知っておきたい危機管理術/木村 栄宏
ブラック企業―若者を取り巻く危機
キャリア
2019.03.18
知っておきたい危機管理術 第24回 ブラック企業……
若者を取り巻く危機の一つに、ブラック企業の存在とかかわりがあります。皆さんのご子息ご令嬢にも訪れかねない危機の一つであるため、今回はこの問題を取りあげましょう。
「ブラック企業」という言葉が一般に周知されるようになったのは、2010年頃からです。「ブラック企業」というと、以前は反社会的な企業のことを指していましたが、現在の一般的なイメージは、労働環境が劣悪であり、サービス残業が常態化し、精神的な疾患やひいては過労自殺を引き起こしてしまうような会社だと思われます。
現在のブラック企業は、労働基準法を超えた長時間労働及びそれによる残業代の不払いと低賃金労働の強制、パワハラ等に顕著な肉体的あるいは精神的に非常に過酷な環境下での労働の強制、不当な解雇又は退職拒否・給与の減額など社員の使い捨てを前提としている会社、と定義することができます。
ブラック企業の特徴とその問題点
注意すべきは、ブラック企業と労働法等での「コンプライアンス(法令等遵守)違反がある会社」とが必ずしも同義ではないことです。各種ハラスメントの存在、サービス残業の恒常化等は、高度経済成長期以降、かつての日本企業に、ほとんど該当していたといっても言い過ぎではないでしょう。現在のブラック企業の問題は、最初から人間を「使い捨てる」前提で、採用し、働かせることにより、少子高齢化時代の貴重な労働力が喪失され、再生される芽も摘んでいることにあります。
バブル崩壊までは、日本の会社は、社員にとって、暗黙の契約と信頼の上に長期的な安定生活を与えてくれる組織だったので、長期雇用(終身雇用)、年功制賃金制度、社内でのみ通用するものとはいえ会社主導による社内OJTや研修、キャリアパス制度があり、会社と社員はWIN=WINの関係でした。
バブル崩壊・デフレ時代、リーマンショック等々、経済環境の停滞と同時に進んだ多様な就業に対する価値観を持つ個人化により、会社は多様な就業形態を提供する組織の一つという位置付けに変化しました。互いの関係は相対化し、緊張関係が増したと同時に、社員同士のコミュニケーションが薄れ、乾いた関係になりつつあります。雇用市場が安泰で、起業も旺盛な社会であれば良いでしょうが、今や非正規社員の割合が全体の4割を超え、さらに就職難といわれる状況です。「1度やめてしまえば再就職はむずかしい」という不安を若者は持っています。
ブラック企業がこの数年、社会で大きく取りあげられながらも存続し続ける理由がここにあります。正社員として採用された以上、再就職は難しく非正規社員で不安定な状態になるのならば、ブラックであっても会社への服従を選んでしまう面があるのです。
ブラック企業のレッテルを貼られた会社が、訴訟の結果、敗訴や和解となることで状況が改善する兆しはありますが、社会全体で改善が進んでいるという実感を持てないため、新しく社会に出る若者は、どうせ無駄な努力だと諦めている状況があります。また、ブラックであっても会社のためならサービス残業や休日出勤などは当然、という価値観を持つ若者も存在しますし、そうした人による周りの人間への影響や強要という面もありましょう。もちろんベンチャーあふれる創業期の企業であれば表面的にはブラックに見えることもあるでしょうし、一概に決め付けることはできません。
雇用関係の正しい知識を得ることが「カギ」
ただ、ブラック企業の存続は、アルバイト学生であれば結果として学業の中断や留年を余儀なくされたり、教育期間を終えた優秀な若者が短時間で精神疾患等も含めて疲弊することによる社会的損失の大きさ、いずれ淘汰されるだろうとはいえ、極限まで人件費を削り低コストで業務を行うことによる低価格商品の提供によって、健全な優良中小企業の商品が駆逐されてしまう可能性など、社会への悪影響をもたらし続けます。
ブラック企業の見分け方として、「大量採用・大量解雇を繰り返す企業(大量採用しているのに何年経っても社員数がまったく増えない。社員数に対して求人数が多い等)」「初任給が高すぎる」「残業代を基本給に含めている」「辞めさせるための専門部署がある」「HPでの会社概要が抽象的・イメージ説明が多い、入社しやすいことを強調している等」などを一般的に指摘できるでしょう。
ブラック企業で苦しむことのないように、個人レベルでは労働法をはじめとする雇用関係の知識を得ておく、教育機関レベルではキャリア関係の授業で必ず取りあげたり、学生の就職後に「職場環境調査」でフォローする、自治体レベルではすべての学校に雇用に関する出張講座を提供する、国レベルでは離職率の公表や監視の徹底、などが、重要かつ必須な対策となります。