自治体×先端技術

小松 俊也

自治体×先端技術③ デジタル技術の最新動向(Web3.0、生成AI)と自治体での活用

地方自治

2023.04.10

日に日に発展する先端技術は、自治体のさまざまな部署での活用が想定されており、地域の課題解決につながるとも期待されています。全3回の本シリーズでは、2023年3月末まで日本政策投資銀行に出向し、注目の技術について調査を行った東京都職員の小松俊也氏に、自治体職員に向けてコンパクトに解説していただきます。


 

前・日本政策投資銀行産業調査部調査役 小松俊也

 

0 はじめに

 多くの自治体でDXが推進され、デジタル技術を使った行政サービスの効率化などが実現されてきた。その一方で、デジタル技術は日々進歩しており、常に最新動向を追い続けながらサービスを更新していかなければならない。今回は、特に昨今注目を集めるWeb3.0と生成AI(Generative AI)に焦点を当て、自治体での活用を考察したい。

 

1 Web3.0とは

 Web3.0は、ブロックチェーンの技術などを活用した、分散型の新たなウェブの概念である。「Web3.0」という用語は2000年代後半に別の文脈で使われていたことから、差別化のために新たな概念のものを「Web3」や「web3」と呼ぶこともあるが、行政では「Web3.0」の呼称が使われることが多い。

 インターネットが一般に普及しはじめた1990年からのウェブは、ウェブサイトを読むなど、一方通行の構造だった(Web1.0)。2000年代後半にはSNSなどで利用者が情報を容易に発信できるようになり、情報の流れが双方向になったが、GAFAMのような巨大なプラットフォーマーに情報と権力が集中した(Web2.0)。これらに対して、近年提唱されるWeb3.0ではブロックチェーンの技術などを使うことで、特定の企業ではなく個々が非中央集権的にウェブを運営する分散型の構造が掲げられている。


図1 Webの構造変化(経済産業省資料などにより日本政策投資銀行作成)

 Web3.0の関連技術やサービスには、NFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自律組織)、DeFi(分散型金融)などがある。また一部のメタバースではNFTを取り入れており、メタバースがWeb3.0と関連付けて語られることもある。

 

2 自治体におけるWeb3.0の活用

 すでに一部の自治体や地域ではNFTとDAOの活用が始まっている。

 NFTは、デジタルデータが唯一であることを証明し、偽造や改ざんを防ぐものである。デジタルデータはコピーされやすいが、NFT化することで元データをコピーデータと区別できるようになる。
 北海道余市町(よいちちょう)や上士幌町(かみしほろちょう)、岩手県遠野市(とおのし)など複数の自治体がふるさと納税の返礼品としてNFTアート作品を提供しているほか、鳥取県京都市などがご当地NFTを販売している。NFTは購入者への特典の提供や、人気のあるタレント、キャラクターとのコラボなど、他のNFTと差別化する取り組みがなければ十分な収益には結びつきにくいが、うまくコンテンツを制作し、PRすれば自治体の新たな収入源にもなるだろう。

 DAOは特定の管理者や所有者ではなく、参加者の投票などで意思決定を行う組織のことである。


図2 従来型組織とDAOの意思決定の違い(各種資料により日本政策投資銀行作成)

 代表的な事例に新潟県旧山古志村(やまこしむら)のものがある。2005年に長岡市に編入合併された旧山古志村は人口約800人の限界集落にもかかわらず、現在、1,000人以上の「デジタル村民」がいる。山古志住民会議が発行するNFTアートが電子住民票を兼ねており、購入者はデジタル村民になる。NFTの売り上げの一部はリアルの旧山古志村で実施するプロジェクトに使われており、プロジェクトの内容はデジタル村民による投票で選定される。DAOは過疎地における関係人口の創出と地域課題解決につながると見込まれており、鳥取県智頭町(ちづちょう)や静岡県松崎町などでも取り組みを始めた。

 これらのほか、「Web3タウン」を表明し、人材・企業誘致や地域通貨の発行などにWeb3.0の活用を試みる岩手県紫波町(しわちょう)のような自治体もある。Web3.0は社会課題の解決に貢献すると見込まれており、今後さらに自治体での活用が進むだろう。

 

3 生成AIとは

 AIはこれまでも自治体で導入されており、行政運営の効率化に貢献してきた。たとえば、職員が1,500時間かけて行っていた保育所入所選考の作業をAIが数秒で完了させた事例などがあり、分野によってはすでに絶大な効果を発揮している。

 こうした従前のAIの活用もあるが、ここでは2022年から注目が高まった「生成AI」の最新動向に焦点を当てる。生成AIは文章や画像、音声などを生成するAIを指す。2022年夏に精度の高い画像生成AIが登場したことが話題となったが、11月にOpenAIが対話型文章生成AI「ChatGPT」を発表すると、その性能の高さから新たなAIブームが巻き起こった。ChatGPTに世間の注目が集まる一方で、学習データが2021年のもので最新の情報を回答できないことや、不正確な回答も多いことなどから、ChatGPTは自治体で活用できないとの見方が一般的ではないだろうか。

 しかし、AIの発展は急速に進んでおり、生成AIが自治体で活用される日は遠くないだろう。ChatGPTのサービス開始以降もGPTの言語モデルには、検索エンジンへの搭載、GPT-4(ChatGPTに使用されているGPTモデルの最新版)の公開などの動きがあり、さらに今後、Microsoft Officeに組み込むことも発表された。また、Microsoftに対抗するGoogleやMetaも対話型の生成AI開発を進めるなど競争が激化しており、次々と新たなサービスが生まれると期待される。現在はAIがさまざまな業界で歴史的な転換を引き起こす前段階と言われており、今後、自治体での運用にも適した生成AIが誕生すると見込まれる。

 

4 自治体における生成AIの活用

 2022年以降の生成AIの動向に対し、自治体ではまだ活用を模索している段階である。しかし、さらなる利便性の向上や問題点の克服が進むことで、たとえば以下のような活用が期待できる。

●行政手続の効率化
 OpenAIはGPT-4公表時のデモで、GPT-4に税法の資料を読み込ませることで、家族構成や収入に応じて税金の控除額を計算できることを示した。これまでも自治体ではAIのチャットボットによる問い合わせ対応を行ってきたが、今後のチャットボットはより複雑な行政手続などでも補助ツールとして活用可能になるだろう。ただし、現状では文章生成AIが誤った回答や、攻撃的な回答をすることもあるため、より安全かつ正確なサービスにすることが求められる。

●資料作成の効率化
 2014年にAIが将来的に仕事の多くを代替するという研究が話題になったものの、いまだ自治体の現場ではAIに代替されるという実感はないだろう。しかし、ChatGPTを提供するOpenAIの研究者らが2023年3月に発表した論文で、GPTが多数の労働者に影響を及ぼすことが示されており、いよいよ人間の仕事を代替する日が近いともいわれる。Microsoft OfficeにGPT-4が組み込まれることなどからも、資料作成の業務が大幅に効率化される可能性があり、自治体職員の仕事が変わるかもしれない。ただし、AIに入力した個人情報や機密情報は、情報漏洩のリスクがあるため、セキュリティ上の課題が残る。

●政策立案の参考

 対話型の文章生成AIは、質問に対して回答を述べるものであり、専門的な分野での対応力も向上しつつある。また、特に検索エンジンに組み込まれたAIは、ネット上の情報を収集してまとめるなど調査の補助的なツールになる。回答には誤りや偏りもあり、過信すべきではないが、政策立案の参考意見や参考情報として活用できるようになるだろう。

●PRコンテンツの制作
 自治体がゆるキャラや地域の画像を使った新たなPR画像を作成したり、文章生成AIを活用してゆるキャラとコミュニケーションを取れるようにしたりするなど、シティプロモーションのコンテンツ制作に活用できるようになるだろう。なお、生成AIは開発に使われるデータの権利などの問題が指摘されるため、自治体ではこうした懸念のないAIを用いることが求められるだろう。

●学校教育の補助
 ChatGPTの登場後、ニューヨーク市教育局は教育への弊害を懸念し、学校からのアクセスを禁止したが、生成AIは必ずしも教育に悪影響があるわけではなく、むしろ活用も期待される。たとえば、ChatGPTは英文添削などで高い性能があり、語学学習では実用的な補助ツールになり得る。また、条件設定によっては、生徒一人ひとりのレベルに合わせた指導をAIが行うことができるため、これまでに教員だけでは行き届かなかった指導が可能になるだろう。

 

5 デジタル技術と自治体の今後

 今回はWeb3.0と生成AIを紹介したが、デジタル分野の技術革新のスピードは速く、すぐに新たな動きが生じるため、一度導入して終わりではない。このように先が見えず、変化が著しい分野では、従来のPDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)では対応が追い付かないことが多く、柔軟かつ迅速に対応できるOODAループ(観察→状況判断→意思決定→実行)の手法なども併用しながら、情報収集や意思決定のあり方を再構築することも求められる。また、技術に明るい職員が異動したことでデジタル化が遅れた事例もあるため、組織全体で職員の意識を向上させるなど、技術の導入に積極的な風土づくりも重要になる。


図表3 PDCAサイクルとOODAループ(各種資料により日本政策投資銀行作成)

 少子高齢化や人口減少などにより、財政・人員不足が深刻化する自治体では、Web3.0のNFT、DAOによる新たな収益の確保や地域外の人々との協働、AIによる作業の効率化などは有効な解決策の1つとして期待できる。
 言うまでもなく、デジタル技術を導入しても利用者がいなければ意味がない。また、新たなリスクが生じかねないことから、一概に導入すればよいというものではない。重要なのは、よりよい地域づくりや行政サービスのために、どのデジタル技術をいかに実装するかを考え、地域の特色や実情に合わせて導入することだろう。

 

【著者プロフィール】

【著】
小松俊也/前・日本政策投資銀行 産業調査部 調査役
東京都職員として自治体国際化協会シドニー事務所派遣、国際業務や長期戦略策定の所管部署などを経験。2022年4月から翌年3月まで日本政策投資銀行でメタバース、スマートシティ、観光などの調査を担当。

 

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株式会社日本政策投資銀行産業調査部調査役。東京都職員として国際業務や長期戦略策定などの所管部署を経て、2022年4月より現職(出向)。メタバースのほか観光、スマートシティなどの調査を行う。修士(工学)。

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