自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[33]福祉避難所を考える(中) ──福祉避難所マニュアルの全体像

NEW地方自治

2020.10.14

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[33]福祉避難所を考える(中)──福祉避難所マニュアルの全体像

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2018年12月号

福祉避難所の現状

 東日本大震災後に、私たちは3年間、厚生労働科学研究費補助金「災害時における知的・発達障害を中心とした障害者の福祉サービス・障害福祉施設等の活用と役割に関する研究」(研究代表者:金子健・日本発達障害連盟)の研究に従事した。この間、仲間の研究者とともに100人を超える障がい当事者、保護者、福祉関係者らにインタビューし、福祉施設職員と3回のワークショップをしながら、災害時の福祉施設事業継続計画(BCP)のあり方を研究した。

 実際、東日本大震災時、福祉施設が使えなくなった場合に、利用者をいかに支援するかについては、ほとんど検討されていなかった。このため、家を流され、福祉施設にも頼れなかった障害児者が一般避難所に行ったものの不安定になるため、壊れた自宅や車の中で過ごしたという話を多く聞いた。

 また、福祉施設が幸いにも継続使用できた場合でも、300人もの地域住民が避難してきたため、50人の重症心身障害者を抱える中、困難な状況に陥った事例もあった。

 そして、この状況は、熊本地震でも、それ以後の災害でもほとんど変わっていない。福祉避難所は全国の1741市区町村中、1659(95.3%)で指定されている。4年前には1279(73.5%)だったので、数字上は大きく進んでいるように思われる。ただ、収容可能人数を集計している28府県のデータでは、収容できるのは対象者数の1割強である(朝日新聞10月29日付け)。

 なお、すべての災害時要配慮者を福祉避難所で受け入れるわけではない。要配慮者は在宅、車中、施設や病院など、いろいろな場所に避難する。模式図的に示せば、図のとおりである。

福祉避難所マニュアルの全体像

 私たちは、冒頭に述べた東日本大震災の研究や、その後の熊本地震等のヒアリング、福祉施設職員のワークショップ等を通じて、福祉施設における福祉避難所開設・運営マニュアルのひな型を作成している。その中から、福祉避難所マニュアルの全体像と重要ポイントを時系列で紹介したい。

(1)事前準備
 福祉避難所の管理運営は、実際には、市町村から福祉施設責任者に委託される。たとえ、協定文に「市町村職員が運営をする」と書いてあっても、災害になれば市町村職員は極端な人手不足に陥るため、派遣をすることが困難になる。そもそも、一般の事務職員が高齢者や障がい者の福祉的ケアをできるはずがない。内閣府のガイドラインでは家族の力を借りて自立生活ができる人を福祉避難所で受け入れることになっているが、現実にはありとあらゆる人がやってくる。「福祉的ケアが必要な人はお帰り下さい」とは言えないのが実情だ。

 また、福祉施設では平常時から計画作成、教育、訓練、見直しの継続(PDCAサイクルによるレベルアップ)を実施しておく必要がある。一般に福祉施設は定期的に避難訓練を行うが、マンネリ化しやすい。実動訓練はもちろん重要だが、考える訓練もまた重要だ。それには、マニュアルの勉強会、アイデア出し、課題の整理と解決方法の検討、実施の確認などがある。

【具体的な活動項目】
①市町村と福祉避難所協定を締結する。事前に協定を締結しておけば、すぐに福祉避難所を立ち上げることができる
②福祉避難所のレイアウト、要援護者の受入可能数を設定する
③資源(人、モノ、資金、情報手段)の確保に努める
④連絡先、連携先等をリストアップする
⑤福祉避難所の開設・運営訓練を実施する

(2)発災直後の初動対応
 まずは、人命を守ることを第1に行動する。そこには、利用者だけでなく職員や地域住民も含まれることを忘れてはならない。

 次に、利用者・職員・地域住民の安心をつくることだ。災害後はみな、不安になる。そのとき、職員が落ち着いてゆっくりと行動することで、安心感が広がる。

【具体的な活動項目】
①利用者と職員の安全を確保する
②安否確認を行う
③救助、避難、初期消火、施設点検などを行う
④健常者を含めて避難者を一時的に受け入れる

 ただし、健常者には一時的な受入れであり、早い段階で指定避難所に移ってもらうことを伝える。なお、ボランティアで活動してもらう人はこの限りではない。

(3)福祉避難所の開設
 福祉施設は地域の要配慮者を受け入れる。必ずしも高齢者、障がい者に限らない。乳幼児や軽度な認知症など静かな環境が必要な要配慮者と家族に避難してもらう。なお、福祉的ケアが必要な場合は、原則として施設入所でオーバーベッドで対応する。実際には、受入れ施設が少なかったりするため、福祉的ケアが必要な人も福祉避難所や一般避難所に避難する例が多い。

【具体的な活動項目】
①市町村災害対策本部からの要請または自主判断で福祉避難所を開設する
②一般避難者は、避難所に誘導する。一時的な受入れとして、イスを用意して座らせることも有効だ
③要配慮者を受け付ける。受付票は単票にしたほうが、多くの人が同時に記入できる。また、職員が聞き取りをしながら記入してもよい。受付終了後、福祉避難所の避難スペースへ誘導する

(4)福祉避難所の運営
 要配慮者の状況に配慮しながら、避難生活を支援する

【具体的な活動項目】
①要配慮者が生活をする上での様々な支援を、家族とともに行う。
②職員、応援職員、親族、ボランティア等の人員確保に努める。
③市町村、地域住民と連携して物資、情報等の確保を行う。

(5)閉鎖に向けた環境づくり
 閉鎖は非常に難しい課題である。基本的には要配慮者が施設や自宅、あるいは仮設住宅に戻れる状況になった場合に移動を支援する。

 一方で、居心地がよいため、仮設住宅や自宅に移動したくない避難者が少なからず出てくる。福祉施設の設備・環境が良いことに加え、一定期間、福祉避難所生活を送るうちに避難者同士が親密な関係になって、安定した生活を過ごせるようになるからだ。もちろん、これが福祉避難所として正しいあり方なのだが、福祉施設からするといつまでも福祉避難所を解消できないことになる。

 そこで、デイサービスなど通常業務を拡大することにより、徐々に閉鎖に向けた雰囲気づくり、環境づくりが重要になる。

【具体的な活動項目】
①要配慮者の自宅、施設、仮設住宅等への移動支援を行う
②福祉避難所機能を徐々に縮小しながら、通常業務を拡大していく 閉鎖・原状回復し、平常時に戻る

(6)閉鎖・原状回復し、平常時に戻る
 記録をとり、次の災害に備えてレベルアップを図る。また、研修会などで他の福祉施設に貴重な経験を伝えることも重要だ。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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