インタビュー すべてのプロジェクトの基本は “顧客ファースト” にあり(特集:効果的な外部ITリソースの活用)

地方自治

2021.08.27

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2021年6月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

渋谷区副区長・CIO/CISO 澤田 伸
すべてのプロジェクトの基本は “顧客ファースト” にあり

 

(月刊「J-LIS」2021年6月号)

 行政にも多様性が強く求められるなか、デジタル化を進めるにあたっても、組織内だけではなく、いかに外部と連携するかが問われるようになってきています。そこで、民間から副区長へと就任し、組織文化の変革やコミュニケーション力のある人財育成などに注力して成果を上げている渋谷区の澤田伸氏に、外部との連携の意義や、これからのICT人財に求められる能力や役割などについて話を聞きました。

基礎自治体は究極のサービス業

──2015年10月に東京23区初の民間出身の副区長として就任されましたが、外部から地方自治体の要職に就くことの意義や仕事のやりがいとはどのようなところにあると考えますか。

澤田副区長 東京23区で民間出身の副区長は今もまだ私だけですし、全国的にも民間出身の副市区町村長というのはあまり多くはないことからも、行政で仕事をすることの魅力が民間人に十分に伝わっていないのではないかと思います。地方自治体という組織にも多様性が求められていくなかにあって、本来であれば私のようなクロスセクターな人間が、もっと地方行政ならではのやりがいなどを伝えていかないといけないのでしょうね。また、各地方議会も「外部の血」を取り入れることによる多様性の意義を、理解し認めることが大事でしょう。

 行政、それも基礎自治体ならではの良さというのは、究極のサービス業であることではないでしょうか。地域住民と直接接してサービスを提供するという、これほどやりがいのある仕事はないはずです。地域社会に直接的にコミットメントしているのが我々であり、社会課題を解決するために直接向き合えるというのは、幸せというほかありませんから。今は民間でも「SDGs 」1)や「ESG」2)などへの注目度が高まっていて、社会課題の解決にどのように貢献できるかで企業も評価されるようになってきています。こうした動向は自治体職員にとってもチャンスであり、本当の意味での官民連携ができる世の中になってきていると言えるでしょう。

1)持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)のこと。
2)環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)のこと。

 そして業務としての考え方や進め方も、サービス業という観点からはまったく同じでしょう。マーケティングにせよ財務にせよ、すべてサービス業の側面から語ることができるのです。にもかかわらず、まだまだサービス業というアプローチでできるはずの業務改革は進んでいません。言い換えれば、これほどの成長の余白が残っているセクターというのは、いまや公共セクターぐらいではないかとも言えるはずです。

 私にとっては、渋谷区という今の職場は“5社目”の職場にすぎません。おかれた環境で与えられた課題を、スピード感をもって効果的に解決していく。それを実践し楽しむということに、民間も行政も何ら変わりはないわけです。私が副区長となった直接のきっかけは、広告会社に勤めていた当時の後輩(現渋谷区長・長谷部健氏)が区長に当選した際に、「ぜひやってくれませんか」と声を掛けられたことにあります。首長の政策を実現するために、ある意味裏方として区政を支えるのが事務方のトップである私の使命だと考えています。その使命を全うするためには、変革を実践し、できる限り短期間で結果を出さねばなりません。そしてそれには、さまざまな人財を混在させてダイバーシティを活かしながら、計画と実行、修正をアジャイルで回していくことこそが大事だと言えるでしょう。

DXは“顧客ファースト”実現のためのツール

──副区長の就任時に感じられた課題とはどのようなもので、その課題解決に向けてどのように取り組んでいったのでしょうか。

澤田副区長 真っ先に感じたのが「チェンジマネジメント」、つまりマネジメントのあり方を変えることの必要性でした。世の中では社会構造の大きな変化が生じているなか、それに応じて渋谷区もまたどんどん変化していかなければ、たとえ自治体といえども生き残ってはいけない時代です。しかし区の業務を見ると、オペレーションがメインとなり、いかに経営資源を組み合わせて成長へと結びつけるかという経営のサイクルがまわっていないと感じました。

 そこで着任してから1か月の間に、さまざまな所管からレクチャーを受けて、そうしたなかで感じた課題を区長と共有しました。これらの課題は今ではほとんど解決していますが、いずれの課題もそのベースにあるのは、情報共有が十分にできていないことでした。そのため、真っ先に情報系のシステム基盤の刷新を図りました。今では組織内のコミュニケーションツールはチャットが中心となっています。また、デジタルデバイスを活用することで、ストレスなくまた画期的に業務生産性を高めることができるよう、新庁舎への移行に合わせて各種ICTインフラ環境も整備しました。

 先ほどもお話ししたように、基礎自治体は、行政組織のなかでお客である地域住民の方々と唯一つながっているタッチポイントですので、当然顧客志向でなければいけません。そのため情報システムもまた、顧客に必要なサービスを提供することを唯一最大の目的として整備するべきであり、そのコストは顧客へのリターンのための投資であるとみなすべきではないでしょうか。

 なので、昨今叫ばれているデジタル・トランスフォーメーション(DX)も、それ自体が目的となってしまっては本末転倒であり、顧客の幸福度などを高めるためのサービス向上の手段として取り組まないといけないでしょう。例えば、渋谷区ではほぼ100%電子決裁を実現しており、紙決裁の頃と比べて決裁に要する時間が半減しスピードは各段に向上していますが、それもすべて顧客である地域住民の皆さんにより良いサービスをよりスピーディにお届けするためです。顧客である住民の皆さんは何かしらの困りごとなどを抱えているから基礎自治体へと足を運んでくださるわけですから、そこでしっかりとニーズに応えられるようなサービスが提供できる環境を整えておくことは最優先事項であるはずなのです。

 いま渋谷区では、基本構想のなかで「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」というビジョンを掲げています。これはつまり、競争力の発揮には多様性が重要であり、多様な人間の集団こそが成長の源泉であるということで、それは行政も同じはずです。顧客がいて、顧客ファーストでサービスを提供するという仕事自体の目的は、区の部署を問わず共通項となります。ですから、この共通項を拡大していくことに注力してきました。

 まずは自分たちが便利になることから始めようと、デジタル化も進めてきました。自分たちがデジタルの恩恵を最初に受けることで、顧客の利便性のためにペーパーレスを推進しなければいけない、といった発想ができるようになるはずですからね。

 また、変革の文化を全庁内に醸成するにあたって、職員との議論や対話を通じて“腹落ち”させることを重視しました。一般職員を対象にした新庁舎プロジェクトのワークショップや、誰でも参加可能なマーケティング勉強会「YOU MAKE SHIBUYA塾」、係長級を対象にした政策形成研修など、各種研修やワークショップなどの開催回数は78回、合計120時間に及びました。そこで用いる計1,200ページ分のテキストもすべて私が作成しました。私としても、多くの職員と接することで職員の適性を見極めることができ、結果、適切な人財配置につながったと感じています。

サービスをデザインできる人財を育てる

──ICT人財の育成方針についてお聞かせください。また、ICT人財・DX人財に期待すること(役割)もお願いいたします。

澤田副区長 重要なのは、カスタマーサービスのデザインができるかどうかであり、それがすべてと言っても過言ではありません。コードが書けるかどうかなどは決してICT人財の本質ではなく、顧客に最適なサービスを提供するためのツールとして、どういったソリューションを使うべきなのか、それを考えることが最優先であり、また考えられるような人財が求められるはずです。組織とは人であり、また人の能力以上の組織にはならない、と私は考えていますので、人財育成には時間をかけて取り組んでいます。

 今年度は、22のプロジェクトがICTセンター3)で取り組まれていますが、それらのプロジェクトのすべてにPM(プロジェクトマネージャー)とPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を置いています。すべての責任はプロジェクトオーナーであるCIO、つまり私が負うので、このPMの経験をさせることが、最大の育成になると考えています。PMには、年齢や役職は問わず、適材適所で最もふさわしい人が選定されます。プロジェクトメンバーの選定でその結果の8割が決まると言っても決して大げさではありません。PMとなったその人自身が、自分が真ん中に立っているプロジェクトであること、そしてそれは職員のためではなく、顧客のためのものであることを実感しながら仕事をすることが、本当に必要な成長へとつながると信じています。

3)渋谷区で情報政策を担当する部署のこと

 プロジェクトはスクラム型のマネジメントスタイル(図)であり、外部のパートナーの力をより効果的に引き出すことが必要となります。そうした外部の人財をうまく活用するための連携力もPMには強く求められてきます。

 地域の課題や、そうした課題を解決する新しい事業について考える時間があったほうが、顧客からいただいている税金をより有効に使えるようになるでしょう。だからこそ、ICT人財であっても、PCを使うことがメインの業務になるのではなく、地域に出ていって課題を感じ、その解決策を考えられるようになることが重要です。顧客とのコミュニケーションが基礎自治体の本質であり、顧客からの“ありがとう”の言葉の数だけ地域は良くなり成長できるのです。この“ありがとう”の言葉を得ることというのは、カスタマーサービスの基本中の基本ではないでしょうか。

「チェンジメーカー」が変革のカギに

──最後に、他の自治体のCIOやDX担当者にひと言メッセージをお願いできますでしょうか。

澤田副区長 同じような取り組みをしたいというニーズがあれば、要件定義書からコストの内訳まですべて公開しますし、どのように取り組んだのかなどもお伝えしますので、ぜひ声をかけていただきたいですね。

 よく、「渋谷区だからできるのでは」と言われるのですが、決してそんなことはありません。特にコスト面で「うちでは無理じゃないか」といった声を聞きますが、渋谷区こそ少ない予算のなかで、ギリギリまでコストダウンしながら取り組んでいるのですから。大事なのは、リターンを十分に得られるかどうかであり、リターンを得られればその分だけ投資もできるようになります。リターンとはつまり顧客の満足度がどれだけ向上したかであり、そこには徹底的にこだわっています。

 そして、変革を進めるためには、「チェンジメーカー」は必須条件となります。まずはスピーディにスタートし、ただずっと考えるのではなくとにかくアクションを起こし、取り組みはウォーターフォールではなくアジャイルに、といった変化が欠かせません。従来のように調査から要件定義をして基本設計をして……などと時間をかけるのではなく、まずは自分たちのフロアからだけでも新たな取り組みをしてみようというぐらいのマインドが大事でしょう。そしてそのためには、「若者」や「よそ者」といった新しい目線を持つ人たちが効果を発揮するはずですので、新しいチャレンジを若い人たちにもどんどん任せてしまうようにしてみてはいかがでしょうか。

 

 

Profile
渋谷区副区長・CIO/CISO
澤田 伸 さわだ・しん
 1984年立教大学経済学部卒業。消費財メーカーのマーケティング・コミュニケーション部門を経て、広告会社へ転じ、統合型マーケティング・コミュニケーションのアカウントプランニング及びマネジメント業務を統括。その後、外資系アセットマネジメント企業、共通ポイントサービス企業を経て、2015年10月に東京都特別区特別職として渋谷区副区長に就任。現在2期目。CIO/CISOを兼務する。

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

特集:効果的な外部ITリソースの活用

月刊 J-LIS2021年6月号

2021年6月 発売

本書のご購入はコチラ

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中