した令和元年度から令和3年度の3か年の調査結果を活用した(全体の歳出小区分は404)。この3か年のうち、令和元年度のみが700億円弱少ない(都道府県、政令指定都市、市区町村、一部事務組合・広域連合等の純計額(4))。「見える化調査」は試行調査であり推計値のため一定の変動が想定され、3か年平均を用いることにした。

〔注〕(4)純計額は都道府県から市区町村への補助金重複分を控除することで求められる。

 ここで歳出小区分の中の情報システム関係経費を洗い出すと、図表に示す11区分が当てはまる。政令指定都市分と市区町村分を合計すると4409億円である。総務省が平成29年度に予算額ベースで調査した全市区町村の情報システム関係経費は総額4786億円(5)であり、仮に同一規模とするとその差分は377億円(カバー率は92.1%)である。これら11区分以外にも情報システム関係経費が含まれた歳出小区分があることは明白であり、それを差し引いても一定の集計が可能であることが推察される。

図表 規模別の情報システム経費区分の決算額・割合(3か年平均)

出典:総務省「歳出小区分別決算額(令和元年度決算~令和3年度決算)」より筆者作成

〔注〕(5)総務省地域情報政策室「市区町村における情報システム経費の調査結果について」平成30年3月30日
https://www.soumu.go.jp/main_content/000542618.pdf

(3)情報システム経費の特徴
 「見える化調査」の集計区分は都道府県、政令指定都市、市区町村、一部事務組合・広域連合等、単純合計、純計の6区分であるが、このうち都道府県・政令指定都市・市区町村を比較すると、都道府県は税務システムの整備・運用に要する経費割合やICTの利用による住民サービスの向上に要する経費割合が相対的に大きい。政令指定都市と市区町村は全く異質であり、政令指定都市はマイナンバー制度の基盤になる住基ネット等の運用に要する経費や税務システムの整備・運用に要する経費割合、防災情報システム事務費割合が市区町村より著しく大きい。この理由は、政令指定都市の人口規模が大きく住民記録システムや税務システムのパッケージ利用が困難な場合が多いためと推察される。また防災情報システムも政令指定都市は広域防災の拠点性を有するためと推察される。

 一方、自治体情報化の分類では行政情報化と地域情報化に大別される。その他情報・システムに要する経費を除く分類が明確な歳出小区分で見ると、大部分は行政情報化に位置づけられ、地域情報化は、純計で3%、市区町村は5%であるが、都道府県や政令指定都市は1%弱と極めて限定的な位置づけにとどまる。

2 情報システム経費の捉え方の将来的な課題

(1)歳出小区分の分離・新設
今後情報システム経費をさらに精度高く捉えることを目指す場合、「見える化調査」にも課題がある。例えば令和3年度調査区分を前提に考えると、林業費の中に「278:林地台帳の整備の推進に要する経費」がある。この事務の内容として、「林地台帳の整備の推進に要する経費(GISやクラウド等システムの整備や森林資源情報の高度利用を含む)(関連する林業普及指導、研究開発、普及啓発に要する経費を含む)」と記されている。つまり、GISやクラウド等システムなど情報システム経費が混在していることは明白である。

 このように混在していることが明白なパターンの他、事務の内容にも記されていない場合は「児童福祉費」「老人福祉費」などの中枝番単位で「情報システム経費」を歳出小区分として加えることも想定される。一方、歳出小区分単位のコスト把握を困難にするという議論もあろう。結局のところ両者の選択基準は問題意識による。

(2)歳出小区分の振り分け精度向上
 「見える化調査」では「その他情報・システムに要する経費」が4割強を占める。この理由は①当てはまる歳出小区分がないという「(1)歳出小区分の分離・新設」の課題と、②振り分け精度の向上余地が課題と考えられる。②は「令和4年度決算額に関する調査表記載要領(6)」に「既存の歳出小区分に計上すべきものを『その他に○○に要する経費』に計上している回答が多く見られたため、既存の歳出小区分に計上すべきものがないか、回答の際に確認願いたい」と下線とともに言及があることからも明らかである。

〔注〕(6)「令和4年度決算額に関する調査表記載要領」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/576862.pdf

 自治体情報システム標準化の第二幕として、内部情報系システム標準化の方向性も考えられる。このときに財務会計システムに係るデータの標準化が重要である。自治体経営に資するベンチマークの精度向上のためには、歳出(細節・細細節)データ粒度の標準化ができれば大きな前進となる。財務会計システムの入力補助機能など情報システムの支援を前提とした仕組みによる高精度の「見える化」に向けた動きを将来的に期待したい。

おわりに

 本稿では「見える化調査」を活用して、地方自治体全体の情報システム経費を整理した。要約すると、情報システム経費に関係する歳出小区分は11区分あり、全体では5959億円、政令指定都市と市区町村の合計は4409億円で過去の予算調査4786億円と同一規模とするとカバー率は92.1%であった。政令指定都市と市区町村の情報システム経費構造は大きく異なることが分かった。いずれの自治体区分でも行政情報化に比べ地域情報化は極めて限定的な位置づけにとどまった。

 情報システム経費を捉えるときの将来的な課題は歳出小区分の分離・新設と歳出小区分の振り分け精度向上である。この際に自治体情報システム標準化の第二幕として内部情報系システム標準化によるデータ粒度の標準化が重要である。

 筆者はかつて平成30年度に実施された総務省委託事業「地方単独事業(ソフト)に係る各種情報の分析及び『見える化』の推進に関する業務の請負」に受託者(主任担当者)として携わった。今後の「見える化調査」が自治体経営の高度化に資する取組としてより進化することを願ってやまない。

※本研究はJSPS科研費JP22K18256の助成を受けたものです。

 


*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。

 

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