行政大事典

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【最新行政大事典】用語集―租税条約とは

地方自治

2020.07.12

【最新行政大事典】用語集―租税条約

はじめに

 『WEB LINK 最新行政大事典 全4巻セット』(ぎょうせい)は膨大な行政用語の中から、とくにマスコミ等で頻繁に使用されるものや、新たに登場したテーマ、法令などから選りすぐった約3,000の重要語句を収録。現場に精通した執筆陣がこれらの行政用語を簡潔にわかりやすく解説します。ここでは、「第1巻 第6章 国税・地方税」から、「租税条約」を抜粋して、ご紹介したいと思います。

1 租税条約の意義

 租税条約は、国際的な二重課税を排除し、締約国間の課税権の配分をするとともに、税務当局間の国際協力を図ることを目的として、多くの国の間で締結されている。

 国際的二重課税は、各国間の課税主権の競合、すなわち、典型的には、居住者についてその全世界所得に対して行われる「居住地国課税」と自国内源泉所得に対して行われる「源泉地国課税」とが競合する場合に生じるが、この問題は、各国における所得課税のウェイトが小さかった時代には長い間注目を集めることはなかった。ところが、19世紀末頃から、国際的な経済交流の拡大や各国における所得課税の強化により、二重課税が現実の問題としてとらえられるようになり、1918年には、アメリカが外国税額控除制度を採用したことを契機として、主要各国の国内法において二重課税排除のための制度が導入された。

 (注)最初の所得税二重課税排除条約は、1899年に、プロシアとオーストリア・ハンガリー帝国の間で結ばれている。

 しかしながら、国内法による一方的な救済制度だけでは、例えば、所得の源泉地や居住者のとらえ方において関係国間にズレがある場合など、二重課税の排除が十分に行われないことになる。こうしたことから各国は、国際課税ルールの確立と二重課税の排除を主眼として租税条約の締結を推進するようになった。

 また、租税条約は、二重課税の排除に加え、条約相手国における課税関係の明確化、相手国の国内法改正のもたらす課税関係の不確実性へのセーフ・ガードとしての機能、両国間の国際課税問題の処理及び租税回避・脱税防止に係る協力体制の整備といった機能も果たしている。

2 OECDモデル条約

 2国間条約の規範となるべき条約モデルの作成作業は、1920年代初期から国際連盟が中心となって進められたが、OECD租税委員会がまとめた1963年の条約草案が戦後の租税条約網の拡大に大きく寄与したといわれている。

 OECDモデル条約は、1977年に全面改正され、その後も度々改正されており、最近では、2010年に改正されている。他方、国連においても、開発途上国が租税条約を結ぶ場合のガイドラインとして、国連モデルを1980年に公表している。

 OECDのモデル条約などは、2国間条約や各国の国際課税制度に大きな影響を与えており、わが国の移転価格税制も、OECD移転価格ガイドラインに沿った内容となっている。

3 租税条約の主な規定及び国内法との関係

 租税条約は、一般に、源泉地国における事業所得に対する課税、投資所得(配当、利子、使用料)に対する課税、給与所得に対する課税、二重課税の排除方法、その他(相互協議及び情報交換等)といった事項について規定しており、基本的には、両国が条約相手国の居住者(当該国の非居住者)に対する課税をどれだけ制限するかについて定めている。

 租税条約と国内法の関係については、租税条約の具体的事例への適用に当たり、基本的には国内法上の規定に優先して租税条約上の規定が適用されることになる。

4 わが国が締結した租税条約

 わが国は、昭和29年に締結した対アメリカ条約を皮切りに、これまで、53の租税条約を締結し、平成24年10月末現在、64カ国・地域との間で適用がある。これは、わが国の対外直接投資の80%以上(金額ベース)をカバーしている。

(1)南北アメリカ 7か国

 アメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、バハマ、バミューダ、ケイマン

(2)欧州 16か国

 アイルランド、イギリス、イタリア、オーストリア、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、ノールウェー、フィンランド、フランス、ベルギー、マン島、ルクセンブルグ

(3)東欧・旧ソ連 18か国

 アゼルバイジャン、アルメニア、ウクライナ、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、ジョージア、スロバキア、タジキスタン、チェコ、トルクメニスタン、ポーランド、ハンガリー、ブルガリア、ベラルーシ、モルドバ、ルーマニア、ロシア

(4)アジア 14か国

 インド、インドネシア、韓国、シンガポール、スリランカ、タイ、中国、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マレイシア

(5)中近東 4か国

 イスラエル、エジプト、サウジアラビア、トルコ

(6)アフリカ 2か国

 ザンビア、南アフリカ

(7)大洋州 3か国

 オーストラリア、ニュージーランド、フィジー

 (注)条約締結数等(五十音順)は財務省資料による。

*『最新行政大事典』2019年7月より。(NPO法人 フォーラム自治研究 花輪宗命)
(有償版は本文に加え、法令へのリンク機能があります)

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