自治体におけるBPRの勘所

地方自治

2023.03.15

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2023年2月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

自治体におけるBPRの勘所
(よく分かる情報化解説 第95
回)
元横須賀市副市長 HIRO研究所 廣川 聡美

月刊「J-LIS」2023年2月号

 

学ぶべきPOINT
業務の見直しや改善など、地方公共団体におけるBPRとしてどのようなことが求められるのか学びましょう。

1 BPRとは

 BPRとは、ビジネス・プロセス・リエンジニアリングの略で、企業では顧客に提供する製品やサービスの、地方公共団体では住民サービスの提供に関わる業務プロセスの全体を、根本から見直し、再構築、すなわち作り直すことを意味しています。業務プロセスとは、業務フロー(業務の流れ)、業務組織の構造・職員配置、情報システムなど、サービス提供に関わる手順や方法等の構成要素の全体を指します。

 上記の業務フローは、業務プロセスと同じような言葉ですが、業務プロセスは組織なども含む業務全体の構成のこと、業務フローは業務の流れ、すなわち、データや書類の審査や意思決定の処理の流れのことです。ちなみに、業務フローを分かりやすく図化したものを業務フロー図(単に業務フローとも)と呼んでいます。業務フロー図は、業務の流れを見える化することにより、業務の重複や手戻り、滞留などの問題点を発見するために用いられます。

 業務組織とは、BPRにおいては、サービス提供に関わる組織全体を指します。サービスを提供するためには、直接そのサービスを担当する組織や職員のほかに、総務や財務などの間接部門や、関連するサービスを提供する部門などが担う部分があり、それらを含めた全体が当該サービスの業務プロセスを構成する組織ということになります。組織の規模が大きくなると、全体が見通しにくくなり、複数の部署で同じような業務が行われることがあります。個々の局面では、その方が合理的・効率的であるが故にそうなるのです。それがいわゆる個別最適化で、全体から見るとムダが生じている場合があります。BPRを行う際には、組織全体を見直し、全体最適化を図る必要があるのです。

 情報システムもプロセスの一部で、根本的見直しの対象であることはいうまでもありません。長い歴史のあるシステムの中には、現場の実態や要望に合わせてカスタマイズが繰り返され、増設や改修によって複雑化しているものもあると思います。既製品のパッケージをベースにしている場合でも、多少のカスタマイズは施されているものです。法令に基づいて提供されているサービスは、基本的に同じ内容、同じ方法で行えば良いはずなのですが、サービス熱心なあまりに、個性が生じているのだと思います。しかし、カスタマイズにはお金がかかります。導入や更新時だけでなく、法制度改正の都度、プラスαの経費が必要です。大切な税金は、できる限り、事務費ではなくサービスに充て、住民に還元したいものです。そのコストを節約するために、システムの標準化・共通化を進めます。カスタマイズがなければ、あるいは少なければ、コストを抑えることができます。そのために、必要であれば、既製品のシステムに合わせて、業務フローの変更や組織の改変、すなわちBPRを行うのです。

2 DX、BPR、業務改善の関係

 BPRは、DXや業務改善とどう違うのか気になります。同じようにも感じられますが、どういう関係なのでしょうか。
 
 はじめにDXです。DXとは、インディアナ大学エリック・ストルターマン教授(当時、ウメオ大学教授)が提唱した概念、すなわち「情報技術の浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる。デジタル・トランスフォーメーションにより、情報技術と現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる。(以下略)」がベースとなっています。我が国においては、2020年12月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」において「行政のみならず、国民による社会経済活動全般のデジタル化を推進することは、日本が抱えてきた多くの課題の解決、そして今後の経済成長にも資する。単なる新技術の導入ではなく、制度や政策、組織のあり方等をそれに合わせて変革していく、いわば社会全体のデジタル・トランスフォーメーションが『新たな日常』の原動力となる。」と位置付けられています。このことから、地方公共団体におけるDXとは、「デジタル技術を駆使して、団体の経営のあり方、住民との関係、組織風土や文化、組織マネジメント、職員の働き方などを根本的に変革すること」と解することができると思います。

 地方公共団体におけるDXの内容は、総務省が策定した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」において、まずは「自治体が担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して住民の利便性を向上させる」「デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げる」等の取り組みから進めることとされています。そして、具体的な取り組み事項として、情報システムの標準化・共通化、マイナンバーカードの普及促進、行政手続きのオンライン化、AI・RPAの利用推進など6項目の重点取り組み事項が示され、その推進に際しては、それぞれBPRの徹底が前提とされているところです。また、その他の取り組み事項として、デジタル田園都市国家構想の実現など、デジタル社会の実現に向けた取り組みに加えて、団体ごとの事務事業におけるBPRの徹底とオープンデータの推進が挙げられています。

 すなわち、抜本的な改革としてDXを進める中で、個々のサービスや業務のプロセスにおいて、BPRの視点・考え方で取り組むことが求められているのです。重点取り組み事項の第1番目に位置付けられている情報システムの標準化・共通化は、国と地方、民間事業者等が協働して取り組んでいる大改革ですが、前節でも述べたように、情報システムの入れ替えと合わせて、同時に基幹業務等のプロセスをBPRにより根本的に改革すること、すなわち標準化されたシステムに合わせて業務プロセスを変えることが不可欠なのです。そうでないとこれまでのシステム更新とあまり変わらず、期待したような利便性向上や効率化、コスト縮減効果を達成するのは難しくなります。DXとBPRは不可分です。技術を導入するだけでは、コストがかかるばかりで十分な効果は得られません。

 次に、BPRと業務改善の違いについてですが、BPRは、前述のとおり、業務プロセス全体を根本から見直し、再構築することです。根本的、全体的をキーワードに、対象の業務やサービスに関する業務フローや組織など関わりのあるすべてのプロセスを総合的に見直し、最適化するものです。一方、業務改善とは、業務プロセス全体には手を加えず、業務の一部の部分的なムダを減らすことです。規模は小さいですが、日常的にこまめに改善に取り組むことは大事なことです。

 こう考えると業務改善よりもBPR、さらにDXの方が立派に見えて、優先的に進めるべきだということになりそうです。しかし、BPRやDXを進めるためには相応の時間、手間、費用がかかります。メリットは大きいですが、コストもそれなりにかかりますし、組織体制や職員の稼働も考えると、覚悟を持って、本気で取り組む必要があります。今般の自治体DXの取り組みは、コロナ禍への対応を通じて顕在化した行政のデジタル化の遅れと、総務省の「自治体戦略2040構想研究会報告書」に示されているような、少子高齢化の進行等に起因して起きる働き手の減少、介護需要の増加、地域経済の縮小、過疎化の進行などの諸課題への対応が迫られている中で、これまで積み残しになってきた改革を一気に進めようとするものです。コロナ禍の影響で、2040報告書時点での推計人口より、少子化の進行が加速していることを考えると、一刻の猶予もならないという気持ちを抱かざるを得ません。

3 BPRの勘所

(1)業務フローについて
 BPRを進めるには、まず現行の業務フローを見える化し、改めるべき課題を洗い出す必要があります。見える化とは、業務に関わる関係者が、課題を共有し、知恵を出し合うための手法です。その手順は、まず、実務担当者等へのヒアリングをもとに、フロー図を作成します。フロー図の作成方法は、国際標準であるBPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法)をお勧めします。国が進めている自治体情報システムの標準化にはBPMNが使われています。現状のフロー図(As-Isモデル)の解析が済んだら、その図をもとに、再び担当者等に参加してもらって、課題の洗い出しを行います。その上で、どうすれば解決できるか、改革・改善方法を整理して、あるべき姿のフロー図(To-Beモデル)を描きます。ある程度精度が高まったら、これをプロトタイプ(試作モデル)と位置付け、住民や利用者の視点、業務担当者の視点等から検証を進め、さらに熟度を高め、新しいプロセスにおけるフローの案とします。このように、BPMNを使って、BPRや業務改善を行う手法としてBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)があります。また、フロー図の作成やプロトタイプの検証を支援するツール(簡易に作成できるソフトウェア)も提供されています。なお、BPR用のツールは他にも種類があります。

(2)組織について
 人口減少・少子高齢化が、コロナ禍の影響によりさらに加速されることが見込まれる中で、自治体戦略2040構想研究会報告書において指摘されているように、「従来の半分の職員でも自治体として本来担うべき機能が発揮でき、量的にも質的にも困難さを増す課題を突破できるような仕組みを構築する必要」があります。その対策の一つが、デジタル技術の活用、公共私の連携、外部委託その他の方法により、職員は職員でなければできない業務に役割シフトすることです。職員でなければできない業務とは、たとえばビジョンや政策の立案、福祉・健康・医療等の人的サービス提供、危機管理、利害関係者との交渉等が想定されますが、これらの業務でも、部分的にデジタル技術の利活用等の可能性もあると思います。どうしても職員でなければという業務に職員をシフトすることが必要となるのです。

 気をつけなければならないのは、シフトはすぐにはできないということです。DXやデジタル技術の導入が進んでからシフトを考えるのでは間に合いません。DXやBPRにより組織の姿をどうするのか計画するのと並行して、全体の職員数がどうなるのかを段階を追って推計するとともに、どの業務、どの仕事に職員をシフトさせるのか目星をつけておく必要があるでしょう。庁内の合意形成も必要です。また、職員でなければできない仕事とは、エキスパートとしてのスキルが求められる仕事ですから、一定の育成期間も必要です。先のことのように思えますが、準備しておくに越したことはありません。組織や人事に関することは、情報部門の仕事ではないと思いますが、主管部局と早めに意識共有をされることをお勧めします。

(3)人材育成について
 半数以下の職員で、増大する行政ニーズに応えるためには、職員のスキルアップ、人材育成が不可欠です。法制度など業務知識が必要なことは申し上げるまでもありませんが、ここではデジタルスキルについて触れます。デジタルスキルと一口に言っても幅が広いです。どういう立場の職員が、どういう種類のスキルを身につけるべきか、明らかにしておく必要があります。すべての職員に求められるスキル、DX推進リーダーや担当者に求められるスキル、情報部門の職員に求められるスキルのレベルはそれぞれ異なります。各団体のデジタル化の状況に応じて、まずここまではクリアして欲しいというレベルを、育成の基本方針として設定し、それに従って育成事業を実施すると良いのではないでしょうか。目標が明らかになることにより、職員の学習マインドも高まると思います。

 情報部門以外の一般職員に身につけて欲しいと思われるデジタルスキルは、担当の業務システムを使いこなすスキル、デジタルによるコミュニケーションのスキル(情報発信を含む)、サイバーセキュリティや個人情報保護に関する知識を挙げることができるのではないでしょうか。DX推進リーダーや担当者は、これらに加えて、データを活用して課題の発見・解決を進めるスキル、DXやBPRに関する知識を身につけていただけることが望ましいと思います。

 育成のためのプログラムは、総務省や関係団体が開催、提供する研修講座やeラーニング講座などから適宜選択します。効果的なのは、DXやBPRを実施するワーキングチームへの参加です。住民の意見や要望を聴取して政策施策に反映するデザインシンキングの取り組みや、データの利活用を検討するチームへの参加も同様です。これらのチームは、庁内の関係部局の若手職員をはじめ多様なメンバーで編成し、改革を実践する中から、デジタルに関するスキルとあわせて、改革のノウハウを身につけてもらうのです。

(4)組織風土や文化の改革について
 気がついたら改革が後戻りしていたというようなことのないように、この際、役所の組織風土や文化、マネジメントスタイル、職員の働き方などを改革するべきだと思います。新しいことにチャレンジすることを善しとする気風や、前向きに取り組んだ結果の些細なミスを咎めない組織風土を醸成することが必要です。新しいことに失敗はつきものです。それを経験として活かすことこそが求められているのです。そのために、経営層や管理職の果たす役割は大きく、常々から「挑戦」が大切であることや、「改革」を進めることの重要性を語っていただけることが期待されます。

 以上、情報部門の取り組むべき範囲を超えている部分もあるとは思いますが、DXやBPRは、本来、組織横断的な取り組みであることをご理解いただき、関係部局と連携して推進されることを期待しています。

 

 

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