政策トレンドをよむ 第19回 産学官連携 ― 自治体の視点から
NEW地方自治
2024.11.12
目次
※2024年9月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第19回
産学官連携 ― 自治体の視点から
EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部
郷田 秀樹
(『月刊 地方財務』2024年10月号)
民間企業と大学等の研究機関そして国や地方自治体といった行政機関が連携することで、新たな研究開発やその基盤となる枠組みを形成する「産学官連携」は日本の国際競争力向上や地域活性化という文脈からも期待の集まる領域である。1996年に閣議決定された「科学技術基本計画」において、産学官の連携・協力が1つの柱とされ、関連する振興方策が示されたことにより、その取り組みは拡大されてきた。最近では第6期科学技術・イノベーション基本計画を踏まえ、あらゆる分野の科学技術に関する知見を総合的に活用して社会の諸課題への的確な対応を図ることを推進する「総合知」の文脈からも、産学官の集う「場」の構築や人材交流がその推進ポイントとして議論されている。地方自治体において、「産学官連携」は地域産業の競争力強化や新たな産業・雇用の創出、続く地域活性化といった意義があり、その推進は重要テーマの1つである。本稿ではこのような「産学官連携」の推進事例を紹介する。
愛知県では企業や大学・研究機関等からの提案を起点として、社会課題の解決と地域の活性化を図る官民連携プロジェクトの創出を目指す「革新事業創造戦略」を策定している。本戦略の背景には愛知県が主導し、産学官に加え金融機関が連携して策定したAichi-Startup戦略がある。この戦略ではグローバルなスタートアップ・エコシステムの形成を目指し、スタートアップの創出、育成、展開、誘致とともに、事業会社とスタートアップによるオープンイノベーションの推進を目標に掲げている。本戦略の特徴は県としての戦略ではなく、地域の産業界、経済界、金融界、大学・研究教育機関等を含めた地域としての戦略を地域の強みであるモノづくりを中心にグローバル視点で作成している点にある。「革新事業創造戦略」はこのようなスタートアップ戦略と両輪を成す形でのイノベーション創出を目指している。具体的には革新事業創造に向けた提案を受け付けるプラットフォームの構築・運営、優れた提案の採択、事業の具体化に向けたワーキンググループの設置や社会実装に向けた実証試験等の支援を行う。県は上記の推進に加え規制緩和などの法制面や体制構築について全庁的な連携のもと推進を図るとしている。このように愛知県では特定産業に限定することなく、場や枠組みの構築を中心に「産学官連携」を推進している。
次に長野県飯田地域の産業領域を航空産業に絞った取り組みを紹介する。本プロジェクトでは(公財)南信州・飯田産業センターと飯田市の支援を受け、地域の中小企業を中心として精密機械加工の技術を結集、一貫生産体制を構築し共同受注の体制を整備する拠点「エアロスペース飯田」が立ち上げられた。このような技術的な強みの強化と併せてコーディネーターの配置など地域一体での営業活動により、大手航空機システムメーカーからの受注を獲得している。また、航空機産業振興に資する知の拠点を形成するために、南信州広域連合、飯田市、長野県、(公財)南信州・飯田産業センター、多摩川精機、八十二銀行、飯田信用金庫、長野銀行、長野県信用組合を会員とする信州大学航空機システム共同研究講座コンソーシアムが設立され、同コンソーシアムからの要請と経費の支援を受け、信州大学南信州・飯田サテライトキャンパスが開設され、信州大学航空機システム共同研究講座が設置、運営されている。またこのような取り組みを波及させることで飯田市は長野県の他の地区とともに「アジア№1航空宇宙産業クラスター形成特区」として2014年に指定を受けている。なお、本取り組みは2021年に長野県内の航空宇宙産業に取り組む事業者と支援機関が連携し、バリューチェーンの強化等に取り組んでいくNAGANO航空宇宙産業クラスターネットに拡大統合されている。
このような「産学官連携」の取り組みが抱えるであろう共通課題として、その継続と自走が挙げられる。そこで自走に向けたヒントとなる事例として産官学が関わるベルギーの半導体研究開発機関であるIMECの事例を紹介する。IMECはルーヴェン・カトリック大学のフォン・オベルシュトラーテン教授の提唱により、フランダース政府の約90%の出資で設立された機関であるが、現在はその運営費の85%以上を企業からの収入により賄っている。このような運営を可能としている背景は大きく2つあると考えられる。1つは関与する企業と研究開発の成果や知的財産の権利配分を開発段階ごとに明確化するとともに、企業側が成果を評価する機会を定期的に設け、その結果により契約の継続等を判断する、企業にとって明確な連携の仕組みである。もう1つの側面として研究のコアとなる技術開発にはフランダース政府からの補助金を使用している点である。この補助金はフランダース政府と設定したKPIの達成状況により変動し、KPIの項目には学術的な成果だけでなく、地域企業とのパートナーシップの件数や受け入れている博士学生の人数など、地域の活性化に資する項目が入っている。このように産業界や地域に対して明確な役割と成果指標を持って運営を行うことが自走に向けた課題解決のヒントになると考える。
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