政策課題への一考察 第91回 地方自治体におけるデジタル完結型の行政手続に向けた一考察(下) ― 利用者視点の重視と現行法制との整合性・方向性の整理

地方自治

2024.05.16

※2023年10月時点の内容です。

政策課題への一考察 第91回
地方自治体におけるデジタル完結型の行政手続に向けた一考察(下)
―利用者視点の重視と現行法制との整合性・方向性の整理

株式会社日本政策総研理事長・取締役
(兼)東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員
若生 幸也


「地方財務」2023年11月号

 

はじめに

 地方自治体のより良いデジタル完結型の行政手続を指向するために利用者視点が重要であることは論をまたない。今後自治体DXの取組深化を背景に、様々な形で地方自治体におけるデジタル完結型の行政手続を指向する動きが出てくると見込まれる。本誌9月号掲載の(上)では、地方自治体のより良いデジタル完結型の行政手続を指向するためのライフイベント視点の重視という観点から、ライフイベントの考え方及びライフイベント関連手続間の相関係数を整理することでライフイベント総合化指数として整理した。結果として、ライフイベント関連手続が総合化されている順に介護・子育て・被災者支援と整理できた。また、国・地方自治体を通じた政策的重点化が求められている子育て関係はまだまだ総合化途上にあり取組を加速すべきともいえることも明らかとなった。

 今号では利用者視点の重視や現行法制との整合性確認・方向性検討などの観点を用いて、今後の地方自治体におけるデジタル完結型の行政手続に向けた考察を進めたい。

1 利用者視点で重要なモデルケースの設定

 これまでの行政のデジタル化がうまく浸透しなかった最大の理由は「提供者目線」の強さにある。このため、「利用者目線」からのデジタル完結型ライフイベント行政手続を構築するためには一定のモデルケース(家族像)を設定して検討することが有用である(図表1・2)。

図表1 転入モデルケース
図表2 転出モデルケース

 モデルケースの設定の際は、実際によくあり得るパターンの家族像を第一順位とする。余裕があれば複雑なパターンの家族像を第二順位とする。前者は多くのパターンをスムーズに処理できるかを確認することを目的としたモデルケースであり、後者は制約条件や課題を確認することを目的としたモデルケースである(図表1・2で示したモデルケースはどちらかといえば後者の要素が強いもの)。

2 現行法制との整合性・方向性の整理

 現行法制との整合性と見直しの方向性を確認するためには、現行法制上の可否及び不可であればその根拠、そして見直しの方向性を整理する必要がある。一方、現行法制上可であっても普及していない場合の阻害要因、そして見直しの方向性を明らかにすることが求められる(図表3)。

図表3 不可の事象及び可能でも普及していない事象それぞれの根拠と見直しの方向性例

(注)日立製作所 プレリリース(2004年6月30日公開)
https://www.hitachi.co.jp/Div/jkk/press/040630.html

 ここでは、結婚や出産、子育て等のライフイベントに関わる行政手続を題材として、デジタル原則の考え方や自治体情報システム標準化等の動向も考慮しつつ、「デジタル完結」の観点から将来的な業務フロー等を検討し、その実現のために必要となる規制の見直しやBPR(業務の抜本的改革)を行うことが望ましい。

 (上)でも言及したように、まず対象とするライフイベントを決定する必要があり、①転入、②転出、③転居、④出生、⑤子育て、⑥介護、⑦死亡、⑧相続、⑨婚姻、⑩離婚の10ライフイベントが選択肢となるだろう。

 モデルケース(家族像)の設定は、実際の総合窓口導入時に活用されたモデルケースを活用することが有用であろう。総合窓口化を具体的に検討したことのある地方自治体の場合であれば、それぞれのライフイベントごとの行政手続も概ね洗い出しが完了しており、各行政手続フローも(対面を前提としたものであるが)概ね整理ができていることが多いと考えられる。これらに基づき、現行行政手続フロー案を作成する。

 このフロー作成時にオンライン化実施済の手続及びオンライン化可能な手続、オンライン化不可の手続を整理する。その上で、完全デジタル化後の行政手続フロー案を作成する。ライフイベント情報の活用程度によって、個人情報の基本となる氏名・性別・住所・生年月日といった基本4情報を使う程度なのか、それ以上の情報連携が可能か否かが変化すると考えられる。加えて情報システム標準化(データ連携)の動向によってもどの程度の手続要否となるかが変化すると想定される。

 もちろん「ワンソースマルチユース」を徹底した行政手続フローを検討し、現行法制との整合性確認(可否:不可の場合の根拠・見直しの方向性と可の場合でも普及阻害要因・見直しの方向性など)を整理することが不可欠である。

 実際に現行行政手続フローと完全デジタル化行政手続フローを比較したイメージは以下図表4のとおりである。

図表4 現行と完全デジタル化のフローの異同ライフイベント:婚姻手続の原稿行政手続フローと完全デジタル行政手続フローのイメージ

おわりに

 これまで地方自治体のより良いデジタル完結型の行政手続を指向するために、(上)と(下)に分けて考察を行った。(上)では、ライフイベント視点の重視という観点から、ライフイベントの考え方及びライフイベント関連手続間の相関係数を整理することでライフイベント総合化指数として整理した。

 (下)では利用者視点の重視としてモデルケース(家族像)の設定の重要性・優先順位を指摘するとともに、現行法制との整合性確認・方向性検討において必要な事象・根拠・今後の方向性の整理観点などを考察した。自治体DXの本質的取組に結実するよう筆者も取組を進めているので気軽に相談してほしい。

 

 

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