特集 自治体DX の推進に向けて 事例紹介:地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院 地域連携で病院の業務効率化と経営改善を実現

NEW地方自治

2021.08.20

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2021年5月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院
地域連携で病院の業務効率化と経営改善を実現

(月刊「J-LIS」2021年5月号)

 山形県酒田市に位置する日本海総合病院では、マイナンバーカード利活用の実証実験に積極的に参画しているほか、地域の医療機関で患者情報を共有する仕組み「ちょうかいネット」の構築や、10法人で人材交流や経営の連携を図る地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」の設立など、地域医療の構造改革やICT化を進めています。

 その一連の取り組みについて、地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構日本海ヘルスケアネット推進室の矢野剛主査、同機構日本海総合病院管理課情報システム係の佐々木邦義主査と齊藤塁主任に伺いました。

地域の課題解決のため医療機関をつなぐ

 2008年4月に、山形県立日本海病院と酒田市立酒田病院が経営統合し、地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構が誕生、日本海総合病院は高度急性期医療に特化した病院として、新たに開院しました。診療科は27、許可病床数は630床で、3次救急医療機関として、庄内地域(酒田市、鶴岡市、遊佐町、庄内町、三川町)約27万人の健康を支えています。

 また、2011年4月には、山形県・酒田市病院機構のみならず、庄内地域の医療・介護施設が個人情報を保護したインターネット回線を介することで、診療情報を共有する「ちょうかいネット」1)の運用を開始、地域で連携して患者を見守っています。

1)http://www.nihonkai-hos.jp/choukai-net/

 「庄内地域は県内の他地域と比較しても人口10万人あたりの医師・看護師数が少なく、高齢率も32.7%(全国平均26.6%)と深刻です。関係医療機関が情報共有しながら役割分担をして、限られた医療資源を効率的に活用していかなければ、地域医療が成り立たなくなるおそれがありました」と、佐々木邦義主査はちょうかいネット創設の経緯を話します。

 複数の医療機関で情報共有ができないことで、救急搬送時に患者情報をすぐに確認することのできない不便さもあったとのことで、「東日本大震災の時には情報連携の大切さを再確認させられた」と佐々木主査は続けます。

 ちょうかいネットは、患者に付番されたIDを医療・介護施設が必要に応じて検索、情報を取得する仕組みです(図−1)。齊藤塁主任は「たとえば、Aという患者さんからB病院に自分の情報を開示してもよいという同意書が提出されると、我々事務局はネットワークサービス上で、B病院からAさんの医療情報へのアクセスが可能になるよう設定します。こうすることで、患者さんは情報を開示したい病院にだけ開示し、それ以外の施設は見ることができません」と個人情報保護について話します。

 運用開始から10年が経過し、実績について佐々木主査は次のように説明します。

 「関係医療機関で医療情報を共有することにより、患者さんに急性期から回復期、在宅医療まで、切れ目のない一貫した医療を提供することができるようになりました。また、登録患者数は運用開始からの10年間で4万8,759人です。高齢者が多い地域なので相対的に高齢者の利用が多くなっていますが、小児科など幅広い年代に利用していただいています。また、参加施設数は226施設で、隣の秋田県とも連携しています」。

 酒田市は山形県北部に位置し、秋田県と隣接しているため、秋田県から通院する患者も多く、県をまたいで連携することに大きなメリットがあるとのことです。

ちょうかいネットの実績を活かして総務省実証実験に参加

 ちょうかいネットの取り組みは「地域ICTの成功事例」として総務省から高い評価を受けています。この信頼感がベースとなり、2014年度に総務省がマイナンバーカード利活用に向けて行った実証実験への参加が要請されました。「マイナンバーカードの制度設計中で、何に使うことができるのかを各分野で検討している時期でした。医療分野では、健康保険証としての利用やクレジットカード機能が考えられており、もしそれが実現すれば、受付や事務の業務負担軽減になり、患者さんの利便性向上にもつながります。これまでの当院の実績を活かせば、実証実験の場としてお役に立てる」と考え実証実験に参加したと佐々木主査は話します。

 チラシや市の広報誌などで周知を図り、院内の総合受付に特設ブースを設置して案内したところ、10代から高齢者まで280名のモニターが集まりました。実証実験後のアンケート調査では、75%が「マイナンバーカードの保険証利用は便利」と、87%が「マイナンバーカード1枚で受付から決済まで複数のサービスが利用できる点が便利」と回答したとのことです。

 今秋からマイナンバーカードの健康保険証利用が始まるにあたって、日本海総合病院では、2月にこれまでの経験を活かして他の医療機関に先駆けてプレ運用をスタートさせました。

 「従来のレセプト業務では、患者さんが持ってきた保険証の記載内容を事務員がパソコンに手入力で転記したり、前回と変更がないかチェックしたりしていました。しかし、本人が転居して現住所が変わっていたり、保険証の有効期限が切れていたりすると、社会保険事務所のデータと異なるため、誤請求となって病院に戻ってきてしまいます。こういう場合、患者さんに改めて新しい保険証を提出してもらい、翌月にレセプト請求をやり直さなくてはなりません。手間暇がかかりますし、診療報酬の振込も1か月先になり会計処理が複雑化します。その点、今は正確なデータが瞬時に取得できるので、これらのロスがなくなりました」と佐々木主査はいいます。

「調剤情報共有システム」で患者にさらに寄り添う

 日本海総合病院では平成30年度に「調剤情報共有システム」の構築と運用を始めました(図−2)

 患者が複数の病院や薬局で薬をもらっている場合、薬の飲み合わせの問題や同じ作用をもつ薬の重複投与の問題などが起こり得ます。調剤情報共有システムでは患者さんがどの病院で何の薬をもらっているのかを薬剤師が確認できるので、適切な調剤によって事故を防ぐことができます。また、「ちょうかいネット」と連携することで、入院中の投薬情報を確認できるほか、ジェネリックなど処方箋と異なる薬を服用していることを医者が把握できるようになり、より患者に寄り添った医療を提供できるようになっているとのことです。

 現在、調剤情報共有システムには、酒田地区にある60の保健調剤薬局の約8割が参加しています。

地域の10法人で連携し経営・医療資源の効率化を実現

このように庄内地域の医療効率化を牽引してきた日本海総合病院ですが、さらに踏み込んだ構造改革にも取り組んでいます。2018年4月に、北庄内地域の9法人で連携する「日本海ヘルスケアネット」2)(現在は10法人で構成)を設立しました。経営を異にする法人がその垣根を越えて手を結び、人材交流や医療資源の効率的活用を図り、地域医療を支えるという試みです(図−3)

2)https://nihonkai-healthcare.net/

 日本海ヘルスケアネットの意義について、矢野主査は次のように力説します。

 「庄内地域は先にも述べたように、医療資源が脆弱で、少子高齢化や過疎化も進行しています。このままでは医業経営は先細りで、個別の経営では成り立たないところが出てくると、地域医療は崩壊してしまいます。そこで、部分最適(個別での経営)ではなく、地域全体で黒字化するために、役割分担をして地域医療を守る方向にシフトしたのです。

 最初は5法人で勉強会を重ねて意思統一を図りながら、少しずつ賛同者を増やして今の体制が整いました。連携の効果は早くも目覚ましいものがあります。

 医療従事者の確保が喫緊の課題であったため、まず連携病院間で人材交流を行っています。このことで、休日の診療体制を確保できるようになったほか、医師の手術技術の向上や、当直のために東京から医師を呼ぶ必要がなくなり交通費や宿泊費の削減につながっています。また、地域で保有するCT装置の台数を絞り、画像検査の必要な患者さんにそこに行ってもらうことで、各々の病院で高額な装置にコストを割かなくて済むようになりました。さらに、症状ごとに推奨薬を決める『地域フォーミュラリ』に全国で初めて取り組み、採用医薬品の標準化や後発医薬品への置き換えを行うことで、地域の薬剤費削減に成功しています。地域フォーミュラリは、薬局にとっては在庫管理の負担軽減にもつながっています」。

 日本海ヘルスケアネットでは連携に参入する病院が増えてほしいと考えているとのことです。

これから導入をする病院や自治体へのメッセージ

 日本海総合病院の一連の取り組みへの関心は高く、事務局に問い合わせが来ることもあります。そこで、導入を検討している医療機関や自治体に向けたメッセージを、3名からいただきました。

 「オンライン資格確認は受付・会計の煩雑な業務を大幅に軽減してくれるなど、大きなメリットがあります。また『地域フォーミュラリ』の取り組みは薬剤費の削減につながり、膨張を続ける国の医療費の抑制にも貢献できます。県境を越えての情報共有が広がれば、大規模災害時に他県の患者さんでも即座に情報が取れるなど、医療現場の強力な武器になるに違いありません。我々の事例が皆様の参考となり、全国での導入が進めば幸いです」。

 

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