政策トレンドをよむ 第5回 ベビーテックの動向と課題(1)
地方自治
2023.09.07
目次
※2023年7月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第5回 ベビーテックの動向と課題(1)
EY新日本有限責任監査法人CCaSS事業部
入山泰郎・毛利友音
(『月刊 地方財務』2023年8月号)
わが国の少子化は深刻化しており、2022年の出生数は史上初めて80万人を切り77万747人となった。少子化の要因はさまざま指摘されているが、妊活・妊娠・出産や育児に伴う肉体的・心理的・時間的・経済的な負担が、仕事との両立を妨げる懸念が強いことがその1つと考えられる。
そうしたなかで、出産や育児に伴う負担を軽減する「ベビーテック」に注目が集まっている。「ベビーテック」とは「ベビー」と「テクノロジー」を合わせた造語で、デジタル技術を活用した、妊活・妊娠から出産、育児を支援するサービスのことである。そのサービス内容と効果に基づいて図表のとおり5つに分類することができる。
第一に、妊活・妊娠期に関するサービスである。妊活や不妊治療の負担を軽減し、それらの成功率を向上させるとともに、周囲の理解を促進することにより、妊活・不妊治療の実施が増え、またそれらに伴う離職が減少することも期待される。
例えば株式会社ファミワンでは、妊活を考えている女性、妊婦を対象にオンラインで看護師・心理士から妊活に関するアドバイス受けることができるサービスを提供している。企業で福利厚生として導入されるケースや、自治体から委託を受けサービスを提供しているケースもみられる。
第二に、育児に関する安心・安全を向上させるサービスである。育児に関する不安感を軽減するとともに、親と子のウェル・ビーイングを増大させることで、子育ての楽しさや肯定感が高まると考えられる。これにより子育てに対するイメージが向上し、出生率向上につながることも期待される。
例えばアメリカでは、センサー付きのチャイルドシートが発売されており、子どもが誤って車内に取り残された場合や、走行中にシートベルトを外した場合、急激な体温の変化があった場合などに、携帯アプリを通じて保護者に警告を発するようになっている。
第三に、育児や家事に関する効率性を向上させるサービスである。育児に関する様々な負担感を軽減することで、仕事と育児等の両立をより容易なものとし、出生率の向上につながることが期待されるとともに、子育て世代(男性を含む)の就労を促進することで、経済的な効果も期待される。
例えばFUNFAM株式会社では、生後5か月から1年半又は2年程度の時期の子どもを対象とした離乳食の提供を行っている。育児の精神的負担、時間の制約を軽減することで、ワークライフバランスの向上に努めるとともに、育児の楽しさや肯定感を高めることができると考えられる。
第四に、子ども(未就学児)の教育・遊び・思い出に関するサービスである。これらも親と子の自己肯定感へとつながると考えられる。
例えば株式会社シンクアロットは、日本の幼稚園・保育園を海外の幼稚園・保育園とマッチングさせ、オンラインでの交流の機会を提供している。早期成長段階から外国・多様性に触れる機会を提供することで、日本のグローバル人材の育成にもつながる。加えて、保育士らにとっても他国の事例から学びを得る機会となっている。
第五に、保育ICTと呼ばれるサービスで、保育施設などの事業者が直接の利用者となるサービスである。その効果は安全・安心、効率、教育・遊び・思い出にまたがるものであり、施設の利用者である子と保護者もまた利用者になるものが多い。
例えば株式会社コドモンは、保育所職員の負担軽減を主目的に請求・帳票などの機能をもった製品を保育機関に提供している。施設側と保護者のコミュニケーションがスムーズになることで保護者の負担軽減になるとともに、家庭内での保護者同士の子どもに関する情報共有が促進されることで育児のしやすさにも繋がっている。
このように国内外で利用が広がるベビーテックであるが、その普及に当たっては課題もある。次号ではベビーテック普及の課題について、特に地方公共団体での利用に焦点を置いて述べることとする。
〔参考文献〕
・EY新日本有限責任監査法人(経済産業省委託調査)「令和4年度産業経済研究委託事業デジタル技術等を活用した育児支援サービス(Baby-Tech等)が少子化等に与える効果と課題に関する調査調査報告書」
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