政策トレンドをよむ 第17回 外国人の起業支援がもたらす地域経済活性化の可能性

地方自治

2024.08.26

目次

    ※2024年7月時点の内容です。
    政策トレンドをよむ 第17回
    外国人の起業支援がもたらす地域経済活性化の可能性
    EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部
    北海道大学公共政策学研究センター研究員

    森川 岳大
    『月刊 地方財務』2024年8月号

     技能実習に代わる新たな外国人材の受け入れ制度「育成就労」が2027年までに開始される見通しとなった。技術移転が名目の技能実習から、人手不足の分野で正面から外国人労働者を受け入れる仕組みに転換し、外国人材の働きやすさの向上による労働力の確保が期待される。また、近年では専門性を有する高度外国人材を確保し、地方に不足している知識・経験の獲得や、国際関係業務の遂行、地域企業の海外展開等を目指す自治体も増えている。この様な状況の中、外国人が地域に定着し、新たな担い手として活躍できるよう、積極的な支援を行うことが地方自治体に求められている。

     地域における外国人の定着を図るには、働きやすさ・暮らしやすさの向上に繋がる環境整備に加え、「他地域にはない外国人の心を惹きつける魅力」による差別化が鍵となる。既に様々な地方自治体で独自の支援を行っているが、本稿ではその中の1つである「外国人の起業支援」に着目し、制度面に関する国の施策の動向や地方自治体の先導的事業の紹介、取り組みの効果や重要ポイントをお伝えしたい。

     日本における外国人の起業支援は、米国などの海外諸国の産業成長と地域振興における移民系企業の顕著な貢献を鑑み、2015年頃に本格始動した。現在実施されている制度面での主な施策は以下のとおりである。

    ・外国人起業活動促進事業
    経済産業省の認定を受けた地方公共団体・民間事業者から、経済産業省の定める告示に基づき起業支援を受ける外国人起業家に対し、地方出入国在留管理局が最長1年間の入国・在留(在留資格「特定活動」)を認める制度

    ・国家戦略特区外国人創業活動促進事業
    日本で創業を志す外国人に必要とされる「経営・管理」の在留資格の認定要件が、国家戦略特別区域で創業活動を行う場合に緩和される制度

    ・未来創造人材制度(J-Find)
    優秀な海外大学等を卒業等した方が、就職活動又は起業準備活動を行う場合、在留資格「特定活動」(未来創造人材)を付与され、最長2年間の在留が可能となる制度

    日本の大学等を卒業した留学生による起業活動に係る措置 優秀な留学生の受け入れや、国内での就労支援に意欲的に取り組んでいる本邦の大学等を卒業し、本邦において起業活動を行う者を対象として、一定の条件を満たす場合に在留資格「特定活動」を付与し、最長2年間の在留を認める制度

     これらの制度面に関する取り組みに加え、一部の自治体では、外国人の起業に関する独自の支援を行っている。代表的な取り組みの1つが、大分県の「おおいた留学生ビジネスセンター(以下、SPARKLE)」が実施する留学生支援である。

     人口あたりの留学生数が全国トップクラスである大分県では、優秀な留学生の卒業後の県内定着を図るため、留学生の県内起業・就職の支援を行うSPARKLEを2016年に設置した。県内の大学や商工会議所、企業等との連携による自立的な事業運営体制を構築し、専門家による起業支援や、留学生と企業のマッチングを行っている。起業に興味がある・準備を考えている留学生や、留学生OBがいつでも起業相談ができる体制整備を目指しており、創業期には経理や決算書のレビュー、ビザの相談、先輩起業家と留学生の交流会、ビジネスプランを立てるためのセミナー開催のほか、オフィスの貸し出し(SPARKLEの一部の部屋を最大3年間)も行っている。オフィスは、留学生や留学生OBのほかにも、留学生と協働して大分県内で新しい会社を設立又は新規事業をめざす日本人も入居でき、既に約30社が利用している。

     SPARKLEの取り組みの効果については、昨年度弊法人が実施した調査において、留学生の定着や地域経済活性化に寄与する可能性が示唆されている。具体的には、留学生や先輩起業家等の交流が頻繁に行われることによる留学生のモチベーションの向上や進路の選択肢の拡大、地域の雇用創出等の効果である。また、”外国人にとって起業しやすいまち”という評判が広がり、県外の外国人が大分県に来て起業するといったケースも確認されている。

     在留資格の規制緩和や、起業支援ノウハウの蓄積により、自治体における外国人の起業支援が今後さらに拡大することが予想される。その際には、「補助金を活用して実績のある民間企業に委託(丸投げ)する」、「他地域の有名事例をそのまま導入してみる」のではなく、自治体が旗振り役となり、地域のビジョンや産業特性・地域資源等を踏まえた独自の戦略づくりが求められる。また、大分県のように地域の大学や支援事業者等と連携し、自立的で実効性の高い事業運営体制やコミュニティを構築することも重要である。弊法人で支援できることがあれば気軽に連絡をしてほしい。

     

    本記事に関するお問い合わせ・ご相談は以下よりお願いいたします。
    持続可能な社会のための科学技術・イノベーション | EY Japan
    多様な人材の活躍推進(DEI、外国人材の受け入れ・共生、新たな学び方・働き方) | EY Japan

     

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