議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第54回 目指すべき議会BCPのミライとは?
地方自治
2021.08.19
議会局「軍師」論のススメ
第54回 目指すべき議会BCPのミライとは? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2020年9月号)
前号では、議会BCPの策定意義とポイントについて述べた。今号では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う非常事態で直面した、課題と対応について考えてみたい。
■コロナ禍で見えた課題
大津市議会BCPでは、地震や豪雨災害では防災計画上の災害対策本部が執行部に設置された時点で自動発動され、議会における災害対策会議を即時招集することとしている。一方、今回のような感染症対応では明確な発動基準がなく、本庁舎でのクラスター発生という想定外の事態に直面して、感染リスクが高い場所へあえて議員の参集を求めることは危険との判断から、当初は災害対策会議の招集は見送られた。だが、BCPの策定意義を考えると、感染症対応においても発動の是非を個別判断に委ねるのではなく、具体的発動要件を明示しておく必要性を痛感させられた。
2点目は、議員や局職員の行動指針についても、地震や豪雨災害時とは異なるものが求められるということである。自然災害時のBCP発動後の動きとしては、災害対策会議の委員以外の議員には、地域での支援活動への従事を求めている。だが、感染症対応では感染リスクを高める可能性がある活動を求めることは適当ではない。また、委員についても、参集すること自体が、感染リスクを高めることになる。その対策として、オンライン会議を日常的に使いこなせるスキルと装備は必須であろう。
3点目は、感染拡大の状況に応じた議会運営方法を想定しておくことが重要である。多くの議会でとられた、「密」を避けるための本会議の出席者数の制限や、傍聴者数の制限に伴う議事公開手法の検討(リアルでの傍聴を全く認めないことは、現行法上問題があると私は解している)、質問時間を短縮するなどの措置を、予め状況に応じて想定しておくことが、迅速な対応に資するであろう。特に庁舎や自治体関連施設を使えない状況に備えて、議場の代替施設を具体的に想定しておく必要性も実感させられた。
4点目は、感染症対応は自然災害と比しても、さらに広域対応が求められるが、法制度は議事機関の広域連携などを想定していない。だからこそ、平時から任意に議会間の広域連携関係を築いておく必要性がある。当面は地方の議長会組織を活用することが一助となろう。
■議会BCPが目指すもの
大津市議会BCPは、発生事案が多い自然災害対応から整備してきたものであり、現状でも全ての非常時対応が網羅されているものではなく、全体としての完成度は60%程度に過ぎない。それは、実践や訓練を通じて得た教訓を活かし、機動的に改定して充実させていくことを前提とした計画であるからだ。
もとより議会BCP策定にあたってのポイントは、「想定外を想定する」ことである。だが、現実には容易ではなく、今後も想定外の事態に直面せざるを得ないだろう。次善の策は、安易な専決処分に流されないよう、常に議会機能の維持に資するためのバージョンアップを続けることである。
そして、最も重要なことは部分最適に陥らず、全体最適を目指すことだ。それは、議会活動だけが最適化されても、自治体としての全体最適に資さなければ、議会BCPが市民から必要なものとして評価されることはないと考えるからである。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
第55回「オンライン本会議がギャンブルでいいのか?」は2021年9月9日(木)公開予定です。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。