時事問題の税法学
時事問題の税法学 第46回 バブル世代の悲哀
地方自治
2020.02.14
時事問題の税法学 第46回
バブル世代の悲哀
(『税』2019年8月号)
バブル世代の現在(いま)
バブル時代を挟む10年間を都内の大学で教えた。いわゆるバブル世代といわれた50歳前半から、就職氷河期まっただ中の40歳前半の世代である。
氷河期を乗り切ってきた40歳代は確かにたくましい。ある40歳代の男性は、大学4年間を都心の飲食店でアルバイトをしていたが、卒業間際に、店の主人から、「チェーン化するので、大学卒第1号として就職しないか」と誘われた。すでにそこそこの企業に内定していた彼は、親の反対もあり辞退した。いま彼は、その企業で管理職として頑張っている。ただその飲食店は、その後、全国展開し海外にも進出しているから、大学卒第1号で入社していれば、米国支配人や台湾支社長として海外にいたかもしれない。
就職が決まらずバイト先で正社員になったお店が、拡大チェーン化し、成長した中で、生え抜き社員として役員登用という段階で、全国チェーンに吸収されたため、遠隔地に転勤させられた者もいる。
M&Aで離合集散する企業集団のなかでは、飲み込んだ企業側では、分社化して役員に登用されている者もいるが、役員といえば、使用人(従業員)を一端退職し、任期制の役員に就任することになるから、身分は不安定になる。
一方、バブル世代は、かつては仕事に関する話題が多かったが、最近では子どもの進学に関する話が出る。上の子や男の子は公立高から大学に進ませたが、下の子や女の子は、中高一貫の私立校に進学準備中だといえば、すでに姉妹ふたりを中高一貫の女子校に通わせている者はその苦労を語っていた。通常、中学受験を始めるには、小学3年生の4月から塾通いがスタートするが、夏休み明けから通い始めたら、相当遅れていたと悔やむ者もいた。
ゴール間近のバブル世代
そういえば平日は都内で仕事をし、週末は東海道の宿場で城下町でもあるふるさとに新幹線通勤している同級生が、都内在住の小学生の孫たちの塾通いの送迎風景を話してくれたことを思い出す。東京都杉並区では、6年生の6割が中学受験をするとテレビの情報番組が報じているから、首都圏では決して珍しい話ではないかもしれない。
しかし、バブル世代は、役職定年というゴールが近づいた世代でもある。役職定年の結果、毎月の住宅ローン返済額相当額が減収となり、返済不能や家庭崩壊となった50歳前半のサラリーマンが、テレビの情報番組で紹介されていた。役職定年とは、部長や課長などの管理職にあるサラリーマンが一定の年齢に達すると、その役職を外れ、専門職などに異動する人事制度と理解されている。当初は、若手登用などの趣旨だったが、雇用延長に対する賃金対策の傾向が強いような気がする。その定年年齢が55歳という企業が増えているようだ。本連載2018年1月号の「サラリーマン受難時代」で指摘したように、給与所得控除額が段階的に圧縮され、給与所得者は増税される。税制の面でも厳しい状況に置かれている。
老後資金2000万円問題
国税庁が毎年、秋にHPで公表する「民間給与実態統計調査」(現在の最新版は平成29年分)によれば、民間企業に勤める給与所得者は、4945万人(男性2936万人、女性2009万人)であり、この数字だけでも勤労者に占める給与所得者の割合は極めて大きいことは明らかであるから、税収に及ぼす影響も大きい。
さらに「老後資金2000万円」問題が浮上した。この金額の是非はさておき、この報道に対するインタビューで、東京新橋駅前のお父さん達が、「最後は自分の家を売るしかない」という発言があった。都心に働くサラリーマンは、当然、持ち家があるということだろうか。折しも国税庁は、今年の路線価を発表した。全国平均は前年を1・3%上回り、バブル崩壊後初の4年連続の上昇となった。地方都市も回復傾向にあるという。高齢者の都市部への回帰が地方の地価を下支えしている。高齢者の中には病院や商業施設が徒歩圏内にあり、暮らしやすい都市部に移り住む人もいる。こうした需要が地方でも駅前や商業施設の周辺などの地価を支える(日経新聞7月1日夕刊)。
確かにふるさとの街でも、駅近くに分譲や賃貸のマンションが増えてきた。郊外や市外に住んでいた小学校の同級生の中には、かつて通学し、遊んだ街中に戻りたいと言う者が出て来た。昨今の高齢者ドライバーとして非難の対象になる年齢に近づいてきた。