東西南北デジデジ日記 vol.37 特別編 ~自治体DXの2022年夏~

地方自治

2022.06.30

東西南北のそれぞれで奮闘する現役自治体職員と元自治体職員4名によるリレー日記である本連載。「自治体DX」をいろいろな視点からゆるーくのびのびお届けしてきました。連載開始から半年超、普段は各地で日記をしたためる4名がオンライン上で一堂に会し、あらためて現在地を振り返ってみました。(聞き手:本連載担当)

―――――2022年6月30日 Thu.―――――――


上段/山形巧哉さん(【北】北海道森町)、千葉大右さん(【東】千葉県船橋市)
下段/多田 功さん(【西】兵庫県加古川市)、今村 寛さん(【南】福岡県福岡市)

 

自治体DXの現在地ってどのあたり?

―――早稲田大学電子政府・自治体研究所「世界デジタル政府ランキング2021年度版(*1)」によると日本は第9位。おお、高い順位ですね。一方、自治体の状況はといえば、DX推進の全体方針を「策定している」と回答した自治体は、都道府県が61.7%(29団体)なのに対し、市区町村は12.9&(219団体)に留まっている様子(総務省「自治体DX・情報化推進概要(*2)」(令和4年3月))。
…と本連載では珍しく(?)かしこまって数字を並べてみましたが、自治体DXの今の現在地について、現場を知る皆さんの感触をざっくり知りたいです。富士山で言えば何合目ぐらいにきているんでしょうか?

*1  https://www.waseda.jp/top/news/77199
*2  https://www.soumu.go.jp/main_content/000804041.pdf

 

千葉 :2合目くらいかな。

―――2合目。

千葉 :そもそも、2合目まで行っている…のか。

多田 :僕は、みんなが登っている山が同じ富士山だとは思えないんですよ。

山形 :僕もそう思う。

千葉:(J-LISの理事もされていた株式会社地域情報化研究所代表取締役の)後藤省二さんが1年前くらいに、DXを山登りに例えて話をしていたのを思い出しました。「登っている山は、キリマンジャロなのか高尾山なのか、まだ全然わからない」って。

多田:あの山の山頂を目指してってよく言うじゃないですか。いや、その山って、高尾山なのか富士山なのか、キリマンジャロなのかわからないけれど、みんな、「誰かが登っているだろう」とは漠然と思っている。どこかから誰かが登ってるだろう、どうやら山頂はあるみたいだ、って。

でも、みんなが目指しているのが同じ山の山頂なのかまではわからないんです。登って頂上に着いた瞬間に初めて、「あ、千葉さんとこの自治体がいたね」ということに気づく。山登りって、登っている最中、下山してる人とはすれ違うんですけど、同じようなペースで登っている人に出くわすことはあまり多くない。だから、自分は富士山と思って登っているけれど、はたして本当に富士山か、実は高尾山かもしれない…、それを確認する術もわからない。

千葉:「降りてくる人には会うけど、登る人には会わない」。おお、なるほど。

―――先進団体の取り組み後(下山)の姿は見ることができるけれど、推進しているとき(上り)には一緒のルートを歩いている人が見えにくい、と。どうしてこうなってしまうのか、もすこし詳しくお願いします!!

 

自治体事例を知りたいと言うけれど

―――取り組みを始める際、まずは他自治体事例を知るというのが定石ですよね。登る山を決める意味でも、他自治体事例を知りたいのでしょうか。そんな読者のために、皆さんが注目している自治体を教えてください!

千葉:いやあ、これはね、どこかの自治体に注目とかじゃないんですよ~。

多田:うん。そうじゃない。

千葉:DXに限らず他の施策も同じで、やる気のある人がいる自治体やお金のある自治体とかが取り組みを進めるんだけど、あとに続く自治体が現れず、それで終わっちゃうの、たいていは。

(一同うなずく)

千葉:(武蔵大学の)庄司昌彦先生のインタビュー記事で、「他団体の事例を教えてくださいってよく聞かれるけれど、他団体の事例なんて追っかけてもしょうがないですよと言っています」といった内容をお話しされていて、本当にそうだなと思いました。

―――それでも他団体事例ってほぼ100%の確率で求められますよね。

千葉:自治体向けに話をするときのフックとして他団体事例は含めています。
総務省情報化アドバイザーの仕事の際も他団体事例は絶対出します。「この4月から自治体DXの担当になった新任です、何もわからないです教えてください」という人がいたら、いきなり本質の話を聞かせても伝わらないんですよね。たとえ聞く側が熱心であっても、難しい話をそのまま話しても伝わらない。「隣の町、あの町ではこういうことをやっています」、「有名な事例は加古川市です」と入れるとイメージがしやすい。それでもやはり、他団体事例を追っかける必要はないから、引っ張られすぎないでほしいです。

 

マネるならここをマネなきゃ

多田:他自治体事例をコピーしてできるのならばとっくにできているんですよ。
ただし、コピーは、他自治体事例と地域の特性が似ているなどコピーできる共通点があってこそ。加古川市がDecidim(デシディム)を導入できた背景には、課題があって、やっぱり先進事例との共通点がなければコピーできないですよね。よく、他団体に視察に行ってコピーしようとしますが、できるわけないやん。その地域の文化が関係しますし、成功には努力の結果があるわけです。

令和4年からデジ田交付金(デジタル田園都市国家構想推進交付金)などがありますが、これまでと同様に、他の団体を単にコピーする金太郎飴のような取り組みに活用しちゃいますか? そういうDX、進むと思いますか?

千葉:多田さんがおっしゃったように、他団体事例の単なる追っかけも、やること自体が目的になっちゃってる。そもそも自分の自治体の課題が先にあって、その課題解決のために何かやるのに。まずは、「それ、あなたの自治体の課題と関係ありますか?」を考えてみましょう。

多田:「みんなが持ってるファミコンを俺にもくれ」、なんですよね。
例が古いですが(笑)、子どもがクリスマスに「ファミコン欲しい」って言うから、親はファミコンを子どもの枕元に置いておくじゃないですか。するとね、翌朝に暴動が起きるんですよ、「ソフトがないから遊べない!」って。親は、ファミコンが欲しいって言われたからファミコンを買ってきたのにと逆ギレするわけですよ。逆に、ソフトだけでも、ファミコン本体がないと遊べない。

DXでいえば、他自治体事例をコピーすると、そのツールだけはやって来るんですよね。
ファミコンでいうソフトの部分である「精神」とか「魂」が入ってないものだけ買っちゃうみたいなことが起きるので、自治体事例をコピーだけしても意味がなくて、やっぱりそれをやるマインドが大事なんです。

―――「精神」、「魂」、「マインド」。他団体事例で一番入手すべき情報はコレなのですね。

 

道具は操る人こそすべて

千葉:いまデジタル庁が取り組んでいるデジ田のTYPE1(令和3年度補正予算デジタル田園都市国家構想推進交付金(デジタル実装タイプTYPE1及び地方創生テレワークタイプ)の交付対象事業)で一番多かったのが、(北海道北見市や埼玉県深谷市が先進事例として知られる)「書かない窓口」なんですが、これ、70団体が採択されています。この70団体が軌道にのるよう、やる気の醸成のお手伝いをしています。

―――「書かない窓口」って市民が申請書などを書かずに職員の聞き取りにより住民票などの交付が受けられる窓口の仕組みですね。「やる気の醸成」とは例えばどんなことですか?

多田:取り組みを進めるにあたって、どんな手順でやったらいいのか、躊躇する関係部署をどうやってプラスの方向にもっていくことができるかとかですよね。

千葉:すでに取り組んでいる団体がアドバイスや情報提供をしていますね。例えば、企画部門や情シス、行革部門って、交付金の募集が始まると、全然オーソライズされていない段階からとりあえず応募してしまうんですが、その段階から話をちゃんと現場に持っていったほうがいいですよ、とか。なるべくバックアップをして、70団体が推進できるようにしています。つまり、ツールを入れるだけにならないようにと。

多田:北見市の事例でホントに大切なのは、10年ぐらいかけて徹底的に窓口業務の問題点に向き合い、業務改善のためにデジタルを活用した結果なんですよね。
単なるデジタル化ではなく、本質的に仕事のやり方を変えていったことが評価につながっているんだと思います。 そこは、先にスキー道具を買っちゃうじゃなくて、道具を買って、ちゃんとスキー行くのかというところを考えないと。

千葉:そもそもスキーやってたっけ? と。

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