徴収の智慧

鷲巣研二

徴収の智慧 第17話 不対等の関係

NEW地方自治

2019.08.01

徴収の智慧

第17話 不対等の関係

『月刊 税』2015年11月号

対等な関係

 お店で商品を買ったところ、欠陥商品であったため返品の上、同等の他の品と交換してもらうとか、求めていた商品と異なるということで返品の上、代金を払い戻してもらうということは、日常の経済活動の中では、時折見受けられる光景である。その際、交換や代金の払戻しが円滑にいかず、もめたりすれば、民事紛争として稀にではあろうが訴訟になることもないわけではない。その場合の基準となるのは、民法を中心とした関連の民事法ということになる。民事紛争における訴訟の当事者は、法的に対等の関係にある。つまり、紛争当事者が主張するところと、それを裏付けるものとして提出された証拠を、民法及びその他関連法に照らして、黒白が決せられるのである。当事者は、法廷において自己の正当性・合法性を主張し合って、裁判官にそれぞれの主張と証拠の正当性や真偽、証拠能力などについてジャッジを求めることになる。このように「私人対私人の間の権利・義務の関係は対等な関係のものである」(中川善之助『新版民法入門』青林書院)し、「私法は、なお自由と平等の原理によって支配される身分と財産の関係だとなし、ただその指導原理は、近世初頭の個人主義的な自由ではなく、公共の福祉という理念によって浄化されたもの」(我妻栄『新訂民法総則』岩波書店)と位置付けることができる。

租税法律関係

 これに対して私人と国や地方公共団体との間の権利・義務の関係は、自由と平等の原理ではなく、統制保護の関係であるとされている(前出『新版民法入門』)。税法が対象としているのは、国又は地方団体と納税義務者であり、その間における権利・義務の関係を規律しているのである。言うまでもなく租税は、国又は地方公共団体の財政の中核をなすものであり、その事務のほとんどが税収に依存しており、これの確保なくして行政運営は成り立たない。このようなことから「租税が公共サービスの資金の調達の手段として強い公益性をもっており、またその確定と徴収が公平・確実かつ迅速に行われなければならないことを反映して、租税債権者である国家の手に、私法上の債権者には見られない種々の特権が留保されている。その結果として、租税法律関係においては、債権者である国家が優越性をもち、その限りで租税法律関係は不対等な関係として現われる」(金子宏『租税法』弘文堂)のである。

 地方税の滞納整理に関する研修では、いきなり財産調査の方法とか、滞納処分の方法などといった、いわば手続論や技術論について解説がなされ、それらの「やり方」を習ったら、すぐに実務の第一線に置かれるというのが恐らく実情なのではないだろうか。もっとも、地方団体にしてみれば、講師不足や研修の機会不足、人員不足など共通の悩みを抱えているから、実務に直結していて、即戦力として使えるだけの人材を、極めて短期間に促成しなければならないという困難な状況があるので、やむを得ない面もあるし、悩みに悩んだ末の結果が、現状の研修方法なのかもしれない。

租税原理

 しかし私は、租税制度の基本を省略してしまって、いきなり手続論や技術論から入り、それだけに終始する研修の在り方には疑問を感じるし、納得もできないのである。確かに徴収職員は学者や学生ではなく、実務家なのであるから、学問を究めたり、真理の探究をしたりすることが役割でないことは明らかである。だが、しかしである。例えば、滞納整理において財産調査を行う際に根拠となる条文である国税徴収法第141条及び第142条について見てみると、これらの条文を根拠として行われる財産調査では、いずれも調査の相手方に受忍義務が生じ、相手方はこれを拒否することができない。このように租税法律関係における租税債権者と租税債務者との間の関係が不対等であるということは、単なる手続論や技術論として「実務ではこのようにやる」という「やり方」だけを教え込まれたのでは気づかないし、知る由もないのである。これでは、例えば、金融機関調査の際に、銀行員から説明を求められたときに、まともな説明すらできないという失態を演じかねない。

 租税法律関係は不対等な関係であるというのは、そうした租税原理から導かれる一事に過ぎないのである。

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鷲巣研二

元横浜市財政局主税部債権回収担当部長

日本大学法学部卒、横浜市入庁。緑区役所納税課を経て企画財政局主部収納指導係長の後、保育課管理係長、保険年金課長、財政局主税部収納対策推進室長、区総務課長、監査事務局調整部長、副区長などを経験し、財政局主税部債権回収担当部長を最後に退職。共著に『事例解説 地方税とプライバシー』(ぎょうせい、2013年)などがある。

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