自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[20]「災害マネジメント総括支援員」制度(下)

地方自治

2020.07.22

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[20]「災害マネジメント総括支援員」制度(下)

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2017年11月号) 

 前号に続き、総務省の「大規模災害からの被災住民の生活再建を支援するための応援職員の派遣の在り方に関する研究会」報告書の概要を紹介し、考察を深める。なお、考察については《 》で表示する。

「災害マネジメント総括支援員」に求められる資質

・「災害マネジメント総括支援員」の役割を踏まえれば、求められる資質としては、ア)地方公共団体において災害対策の陣頭指揮を行った経験があること、イ)災害時に派遣職員として被災地で「災害マネジメント」に関する活動を行った経験があることなど考えられる。また、首長の「災害マネジメント」を直接支援する性格上、課長級以上の管理職員であることが必要である。

・「災害マネジメント総括支援員」は、「被災市区町村緊急応援システム」における対口支援方式による支援と一体的に活動することが最も効果的であることから、各都道府県及び指定都市においては、「災害マネジメント総括支援員」の確保に努めなければならない。このため、総務省は、各都道府県及び指定都市に対し、職員のジョブローテーションを行うに際して、「災害マネジメント総括支援員」の適格者を把握・管理するよう要請すべきである。

・ただし、災害対応経験を有する職員は限られており、また、時間の経過とともに、災害対応を経験していない職員が増加する。このため、人材の裾野を広げる観点から、必ずしも豊富な知識・経験を有するとまではいえない場合であっても、研修等により適任者の育成・確保を図ることが求められる。

 具体的な対応としては、「災害マネジメント総括支援員」について、総務省及び消防庁において必要な研修を実施するとともに、訓練や積極的な被災地への派遣等を行い、知識の習得とともに経験を重ねる機会を提供することが必要である。

(略)

《災害対応は災害の種類、規模、地域特性、被災程度等々によって千差万別であり、受援の自治体職員もまた様々である。それゆえ、災害マネジメント総括支援員には、知識・技術、経験はもちろんのこと、マネジメントのレベル、人格の高さが求められる。これは一朝一夕にはできない。私は災害マネジメント経験者がケーススタディを持ち込み、未経験者と一緒に「道場」のようなスタイルで、互いに切磋琢磨する研修が良いのではないかと考えている。
 実際に、関西圏では兵庫県の「人と防災未来センター」が類似の機能を有している。首都圏をはじめとして、圏域レベルで「人と防災未来センター」のような場をつくり人材育成を進めることをぜひ実現したい。》

「災害マネジメント総括支援員」は総務省への登録制とすること


(略)

「災害マネジメント総括支援員」は対口支援団体からの派遣を基本とすること

・被災市区町村における円滑な「災害マネジメント」を確保する観点からは、「災害マネジメント総括支援員」については、対口支援団体である都道府県及び指定都市が、総務省に登録した自らの職員を派遣することを基本とすべきである。

・対口支援団体は、「災害マネジメント総括支援員」に加え、その補佐を行う職員も同時に派遣し、チームとして「災害マネジメント」活動を行うよう努めるべきである。このように補佐を行う職員をチームの一員とすることで、災害対応のノウハウが伝承され、次世代の「災害マネジメント総括支援員」の育成・確保につながることも期待される。

(略)

《総務省研究会が正面からマネジメント支援の課題をとらえ、「災害マネジメント総括支援員」制度を構想したことは、極めて高く評価される。一方で、依然として次の課題があると考えている。

ⅰ)費用負担、法制度、関係団体との調整

 災害対応業務の中でも、マネジメント業務は経験が極めて重要であるが、それが非常に複雑で形式知化しにくいだけに、そのノウハウは個人に属し、時とともに失われていく。たとえば、失敗経験を記録にしづらいことを考えれば、組織や次の担当者に継承されにくいことは明らかだ。一方で、全国を見渡せば災害は毎年のように発生し、そこで新たにノウハウを獲得する人材が出てくる。

 そこで、災害マネジメントノウハウのある人材を自治体内部に留めるだけではなく、災害発生時に全国で活用する仕組みを構築することが有効と考える。たとえば、すでに緊急消防援助隊、DMAT、TEC─FORCEなどは、国レベルの一般的な制度として全国的な応援組織として定着している。

 この観点からみると、「災害マネジメント総括支援員」制度は、応援・受援経験のある資質の高い自治体職員を、総務省に登録することでメンバーシップを明らかにし、研修、訓練、積極的な被災地への派遣や、人的ネットワークの形成が可能としていて、他の全国的応援組織と類似性が高く効果的だと思われる。

 重川(2013)によれば、すでに経験を重ねている国土交通省のTEC─FORCEは、組織が法制度化され、以下のことが事前に明文化されている。

【派遣基準】派遣するべき事案の基準が決まっている

【任命制度】派遣メンバーが事前に登録されている

【スキルアップ】事前の職員研修制度がある

【費用負担】国交省負担

【派遣手順】、【指揮命令系統】、【前線基地】をあらかじめ指定している

 また、ロジスティックスが非常に充実している。たとえば、TEC─FORCE各班に車を運転手つきで最低1台確保する。TEC─FORCE現地班に後方支援職員(ロジ班)を配置して、車両確保・宿舎手配・飛行機等交通手段確保、物資要請・調達・送付、状況報告をする。職員からの報告はテレビ会議で、被災地外の人も見る。

 その結果、被災地と被災地外の職員が「温度差」なく、被災状況を理解できる効果があった。

 すでに車両等のロジスティックスを確立している緊急消防援助隊、TEC─FORCE、自衛隊、DMATなどと相乗りして、被災市区町村の災害対策本部に駆けつけることが効果的だと考えている。

重川希志依(2013)「応援と受援のための体制について」、(公財)神戸都市問題研究所『都市政策』第151 号(2013 年4月)。

ⅱ)復旧復興期のマネジメント支援

 「大規模災害からの復興に関する法律」(2013年6月)では、復旧・復興期における人的応援について初めて規定し、派遣要請を受けた国や自治体の努力義務を定めた。「災害マネジメント総括支援員」も、応急対応にとどまらず、その後の復旧・復興対応でも重要な役割を果たすと想定される。

 まず、応急対応の初期段階から、自治体の復興を専任で考える参謀部隊を、被災自治体職員と国、県、経験ある応援職員で編成することを提案したい。被災自治体職員はどうしても現場の状況が気になって、将来を考える気持ちになりにくい。そこで現場の喧騒から離して復興組織を設置することが重要だ。

 目前の急迫事態への対応だけでなく、長期の対応の両方をバランスよく考えるのが災害マネジメントでは必要だ。復旧復興マネジメントを担う被災自治体職員は、経験ある自治体のマネジメント支援を受けながら、徐々にマネジメントの中心になっていく必要がある。結局は、被災自治体職員が将来のまちづくりを恒久的に担うからである。》

《今後、「災害マネジメント総括支援員」制度を実現するには、細目を詰め、費用負担や関連制度・関連団体との調整、研修施設・機能の充実等々が必要である。総務省及び関係者の「覚悟」に期待する。》 

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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