自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[85]個別避難計画作成モデル事業成果発表会

地方自治

2023.12.13

※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年4月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 3月7日、内閣府の個別避難計画作成モデル事業成果発表会が行われた。今年度は、23市区町村、11都道府県が事業に取り組んだ。私は個別避難計画を推進する「ツボ」を発見したいと発表を聞いていた。その結果、「なるほど」、「目から鱗」という発見がいくつかあったので、共有させていただきたい。

個別避難計画作成の段取り

 まず、内閣府は「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(2021年5月改定)で、個別避難計画作成の段取りについて次の例を示している。

(1)計画作成の優先度
 本来、避難行動に支援が必要な方については全員の個別避難計画作成が望ましい。しかし、時間、人員、地域特性などの制約があり、優先度を決めて徐々に進めるのが現実的だ。優先度の考え方は次のとおりである。

①地域におけるハザードの状況
②対象者の心身の状況、情報取得や判断への支援が必要な程度
③独居等の居住実態、社会的孤立の状況・避難支援者が側にいない

 では、この三つの中でどれが最も重要な指標だろうか。アドバイザリーボードの中では、③の「社会的孤立」の要素ではないかと議論されている。これは役所の持つ情報では把握が難しく、日常の支援者(福祉専門職、民生委員等)から聞き取りが必要になる。だとすれば、個別避難計画への福祉関係者の参画がより重要である。

(2)対応の流れ
 個別避難計画作成の優先度が高いと判断された場合には、市町村が支援して個別避難計画を作成することになる。その対応の流れは以下の7段階になる。
【Step 1】 庁内外における推進体制の整備、個別避難計画の作成・活用方針の検討(共通)
【Step 2】 計画作成の優先度に基づき対象地区・対象者を選定(共通)
【Step 3】 福祉や医療関係者等に個別避難計画の意義や事例を説明
【Step 4】 避難支援者となる自主防災組織や地区住民に個別避難計画の意義や事例を説明
【Step 5】 市町村における本人の基礎情報の収集、関係者との事前調整等
【Step 6】 市町村、本人・家族、福祉や医療関係者等による個別避難計画の作成
【Step 7】 作成したら終わりではなく実効性を確保する取組みを実施
・避難支援等関係者への計画の提供、更新、本人の状況等に応じた訓練の実施等を継続的に実施

岡崎市の取組みと創意工夫

 愛知県岡崎市は「計画作成は地域づくり」をモットーに地域主導型の個別避難計画作成に取り組んだ。「頼りになるのは「ご近所さん」と言われるが、「相手を知らない」ことが互いの壁を厚くさせ、憶測・思い込みを生み、相互の不信・不安となって孤立や見ているだけの状態を作ってしまうのではないか?」という問題意識のもと、住民参加のワークショップ、避難訓練、動画・パンフレットの作成へと進んだ。

 また、岡崎肢体不自由児・者父母の会と一緒になって個別避難計画作成を進めた。

 工夫したなあ、と感じたのは「ひなんさんぽ」である。新型コロナウイルスの影響を受けたり、事前の準備が大変な大がかりな訓練は難しい。ハードルを下げて、容易に計画の実行性を確認できるように避難施設まで移動するだけの「ひなんさんぽ」を行った。実際に対象者がさんぽをしていると、うれしいことに地域の人もどんどん加わって人数が膨れ上がったというから面白い。参加者からは「地域の人たちとたくさん喋れた」「○○さんとお友達になった」「普段行かないところも、皆と一緒だと行けた」などの声があがったという。ハードルを下げた訓練の楽しさが伝わるようだ。

蒲郡市の取組みと創意工夫

 愛知県蒲郡市は個別避難計画作成と福祉避難所開設訓練実施を、地域福祉計画に記載して、福祉の取組みとして実施している。そして、当事者参加型の訓練をしながら個別避難計画作成、点検を行った。一方で、コロナ禍もあり、当事者参加は言うは易く、行うのは大変だ。そこで、訓練動画を作成して、イメージをつかんでもらうことにした。市によると動画は、文書で説明するよりもイメージしやすい、波及しやすい、時間短縮になる、と好評なようだ。現在、福祉避難所訓練の動画が2本作成されていて、今後も増やしていく予定だ。やる気にあふれた取組みは今後も要注目だ(*)。

*蒲郡市 福祉避難所開設訓練紹介動画
https://youtu.be/b7FdyAJQP5w
https://youtu.be/gUqpb_n7Beg

黒潮町の取組みと創意工夫

 高知県黒潮町は防災関係者の間では言わずと知れた防災先進地である。今回も、他の自治体に先んじた課題である医療的ケア児の計画作成、地区防災計画との連携、福祉避難所とのマッチングなどに取り組んでいる。

①地域調整会議の実施
・ケアマネージャーの参加
・あったかふれあいセンターの参加(NPO)
・個別避難計画の作成
②お試し避難訓練の実施
・個別避難計画の検証
・医療的ケア児への避難対策
③地域との連携
・要配慮者の選定(名簿の精査)
・防災地域担当職員の活用
・地区防災との連携
④福祉避難所協議会との連携
・福祉避難所と避難行動要支援者のマッチング
・避難行動要支援者が参加した福祉避難所開設・運営訓練の実施

 ここでも、計画の実効性を確保し検証するために、岡崎市と同様に、訓練のハードルを下げた「お試し避難訓練」を実施したのが注目される。

 モデル事業を実施しての気づきとして次のように述べている。

 「個別避難計画は、地域での助け合いなど目に見えない、カタチのない共助も含めて幾つもある災害時におけるセーフティネットの一つであり、個別避難計画づくりは、このようなセーフティネットを増やしていこうとする取組みの一つなのだと考えてみてはどうでしょうか。個別避難計画をこのような性格のものと捉えることで、過度に責任を感じず避難支援等実施者を引受けていただくことにつながる可能性があるのではないかと感じています」

 この計画だけで100%の安全を保障しようというものではなく、地域の安全を守るいくつかの取組みの一つであるというのは100%同感だ。これまで、真摯に避難支援に取り組んできた黒潮町ならではの気づきだと感銘を受けた。

日田市の取組みと創意工夫

 大分県日田市は、過去10年で3回も死者が出る大災害を経験している。今回、「多様な関係者との「連結」とマイ・タイムラインを活用した計画づくり」として発表された。

 ポイントは大きく二つある。一つは本人をとりまく様々な関係者と一緒に取組みを実施することである。防災・福祉それぞれの分野の強みを活かすため、関係者をつなぐ場所(調整会議)を設定した。後で伺うと、関係者に5回から10回くらい、足を運ばれたそうである。「連結」とは担当者が足を運ぶ熱意の総量だと気づかされた。また、マイ・タイムラインを使って時系列で関係者の動きと連動するようにしている。

 障がい児の家族からは「地域の方と繋がりができたことで通学時に声をかけてもらえるようになった」、高齢者の家族からは、「関係者の皆さんが何度も丁寧に足を運んで話をしてくれたことに感謝している。安心して暮らすことができる地域だと感じた」という声が聞かれたという。

 どの報告からも、このような地域共生のコミュニティづくりが進んだという話があった。「これこそが個別避難計画の重要な意義だ」、とうれしく感じた成果発表会であった。

 

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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