アナログ規制見直しの風

若生 幸也

アナログ規制見直しの風 Vol.1 大分県と福島県南相馬市の取組

NEW地方自治

2025.01.14

連載一覧はこちら

アナログ規制見直しの風 Vol.1
出典書籍『例規の架け橋 No.19』

はじめに


 アナログ規制見直しが政府・地方自治体で進められている。デジタル庁が洗い出した国の該当規制は9,669条項あり、2024年6月までに全て見直す方針であり、以降は自治体での取組に焦点が移る。ますます自治体の関心が高まるこの取組について、本誌上で各自治体の特徴的なアナログ規制見直しを紹介する連載をスタートすることになった。

 連載第1回目の今回は、全庁のアナログ規制見直しで最も先進的な取組を進める大分県と、課題起点のアナログ規制見直しを志向する福島県南相馬市を取り上げる。

 

大分県アナログ規制見直しの取組(注)


 最も進んでいる大分県のアナログ規制見直しの取組は、2022年12月から23年1月まで県各部局でアナログ規制の洗い出しを行い、23年1月から2月には見直し方針を検討し、次いで2月のDX本部会議、「令和4年度第3回大分県行財政改革推進委員会」が開催され今後の方向性の決定までがわずか3か月で整理された。この背景には知事がCXO(Chief Transformation Officer)として位置づけられトップダウンで進められたこと、大分県全体が部局間に発生しがちな「お見合い」を防ぐよう前向きに取り組む姿勢が浸透していることが大きいという。

 具体的な進め方はデジタル庁策定の「アナログ規制の点検・見直しマニュアル」と同様、検索ワードを用いて例規システムの中からアナログ規制候補を拾い上げ、該非判断で特定し、目視などのアナログ規制を取り除く方法である。条例と規則までは例規システムで検索できたが、要綱・要領は各部局管理で例規システムには登載されておらず、照会をかけるタイミングで要綱・要領を提出するように各所管課に伝えた。

 一方、所管課も通常業務で多忙であり、必ずしも前向きでない場合もあった。その所管課には、「いま例規改正できる『アナログ規制見直し』を、数年後に先延ばしすると、改正時期を逸してしまう」と伝えたという。今しなければならない必要性を理解してもらうことが効果的であった。

 この2024年3月議会で都道府県初の「アナログ規制改正条例」(情報通信技術の効果的な活用のための規制の見直しに伴う関係条例の整備に関する条例)が成立したがこれは県独自規制を対象とするものであった(以下参照)。

①大分県環境緑化条例の一部改正(樹林等の指定にかかる実地調査にドローンを追加) ②大分県行政手続条例の一部改正(不利益処分の名宛人の所在が不明である場合の公示方法について掲示場の掲示であったものをインターネットによる公表を必須にするとともに、掲示場の掲示もしくは事務所に設置したパソコン画面での表示と改める。) ③社会福祉法人の助成手続に関する条例の一部改正(実地検査にオンライン検査を追加) ④大分県身体障害者社会参加支援施設の設置及び管理に関する条例の一部改正(表現「ビデオカセット」を「録画物」に変更)


 なお、県独自の規制も全体の3分の1程度と多い。国の法令等に準拠している規制は国の改正動向を踏まえなければ検討できないが、既に候補リストや見直しの方向性は具体化している。

 今後はアナログ規制見直しに対応した運用自体の見直し状況を確認する予定という。

(注)大分県アナログ規制見直しインタビュー(2024/4/24(水)実施)
  インタビュイー:商工観光労働部DX推進課:木部前DX推進課長、稲垣主幹、佐藤主査

 

南相馬市アナログ規制見直しの取組


 筆者がCIO補佐官として支援している南相馬市では、アナログ規制見直しにあたり、規制所管部門の担当者向け研修会をまず開催することで庁内の機運醸成を図った。

 アナログ規制見直しにあたっては網羅的に洗い出し作業を行うのではなく、農業分野などデジタル化に向けた課題を先に見つけた上で重点的に課題解決につながる規制見直しを志向している(課題起点のアナログ規制見直し)。

 具体的な事例を挙げてみよう。農業分野における転作確認の効率化が大きな課題となっていた。転作確認とは、農業者提出の営農計画書どおり、主食用米以外の作物作付け実施状況を確認する業務である。南相馬市では毎年8月に約30,000筆の農地を延べ300人日で目視確認し、調査結果の集計を実施していた。これに対して、衛星写真の活用を実証実験として行う際に、アナログ規制の該非が課題となった。

 そこで実際に筆者が調査したところ、2022年5月のデジタル臨時行政調査会作業部会(第10回)で「農地利用状況の定期調査への衛星写真の活用(事務局報告)」が提示された。この時点では目視確認(PHASE 1-①)が必要であり、目標としてPHASE 2(情報収集の遠隔化・人による評価)が位置づけられた。

 そしてその後、全国農業委員会ネットワーク機構・一般社団法人全国農業会議所「令和5年度 農地パトロール(利用状況調査)実施要領」2023年5月によると、農地の利用状況調査の具体的実施方法として衛星活用による具体的なプロセスが整理された。つまり、衛星写真活用による農地転作確認はアナログ規制に該当せず取組を進められることが分かった。

 さらに所管課はこの取組で転作確認の負担軽減が確認できただけでなく、現地調査前後の手続に業務効率化ポイントがあることを発見するとともに他自治体比較で実施不要の業務も確認した。他業務での人工衛星データの活用可能性も検討するなど、現地確認の負担軽減からより拡張した課題解決を見据えた「DXの目的志向」を具現化した取組と言える。

 

まとめ


 今回取り上げた事例から言えることは、以下の点である。各自治体のアナログ規制見直しの取組でも参考にされたい。

大分県
○トップダウンによる体制づくりの重要性
○例規システム未登載の例規照会により網羅的な洗い出し
○全庁挙げた取組として位置づけ、時機を逸しない前向きなアナログ規制見直しに結実
○一括条例改正というアナログ規制見直し手法

南相馬市
○全庁的意識向上に向けた研修実施
○デジタル化に向けた課題起点のアナログ規制見直し
○アナログ規制見直しにとどまらない業務効率化への展開

 

<筆者>
株式会社日本政策総研 理事長・取締役(兼)東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員
若生幸也(わかお・たつや

2006年金沢大学法学部卒業、2008年東北大学公共政策大学院修了、同年富士通総研入社。2011~2013年に北海道大学公共政策大学院専任講師(出向)、2013年同社復職。2020年より同社公共政策研究センター長。2022年日本政策総研入社。2023年4月より現職。
東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員・北海道大学公共政策大学院研究員・南相馬市CIO補佐官(プロデューサー)・宇部市CIO補佐官などを兼務。 専門は、地域政策・自治体経営・規制改革・政策評価。

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(わかお・たつや)株式会社日本政策総研 理事長・取締役(兼)東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員。 2006年金沢大学法学部卒業、2008年東北大学公共政策大学院修了、同年富士通総研入社。2011~2013年に北海道大学公共政策大学院専任講師(出向)、2013年同社復職。2020年より同社公共政策研究センター長。2022年日本政策総研入社。2023年4月より現職。東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員・北海道大学公共政策大学院研究員・南相馬市CIO補佐官(プロデューサー)・宇部市CIO補佐官などを兼務。 専門は、地域政策・自治体経営・規制改革・政策評価。

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