ガバメント・クラウド
地方自治
2022.02.22
この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2022年2月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。
ガバメント・クラウド
(よく分かる情報化解説 第83回)
元横須賀市副市長 HIRO研究所 廣川 聡美
学ぶべきPOINT
ガバメント・クラウドの概要と、自治体が活用することで得られるメリットなどについて解説します。
1 ガバメント・クラウドとは
ガバメント・クラウド(Gov-Cloud)とは、共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)の利用環境であり、デジタル庁が「政府共通のクラウドサービスの利用環境」として整備するものです(図)。政府共通の業務アプリケーションはガバメント・クラウドの環境に構築されると同時に、各府省の整備するアプリケーションについても原則としてガバメント・クラウドの利用を検討することとなっています。
また、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」(以下「標準化法」という。)に基づく標準化対象業務(基幹系17業務等)のアプリケーションは、複数の事業者が標準仕様に基づいて開発後、ガバメント・クラウド上に構築され、自治体はそれらの中から自団体に最適なサービスを選択し、オンライン(専用回線)で利用することが可能となるよう、環境整備が進められます。
自治体の基幹業務システムについては、業務システムの迅速な構築と柔軟な拡張、更新時のデータ移行や他システム(サービス)との連携の容易性の向上、高度なセキュリティ対策、整備・運用コストの削減などの課題を克服し、住民サービスの向上と行政の効率化を図るため、原則すべての自治体が、2025年度までに、標準化基準に適合した基幹情報システムに移行することが、標準化法に基づいて定められています。現在、国において、自治体の意見を聞きながら、標準仕様作成のための作業が進められているところです。標準化されたシステムは、クラウド・バイ・デフォルト原則により、クラウドで実装されます。そのクラウドを、ガバメント・クラウド上に構築することによって、ガバメント・クラウドが提供する共通的な基盤や機能を、割り勘効果により低コストで利用することができるもので、標準化による効果を一層高めることが可能となるのです。
2 ガバメント・クラウドのメリット
自治体がガバメント・クラウドを活用するメリットは、大きく次の5点です。
1点目は、ガバメント・クラウドを活用して、サーバーや通信装置、OS、アプリ等を共同で利用することにより、割り勘効果によりコストが削減できることです。急にサービスの拡張やデータ件数の増が必要になった場合でも、短期間で柔軟に対応が可能です。既に提供されているアプリであれば、新規の利用も、短期間で開始できます。
2点目は、複数事業者のアプリを選べるので、事業者側に競争原理が働き、コスト削減やUIなどの品質向上が期待できることです。
3点目は、複数自治体がユーザとなりますので、アプリの性能やサービスサポートについてのユーザの評価を共有でき、次回更新時の参考とすることができることです。また、業務見直しの参考とすることが可能です。
4点目は、庁内外のデータ連携が容易になることです。手続きに関する添付書類をこれまで以上に省略することも可能になるでしょう(法制度の改正が必要となる場合があります。)。また、利用しているクラウドの更新時のデータ移行も容易になります。
5点目は、個別の団体では経費面等で実装が難しいと思われる高度なセキュリティ対策や、きめ細かい運用監視をガバメント・クラウドが行うことにより、低コストで高い安全性を確保することができることです。
3 ガバメント・クラウドの要件
ガバメント・クラウドは、複数のクラウドサービス事業者が提供する、複数のサービスモデルを組み合わせて、相互に接続する予定であり、高度なセキュリティが求められます。そこで、まず「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」(ISMAP)のリストに登録されたクラウドサービスであることが、選定の要件となります。
ISMAPとは、政府機関等におけるクラウドサービスの導入にあたって、情報セキュリティ対策が十分に行われているサービスを調達できるように、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)・内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室・総務省・経済産業省の連携の下で立ち上げられた評価制度です(現在は、NISC・デジタル庁・総務省・経済産業省が所管)。本制度に基づいて、クラウドサービスごとに登録監査機関の監査を受け、管理基準の要求事項に適合するとISMAPクラウドサービスリストに登録されます。政府調達においては、リストに登録されている事業者から調達することが原則とされています。
ガバメント・クラウドの調達要件は、ISMAPのリストに登録されているクラウドサービスのうち、調達仕様書に添付される技術要件を満たすクラウドサービスを運営する事業者であることが求められます。技術要件の主なものは次のとおりです。
① 不正アクセス防止やデータ暗号化などにおいて、最新かつ最高レベルの情報セキュリティが確保できること
② クラウド事業者間でシステム移設を可能とするための技術仕様書が公開され、客観的に評価可能であること
③ システム開発フェーズから、運用、廃棄に至るまでのシステムライフサイクルを通じた費用が低廉であること
④ 契約から開発、運用、廃棄に至るまで国によってしっかりと統制ができること
⑤ データセンターの物理的所在地を日本国内とし、情報資産について、合意を得ない限り日本国外への持ち出しを行わないこと
⑥ 一切の紛争は、日本の裁判所が管轄するとともに契約の解釈が日本法に基づくものであること
⑦ その他デジタル庁が求める技術仕様をすべて満たすこと
なお、2021年10月に行われた「デジタル庁におけるガバメント・クラウド整備のためのクラウドサービスの提供−令和3年度地方公共団体による先行事業及びデジタル庁WEBサイト構築業務−」の公募公告が同庁ホームページに掲載されていますので、ご参照ください(技術要件も掲載)※)。
※)https://www.digital.go.jp/procurement/posts/l4j2xC2d
4 検証のための先行事業
個人情報を取り扱う基幹情報システムをクラウドサービスで構築することについては、情報漏洩等の事故の発生を心配する自治体もあると思います。従来、セキュリティ面の懸念から、自庁内でのオンプレミスや単独クラウドを選択してきた団体もあるのではないでしょうか。デジタル庁では、自治体が、ガバメント・クラウドに構築する基幹業務システムを安心して利用できるようにするために、課題の検証を行う先行事業を2021年度から2022年度にかけて実施しています。前節の後段に述べたデジタル庁の公募案件は、そのための事業者を選考したものです。検証に協力する市町村を公募したところ52件の応募があり、8件が採択されました。
先行事業の内容は、ガバメント・クラウドのテスト環境に、市町村が現在利用している基幹業務等システム、又は導入を希望する基幹業務等システムのアプリケーションをリフトし、市町村が安心して利用できることを検証するものです。リフトとは、マイグレーションの1種で、安定稼働している既存システムをそのままクラウドに持ち込み、動作を検証後、漸次クラウドに最適化させるものです。検証のポイントは、標準非機能要件の検証、標準準拠システムの移行方法の検証、投資対効果の検証の3点です。先行事業による検証結果がフィードバックされ、課題があれば対応が図られます。先行事業参加団体は、その後、ガバメント・クラウド上の本番環境に移行します。検証終了後、利用団体が順次拡大され、2025年度末には、原則すべての自治体が、ガバメント・クラウド上の標準仕様に準拠したクラウドサービスを利用するようになることが目標として示されています。
5 行政サービスのトータルデザイン
2021年12月24日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(以下「重点計画」という。)において、国民に対する行政サービスのデジタル化の推進にあたり、国・地方公共団体・民間を通じたトータルデザインを志向し、実現することが大事だと述べられています。デザインとは政策設計の意で、重点計画には、「品質・コスト・スピードを兼ね備えた行政サービスに向けて、アーキテクチャ設計の在り方を根本から見直す」とされ、具体的には、自治体現場の課題を踏まえ、アプリケーション、情報連携基盤、ネットワークやクラウド等のインフラについて、トータルデザイン実現に向けた制度的・技術的検討を進めることとされています。
そのために、マイナポータルの抜本的改善の検討、ワンスオンリーを前提とした情報連携基盤の見直し、データを適切に管理するための仕組みの検討等を進めるとし、インフラの検討にあたっては、三層の対策の見直しを含めて、ガバメント・クラウドの活用を前提とした新たなセキュリティのあり方について、常時診断・対応型のアーキテクチャの採用も見据えながら、国・地方を通じたネットワーク環境の検討を進めるとしています。これらのアーキテクチャの中心的役割を果たすのがガバメント・クラウドであることは申し上げるまでもありません。利用者目線に立って行政サービスのトータルデザインが進められることを期待しています。