議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第38回 議会(事務)局職員は誰のために働くのか?
地方自治
2020.12.10
議会局「軍師」論のススメ
第38回 議会(事務)局職員は誰のために働くのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2019年5月号)
「あなたは誰のために仕事をしているのか?」と、今年1月の市町村アカデミーでの議会事務局職員対象の講義で、受講生に聞いてみた。答えは「議員のため」であった。だが、執行機関職員対象の講義で同じことを聞いたなら、果たして「首長のため」と答えただろうか?
■服務意識のズレ
自治体職員は、憲法15条に定める「全体の奉仕者」たらんがために、地方公務員法(以下「法」)31条で、服務の宣誓が義務付けられている。宣誓内容は、条例で定めるため自治体によって異なるが、任命権者ではなく、市民のために働くことを宣言する主旨は共通する。
「議員のために仕事をする」と答えた職員も、執行機関では首長のために仕事をしていたとは思っていない。ところが、議会の世界へ入ると、自治体職員としての服務意識が、ズレてしまうのはなぜだろうか。
■公選職との関係性
法では、首長は「その補助機関である職員を指揮監督する」(154条)、議会では「事務局長は議長の命を受け、職員は上司の指揮を受けて、議会に関する事務に従事する」(138条7項)と定められている。つまり、局職員に対する指揮命令権は、議長が有するだけで、公選職といえども一般議員には認められておらず、局職員の立場は執行機関と大きく異なるものではない。
意識のズレをもたらす議会と執行機関の大きな相違点は、合議制と独任制の違いだろう。執行機関では、職員からの提案であっても首長が同意すれば、そのまま機関意思として政策に反映される。それに対して合議制機関である議会においては、議員個人の意思は多様であり、必ずしも機関意思とは一致しない。そのため局職員が何を言っても、議会内で反対にあう確率が高く、触らぬ神に祟りなしと、局職員から議員に話しかける機会さえなく、まして局職員からの提案などあり得ないといった風潮の議会も多い。
■議員への発意の必要性
だが、全国の議会では、政務活動費の不適切支出を代表例とする不祥事も頻発している。議会局が全く関知していないというのはレアケースで、多くは見て見ぬふりをしてきたのが実態ではないだろうか。
一方で、議員に発意するなど越権行為とする論者も、違法性が疑われる事態では議員に積極的に進言して、一線を死守せよという。その主張自体は、市民のために仕事をするという観点からは、至極当然である。
しかし、平常時でさえ物申せる関係にないのに、論戦が予想される事態に直面して、初めて議員に意見せよなどということが果たして現実的だろうか。例えれば、演習経験もない部隊を、有事に最前線へ投入するようなもので、その結果は火を見るよりも明らかだろう。
■受動的執務態度が市民のためか
局職員が主体的に仕事をしない理由を並べることは、執行機関職員よりもはるかに容易だ。所詮、議会の責任は議員に帰結すると割り切り、傍観者に徹すれば気楽でもあろう。そして合議制機関での職員からの発意には、様々な困難も伴う。
だが、難しいからしないというのは「事なかれ主義の言い訳」ではないのか。議員からの求めがない限り物申さず、議員のお世話係に徹することが、本当に市民のために働いているといえるのか。服務の宣誓を思い出して、改めて考えてみてはどうだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。