徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第23話 徴収職員の育成

NEW地方自治

2019.08.16

徴収の智慧

第23話 徴収職員の育成

『月刊 税』2016年5月号

 税を滞納する人の理由や原因には様々なものがあると思うが、実務での実感としては、経済的困窮による滞納は思ったよりも少なく、圧倒的に多いのは、納期限が徒過したまま放置している納税怠慢と、ローンなど他の支払を優先させて納税を後回しにしている例である。とりわけ他の支払を優先させて納税を後回しにしている滞納者の中には、徴収職員に対する的外れな批判や、言いがかりにも似たクレームをつけてくる人が少なくないことに閉口している徴収職員も多いのではないか。

育成環境

 ところで、地方税の徴収職員のための研修で、現場からの要望が最も多いのは、財産調査の方法や滞納処分の方法などといった「滞納整理のやり方」に関するものである。その背景のひとつには、地方公務員は、一般行政職として採用されており、国税職員のように税務の専門職として採用されているわけではないため、滞納整理の研修に費やされる時間が圧倒的に少なく、内容も入門的・初歩的なことばかりで、見劣りがするということがある。確かに客観的に見れば、研修のカリキュラムや講師陣などは税務大学校という専門の研修機関を擁する国税の方が数段恵まれた環境にあることは否めない。しかし、そうした環境要因が滞納整理の結果や、職員の実務習熟度に比例しているかと言えば、必ずしもそのように断言することはできないと思う。個々の職員を見てみれば、国税であろうと地方税であろうと個人差があるから、これだけ見たのでは公平な比較にはならない。

育成環境と質(例1)

 そこで、視点を税以外の他の分野に転じて見てみよう。わが国でもJリーグが発足してからというもの、サッカー人気は高まるばかりである。サッカーの場合は、オリンピックよりも、むしろワールドカップの方が人気が高いと言われており、ステータスもオリンピックを凌駕するようである。そのワールドカップの予選を見ていると、アフリカや中近東といった絶えず紛争が起きていて政情不安定で経済的にも貧しい国の選手が非常に頑張っていて驚かされることもしばしばである。これらの国々の選手の中には、経済的に貧しいため、シューズやボールも満足に揃えることができず、しかも整備された芝生の練習場などもなく、非常に劣悪な環境下での練習を強いられている人もいる。それにもかかわらず、経済的に豊かな国々のチームを脅かすほどの実力を持っているのだから、その強靭な精神力と集中力、そして努力にはまったく頭が下がる思いである。そうした国々の選手たちを見ていて、「恵まれた環境があれば強い選手が育つ」とは必ずしも言えないのではないかと思うのは私だけであろうか。

育成環境と質(例2)

 もうひとつ別の分野に目を転じてみよう。若者の就職動向を見てみると、多少の変動はあるものの、大企業志向の傾向は相変わらずのようだ。こうした大企業志向には、倒産のリスクが低いことのほかに、多様な仕事ができることや、全国規模ないしは地球規模のスケールの大きな仕事ができるのではないかという期待感などもあるようだ。仕事には、生活の糧を得るという側面と、やりがいという充実感なり達成感なりを得るという側面があって、この両者を満足させる仕事は、そうざらにあるとも思えない。大企業であれば、中小企業に比べて相対的に研修制度は充実しているであろうし、福利厚生面でも充実しているのではないかと思われる。それでは、そうした大企業の社員の方が優秀で能力も高く、中小企業の社員は劣っているかと言えば、決してそんなことはないのである。今でこそ世界に冠たる大企業に成長した米国のアップルやグーグル、マイクロソフトなども、最初は中どころか小さな、言ってみれば個人事業のような所帯から始まっているのである。しかし、そこには他社にはない「勢い」があったのである。こうして見てみると、企業経営においてもスポーツと同様に、「恵まれた環境があれば優秀な社員が育つ」とは必ずしも言えないのである。このことはすなわち、情熱と実行力と持続力を欠いている徴収職員に、いくら知識を詰め込んでも、成果を期待することはできないということを物語っている。徴収職員の情熱と実行力と持続力を育むような育成プログラムがまず土台にあって、その上に徴収に関する法令知識が備わることが大切である。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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