議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第22回 先進を追求することの本質的意義は何か?
地方自治
2020.08.27
議会局「軍師」論のススメ
第22回 先進を追求することの本質的意義は何か? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2018年1月号)
*写真は大津市議会局提供。
大津市議会は、17年11月の第12回マニフェスト大賞(早稲田大学マニフェスト研究所等共催)において、「大津市議会意思決定条例とテレビ会議による先進事例調査」のテーマで、優秀成果賞と成果賞特別賞を受賞した。大津市議会局が事務局を務める滋賀県市議会議長会事務局としての受賞も含めると、これで5年連続の受賞となる。
マニフェスト大賞は、地方自治体の議会・首長・市民などの優れた取り組みを表彰するものであり、これを受賞できることは意義あることと感じている。だが一方で、近年2500件を超えるエントリーがある中で受賞するには、全国レベルでの先進性が求められるがゆえに、新しいもの好きなどと揶揄されることも多い。果たして、先進的な取り組みを追求することが、批判されるべきことなのだろうか。
■先駆者の現在、過去、未来
大津市議会は第9回マニフェスト大賞では「議会BCP(業務継続計画)」のテーマで、優秀復興支援・防災対策賞と審査委員会特別賞を受賞している。これは当時他に例がなく、新川達郎・同志社大学大学院教授の助言を受けて、一から作り上げたものであり、地方議会初との評価をいただいた。策定当時は、なぜ議事機関にそのようなものが必要なのかとも言われたが、受賞後には視察申し込みが殺到した。そして多くの議会が大津市議会BCPを参考に、それぞれの議会BCPを策定した。施策に著作権があるわけではなく、後発の方が前例を参考にして改良できるため、一般的に良いものができる。そのため、大津市議会BCPも防災訓練や実践の中で改良は続けているが、策定時ほどのアドバンテージは既にないだろう。
先駆者は常に捨て石であり、大津市議会も未来永劫、先進的存在と言ってもらえる保障など、どこにもない。ただ確実に言えることは、世の中の流れは決して止まることはないのであるから、先駆者といえども過去の栄光に満足し歩みを止めれば、たちまち相対的な地位は低下するということである。新たな価値創造に関心を失い、さらなる向上を志さなくなった時点から、事実上の凋落は始まるのではないか。
■先進の追求に求められるもの
だが、新たな価値創造には、大変なエネルギーが必要になると同時に、先に述べたとおり批判や嫉妬の対象となることも必定である。それは、誰かが現状に一石を投じることで、既得権益を失う人や結果的に実績を否定されることになる人、自己承認欲求が満たされなくなる人が、必ず発生するからである。逆に、誰からも批判や嫉妬の対象とならないものなど、そもそも先進性や絶対的価値に欠けたものでしかないと言えるかもしれない。
その意味では、先進的な取り組みを実現するには、批判や嫉妬に立ち向かうことが前提条件であり、それを恐れては何もなし得ない。事実、向上心溢れる多くの地方議員と接して驚かされるのは、最初からそんなことは良くあることと割り切り、まったく意に介さないことだ。一般職の公務員には、そこまでの割り切りは難しいかもしれないが、議会(事務)局職員は、そんなタフな議員を日常的に補佐する立場に置かれている。もちろん、日常業務の知識、経験も大事ではあるが、何より求められるのは、常に先進であろうとする向上心と情熱、そして精神的タフネスではないだろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。