東西南北デジデジ日記 vol.37 特別編 ~自治体DXの2022年夏~

地方自治

2022.06.30

 

成功事例には成功事例たるゆえんがある

山形:僕は今、業者目線なわけで、しばらく皆さんのお話を聞いていたんですが、ホントそのとおりです。
話に出た「書かない窓口」。これは否定的な意見ではないと前置きしたうえで意見を言いますと、多田さんがおっしゃったようにこの成功は北見市が10数年間、BPRをやり続けた成果があるからこそであり、埼玉県深谷市もちゃんと推進できる人たちがいたからこそうまくできたのであって、「書かない窓口」は、他自治体ではそのまままるごとインストールすることはできない。これは100%言えること。

千葉:そうなんですよ。両市は新庁舎だというのも成功要因の1つです。北見市は新庁舎の前からやっていたけども、深谷市は少なくとも新庁舎が契機になっています。

山形:「書かない窓口」をそのままコピーせずとも、例えば、(行政手続きデジタル化ツールの)「LoGoフォーム」などで共通の登録フォームを作れば、窓口でシステムを作らなくても、住民から聞いた情報を職員がタブレットか何かでバーッと打ち込んでデータ化すればできるわけだから、それを後ろ(バックオフィス)に投げればデータができあがります。考えればできることであって、国が成功事例としているからと、「書かない窓口」をそのままコピーしようとするのは、ちょっと待って、と思う。

多田:新しい道具をひたすら買い続けるとか、とりあえず道具を揃えちゃうとか。その点は多分、財政をやられていた今村さんがすごく憤っておられるところだと思います。

今村:財政部門を卒業していてよかったなと思いますね。このDXの時代にもし財政課長だったら、本当はさっきの道具の話でもうキレてたと思います。
(財政在籍時の)電子化・高度情報化の頃から、「それ、本当に必要ですか?」っていう話をずっとしていて。当時はまだその目的がちゃんとあって、「これはこの業務の効率化のために」と説明があったのですが、今は何でももう「そこのけそこのけDXが通る」で、目的よりも行動よりもその手法ありき。何を実現したいかの議論がないばかりか、何をしたいか考える前に何を買おうか、何を導入しようか、になってる。極端に言えば、何か新しいツールを導入すれば、それが魔法の杖のように何かを自動的に実現してくれる、みたいな感覚があるんじゃないですかね。

多田:デジタル化とかDXしたら「変わっちゃう」みたいなね。

今村:そうそう。それで、「交付金、使えますか」が続く。さっき多田さんがおっしゃったように、「ツール入れて何しよう」ではまったく話にならなくて、やっぱり「何をしようか」という課題解決が先にないと、「じゃあどのツールを選ぶ?」「そんなに金かけるの?」という話ができないはずなんですよ。全国でDX狂騒曲をやっていますが、おそらくほとんどの自治体で、入れるもの・買うものから考えていると思いますよ。

さらに言うと、課題の話をしたとしても、「我々の今の業務プロセスって本当にこれでいいんだっけ?」の点に立ち返って考えないと、今やっていることをそのまま機械に置き換えただけになってしまう。

これって、今までの電子化でずっと繰り返してきた失敗なんですよね。それぞれの自治体で独自に進化した業務プロセスに合わせるために、汎用ソフトをここまでやるかというくらいにカスタマイズしてガラパゴス化してきた過去もありますし、ハンコが要らなくなった代わりに本人認証がめちゃくちゃ大変になるとか、誰得な感じもあります。デジタルを活用して何を実現したいかってところの議論が抜け落ちてるんですよね。

 

デジタル化の取り組みの罠

―――この分野でよく言われる「ツール導入が目的になっている」問題の外枠が理解できた気がします。でも、どうしてそんな問題が浮き彫りになっちゃうんでしょうか。

千葉:DXやデジタル化は、間に「デジタルツール」が1つ入るところが他の施策と違うところかなと思います。だから、デジタルツールに頭がとらわれてしまい、ツール導入が目的になってしまいがち。これがよくない。議会でも「隣の市はあのツールを導入したが、なぜうちはやらないのか」といった質疑が入るから、つい、「導入」に引っ張られる。

多田:AI・RPAの時は大変でしたよね。今、加古川市にはDecidimの問い合わせでたくさん電話がかかってきますよ。

千葉:「うちで▲▲のツールを導入しても使い道あるのか」とも聞かれてしまう。いやいや、逆でしょうと。

今村:「デジタルツールならなんでもできる」とみんな錯覚しているから、何かの道具を買うことが目的化してしまう。

千葉:ましてや、さっき多田さんがおっしゃったように、金太郎飴だからなおさらなんだよね。これとりあえず買っとこうかな、となりますよね。

多田:買ったらね、みんな納得するんですよ、なぜか。でも、遊ばない。
さっきのファミコンの例と同じで、1週間遊ぶかというと結局遊ばないんですよね。同じことがDXでも起きている。「周りの子がみんな持っているからめちゃくちゃ欲しい」って言うから買ったのに、「なんかもう飽きたから」と言われる。

 

そのDXは誰を幸せにするか

山形:これ、僕、結構いろんなところで話してるんですけど、この前の僕の住んでる森町で大きなDXが起きたんです。
おかげさまで森町にはまだJRの特急が走ってまして、僕たちは札幌に行くときによく利用するんですが、少しでも安く行きたいのでJRのパック商品を買うんですよね。今は便利な世の中なのでネットで購入できるようになっていて、なまら便利だった。
それが、先日、いつもどおりパックを買ってJR森駅に受け取りに行ったら、ここではもう発券できないから函館などの駅で受け取ってください、と。
いや、正確に言うと、数日前に購入すれば、紙のチケットが「郵送」されてくるらしいんですけど、仕事って前日とかにくるわけじゃないですか。パックの前日購入だと郵送が間に合わない、前日に買うならわざわざ逆走しなきゃならんってことですよ。
すでにデジタル化をしていたものの、さらなる効率化を進めていくうえで発生した歪みだなと思うわけです。

気持ちはよーくわかるんです。でも本当なら、自動改札的な機械やスマートな券売機を入れてくれればいい話ですもんね? デジタルをデジタルで扱わず、紙をデジタル化している発想だからこうなるのであって、これって、行政で行われていることとなんか同じなんですよね。

無理やりDXをしたせいで、設備などのデジタル化にお金をかけずに見た目(表面)だけをやってしまったおかげで、実は、利用者にとって不便になったよね、そんなことがこれから先、多分たくさん起きるのでは。
住民はもちろん、企業もそうだし、役場に働いてる人もそう。全員にとって絶対不便なことが起きてしまいかねない。DXが進むこの1、2年は分析のしがいがあるなと思っています。

千葉:そう、本当に今は過渡期なんですよね。

多田:だから、システムを入れたからって便利になるとは限らない。

千葉:それに、運用にしわ寄せがくるようなシステムって、おそらく持っても2、3年が限度でだんだん淘汰されていきますよ。書かない窓口は、自治体によっては思ったより手間がかかるところもあるようです。

 

答えはひとつじゃなくていい

―――他自治体事例を単にコピーするDXの弊害は、利用者にとってメリットのあるものを生まない可能性もある。

千葉:うちの課のメンバーにも言ってるんだけど、答えは1つじゃないんです。
「うちはお客さんが書かないという部分だけできればいい。BPRとか正直、知らないよ」という温度感でやっている自治体もあると思いますし、「書かない窓口」以前にシステムをすでに入れて動かしている自治体もあるわけです。

山形さんがおっしゃったように、そういう議論が置き去りにされて、理想論だけが先走っているのはあまりよろしくない。1700も自治体があるのだから、「うちは一流のシステムじゃなくてもいいんです」ってとこだってあるでしょう。そういう自治体にはそういうシステムがポコッとハマるわけで。

山形:そうそうそう。

千葉:必ず「一流に統一しよう」にしなくてもいいと思うんです。

山形:おっしゃるとおり。DXだなんて構ってくれるな、こっちはうまいことやるから、もあってもいい。

 

どんな山を登ってもいい

多田:冒頭の山登りの話に戻ると、「書かない窓口」の北見市と深谷市は、同じ高い山を登り切った山頂でがっちり出会えたということです。他の自治体は同じ「書かない窓口」の山を登れているのかはわかっていなくて、何かしらの山に登っている。その山の頂上には、北見市や深谷市がいない可能性はある。

千葉:そうそう。北見市と深谷市が登ったらキリマンジャロかもしれないけど、他の自治体が登っている山は高尾山なのかもしれない。

今村:どの山に登った自治体が幸せかは、自治体が決めることなんです。

一同 :それはホントそのとおり!

千葉:周りがどうこう言うことじゃないですね。

今村:高尾山でもいいんですよ。高尾山を望んでいるんだったら、高尾山で。

多田:ゴールをちゃんと決めればいいんです。自分たちで判断すればいい。取り組む人間が責任をもって。
「あれ、気づいたら高尾山を登っちゃってました…」がおかしいわけで、「僕らは高尾山を目指していて、ちゃんと高尾山を登っていました」なら、それでいいんですよね。つまりは、ちゃんと住民に説明できるかできないか。

千葉:そうです、そうです。キリマンジャロが高いから、キリマンジャロを登った自治体がスゴイ! となるのはそれもよしで、高尾山を登ってる自治体だってあっていいでしょう。そういうことを知ってもらいたい! そのうえでDXを進めていきましょう!

~ おわり ~

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千葉大右・多田 功・山形巧哉・今村 寛

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