特別企画 固定資産税 評価実践講座 第6回 被災家屋に対する損耗減点補正

地方自治

2024.01.29

 

※本記事は、月刊『税』2021年1月号に掲載されたものです。

 

固定資産税 評価実践講座
第6回 被災家屋に対する損耗減点補正

大和不動産鑑定(株)

1 はじめに

 近年、異常気象に起因する大規模な災害が頻発しており、気候変動による災害リスクの増大に伴い、住民の防災意識も高まりつつある。

 災害が発生すると、基礎自治体である市町村は最前線でその対応に当たることになる。固定資産税担当部門は、住家被害認定調査をはじめとした災害対応業務を担当することもあり、その場合には翌年度課税に向けた業務に加えて、災害対応業務を担当することになる。

 被災家屋については損耗減点補正率を適用することにより翌年度の評価額を見直すこととなるが、損耗減点補正率についてはあまり日常業務で触れる機会のないものであるため、いざ被災家屋を目の前にしても対応できないということもあり得る。局所的な災害で1〜数棟程度を対象とするような場合はまだしも、大規模な災害が発生した場合にはその件数は膨大となり、対応は困難なものとなる。

 そのため、効率よく精確に事務を完遂するためには、平素より予め被災家屋に対する損耗減点補正の在り方を整理しておき、万が一に備えることが重要である。

 そこで本稿では、災害時における損耗減点補正率の適用に際して留意すべき事項をQ&A方式にて解説を行う。

2 Q&A

(1) 損耗減点補正率とは

 損耗減点補正率はどのようなものか。

 ①損耗減点補正率とは
 家屋の評価額は、再建築費評点数に損耗の状況による減点補正率を乗じて得られる評点数を基に求められる。

 損耗の状況による減点補正率は、経過年数に応ずる減点補正率(以下「経年減点補正率」という)と、損耗の程度に応ずる減点補正率(以下「損耗減点補正率」という)とがある。

 固定資産評価基準(以下「評価基準」という)第2章第2節五及び第3節五では、原則として経年減点補正率によることとされているが、天災、火災その他の事由により当該家屋の状況からみて経年減点補正率によることが適当でないと認められる場合には、損耗減点補正率によるものとされている。

 災害に限らず、特別な損耗が認められる場合に適用されるものであるが、本稿では災害の場合を中心に以降解説を行う。

 ②損耗減点補正率の求め方
 損耗減点補正率は、屋根や外壁等の各部分別に求めることになる。

 評価基準別表第10「部分別損耗減点補正率基準表」では、家屋の損耗度(損耗状況)と、それに対応する損耗残価率が定められている。

 部分別の損耗状況に応じた損耗残価率に、経年減点補正率を乗ずることで、部分別の損耗減点補正率を算出する。

部分別損耗減点補正率=損耗残価率×経年減点補正率

 前記算式により算出された部分別損耗減点補正率を、各部分別の再建築費評点数に乗ずることで部分別の補正後評点数を求め、これらを合算することで、一棟に対する補正後の評点数を算出することができる。

 なお、平成12年9月1日自治評第37号自治省税務局資産評価室長通知「家屋の損耗減点補正率の適用方法等について」(以下「平成12年自治省通知」という)では、補正後評点数は再建築費評点数の10%が最低限度となる旨示されていることに留意が必要である。

ア 経年減点補正率による場合(原則)
  評点数=再建築費評点数×経年減点補正率

イ 損耗減点補正率による場合(特別な場合のみ)
  評点数=(部分別再建築費評点数×部分別損耗減点補正率)の合計

 具体的な算定例は次のとおりである。

<例> 木造築1年未満(経年減点補正率0.8)床上1.0m未満程度(半壊程度)の浸水被害

(2) 評価替えを経た在来分家屋の取り扱い

 評価替えにより現在の再建築費評点数が建築当初のものと異なる場合、どのように取り扱えば良いか。

 在来分家屋については、原則として評価替えごとに再建築費評点補正率を乗じて、再建築費評点数を求めることになるため、評価替えを経た場合は、建築当初の再建築費評点数と、現在のものは異なることになる。

 このような場合について、前掲平成12年自治省通知では、建築当初の部分別再建築費評点数に、以後の評価替え年度における再建築費評点補正率を乗じて求めた部分別再建築費評点数を用いることとされている。

 評価替えを経た家屋に係る部分別再建築費評点数の算定例は次のとおりである。

 下記算定例のようにして求めた現基準年度の部分別再建築費評点数(②〜⑪)を用いて、前記(1)の算定例の方法により部分別に損耗減点補正率を求めることとなる。

<例> 平成28年築木造(平成30年度に被災した場合)

 また、前頁の方法以外にも、建築当初の部分別再建築費評点数を用いて計算する方法も考えられる。

 一般財団法人資産評価システム研究センター「大規模災害に係る被災家屋の評価について」では、建築当初の部分別再建築費評点数に損耗残価率を乗じ合算したものと建築当初の再建築費評点数の割合に対して経年減点補正率を乗じて一棟に対する損耗減点補正率を求める方法が紹介されている。

 現在の再建築費評点数に、前記算式で求めた一棟に対する損耗減点補正率を乗ずることで、補正後評点数を算出することが可能である。

 これにより、原則どおり部分別に損耗残価率を乗じて補正後の評点数を算出する方法と、概ね同じ評点数を算出することができる。

(3) 現行の評価基準にはない部分別の取り扱い

 かつて存在したが、現行の評価基準では廃止されている部分別について、どのように取り扱えば良いか。

 新築当時の評価基準には存在したが、現在は廃止されている部分別を用いて評価されている在来分家屋について、当該部分別の損耗減点補正率をどのように算出するかが問題となる。

 一例として、部分別「造作」を取り上げて解説する。この「造作」については、平成24年度評価基準において「建物の装飾等の目的をもつて各部構造体に取り付けられるものをいい、これに含まれるものは、概ね次のとおりである。敷居、鴨居、長押、釣束、楣、窓台、付鴨居、畳寄、中束、無目、上枠、竪枠、下枠、欄間、手摺、床間(書院、脇床を含む。)」と示されていたが、平成27年度評価替えにより削除された。

 そのため、平成25年以前に建築された在来分家屋に損耗減点補正率を適用する際、現行の評価基準には存在しない「造作」の部分別損耗減点補正率の取り扱いが問題となる。

 この点について、他の部分別と同様に、「造作」に該当する部分の被害状況を調査し、部分別損耗残価率を求めた上で、補正後評点数を算出する方法が考えられる。

 しかし、現行の評価基準には部分別「造作」が存在しないため、被害状況を調査する際、馴染みのないこの「造作」がどこに該当するのか判断がつかないということもあり得る。

 一般財団法人資産評価システム研究センター編『平成27基準年度評価替え質疑応答集―家屋編―』では、これまで「造作」に含まれていた建具枠の施工費については部分別「建具」に、「床間」の評点項目については「その他工事」にて評価することとなる旨示されており、部分別「造作」は、現行評価基準の部分別「建具」及び「その他工事」に引き継がれたものである。

 そのため、この「造作」の部分別再建築費評点数を、「建具」及び「その他工事」に配分した上で補正後評点数を算出するという方法が考えられる。

 このように、損耗減点補正率の適用対象家屋の再建築費評点数に、現行評価基準には存在しない部分別が含まれているような場合には、そのまま当該部分別の損耗残価率を求め、損耗減点補正率を計算する方法と、当該部分別が現行評価基準の何に該当するのかを判断し、その評点に振り分けるという方法が考えられる。

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