自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[17]九州豪雨災害──水害にあったときに
地方自治
2020.07.01
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[17]九州豪雨災害──水害にあったときに
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2017年8月号)
2017年6月30日からの梅雨前線に伴う大雨被害により、被災されたみなさま、関係されるみなさまに、心からのお見舞いを申し上げます。今はただ、お疲れになった心と身体を休まれてください。気にかかることはたくさんありましょうが、十分に休まれてからでも遅くはありません。
このたびの、いわゆる九州豪雨では7月10日時点で、福岡県、大分県で死者21人、連絡が取れない人が26人という大災害になってしまった。今後も雨が続き、広い範囲で土砂災害なども懸念されている。これ以上、被害が拡大しないことをただ祈るばかりである。
浸水被害からの生活再建の手引き
やがて、日常生活を取り戻そうと思われたときに、被災された方が参考になるチラシ「水害にあったときに~浸水被害からの生活再建の手引き~」があるので紹介したい。
作成者は「震災がつなぐ全国ネットワーク」(震つな)で、阪神・淡路大震災(1995年)以降、数々の被災地で支援活動を行ってきた、約30のNPOやボランティア団体からなるネットワーク組織だ。過去の水害被災地への支援経験をもとに、この手引きを作成し、私も監修者として協力している。第1版は日本財団の助成を受けて17年3月に発行されたばかりである。
チラシの概要
このチラシは水害にあった際にすることの一般的な手順をまとめたものだ。落ち着いて、できるところから始めることを推奨する。
①被害状況を写真に撮る
・被害の様子がわかる写真を撮る
・家の外をなるべく4方向から、浸水した深さがわかるように撮る
・室内の被害状況もわかるように撮る
写真は市町村から罹災証明書を取得するときに役立ち、また、保険金の請求にも必要だ。家や室内を片付ける前に、現状を記録することを強く推奨したい。
②施工会社・大家・保険会社に連絡
・家の施工会社や大家に、家が浸水したこと、浸水のおおよその深さを伝える
・火災保険や共済に加入しているときは、担当者にも連絡する
③罹災証明書の発行を受ける
・市役所・町村役場に浸水したことを申し出る
・被害認定の調査を受ける
市町村に自宅が浸水したことを申し出ると、職員などによる被害調査が行われ、住家の被害程度を証明する罹災証明書が発行される。罹災証明書は後で公的な支援を受ける際に必要になる。なお、大規模災害になると申し出がなくとも全戸調査が行われるが、発行までには数週間から1か月以上かかることもある。
被害を判定する1回目の調査の多くは、外から見て行われ、2回目以降は家屋の傾き具合や建物の損傷などから判断される。判定に疑問がある場合には、再調査を申し込むことができる。
被害認定の目安(木造の戸建住宅)は次のとおりだ(浸水の深さのもっとも浅い部分)。
・全壊は、1階の天井まで浸水
・大規模半壊は、床上1mまで浸水
半壊や一部損壊は、外観の他に家の傾き、浸水の深さ、柱や床といった家屋の部位ごとの倒壊割合など、一定の基準のもとに行われる。
④ぬれてしまった家具や家電をかたづける
・かたづけはゆっくり
上下水道、電気やガスが復旧していないと、思うようにかたづけができない。疲れもたまっているので、慌てずに行うことを推奨する。
・作業のあとには手指を消毒
水害後は砂やほこりが舞っている。マスク、ゴム手袋を身につけ、こまめにうがい、消毒をする。
・ゴミ捨てのルールはふだんと異なる
ゴミ捨てのルールは市町村のチラシや災害FMなどで伝えられる。使える袋の種類や捨てる場所など、正しい情報を得よう。
・ボランティアにお願いする
ボランティアセンター、市町村、社会福祉協議会に相談するとよい。すでに、片づけを支援するため、多くの支援者が被災地に駆け付けている。
⑤床下の掃除・泥の除去・乾燥
これは非常に重要な項目である。ぬれた家をそのまま放っておくと、後からカビや悪臭が発生し、生活に支障がでる場合がある。まずは床下の状態を確認する。自分でできない場合は、施工業者やボランティアに作業をお願いしよう。
(1)泥の除去と床下の消毒をする
・床下の泥をかき出して洗い、消毒する
・消毒剤は注意書きをよく読んで使う
【よく使われる消毒剤】
・消石灰(しょうせっかい)
湿った床下の土にまく。素手でさわらない。
・逆性石けん(ベンザルコニウム塩化物)
「オスバンS」が代表的な商品名。水でうすめて家財や床材、手指の消毒に使う。原液を素手でさわらない。
(2)カビを防ぎ、とにかく乾燥
・床、壁、天井などに消毒用エタノール(80%溶液)をスプレーし、ぞうきんでふき取る
・家具などに使う際は、色落ちしないか目立たないところで確認する
・換気をよくし、火気を使わない
・壁も水を吸っているので、中を確認する
・しっかり乾燥させるには最低1か月ほどかかる
⑥掃除をするときの服装
基本は肌の露出を避けること。マスクやゴム手袋は必携。多くは、ホームセンターなどで購入できる。
⑦復旧のまえに確認をすること
・電気(ブレーカー)
水害の後にブレーカーが落ちていたら、どこかで漏電しているかもしれないため、電力会社に相談する。避難などで家を離れるときはブレーカーを切っておく
・水
水道復旧直後は水が汚れている場合があるので、しばらく流す。井戸水は水質検査が終わるまで飲まない。浄化槽の場合は、トイレや風呂を使う前に点検をする
・ガス
元の位置から動いてしまったプロパンガスのボンベは、復旧をする前にガス業者に点検を依頼する
★以下の記述は本記事が発表された2017年8月時点のものです。2019年10月時点のPDF版冊子を配布しています(2020年5月確認)。
この手引き「水害にあったときに」には、必要な手続きや作業をよりくわしく説明した「冊子版」(*PDF版を配布)もある。
なお、7月7日に「震つな」のホームページでは以下の追記が入っている。被災地域優先なので、問い合わせは状況をよく判断してから、お願いしたい。
「本日、大変多くのお問合せをいただきました。その多くが被災地域以外からのお問合せとなっております。被災地域への配送を優先させていただくため、被災地域以外のみなさまからのお問合せは、8月に入ってからお願いできますでしょうか。ご理解とご協力をお願いいたします。」
*上掲冊子の詳細は次のURL参照ください。
http://blog.canpan.info/shintsuna/archive/1420
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。