自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[95]能登半島地震「住宅耐震化」と「関連死防止」
地方自治
2024.10.09
※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
2024年元旦に能登半島地震が発生し、死者222名、安否不明22名(1月15日現在)の大被害をもたらした。亡くなられた原因のほとんどが、建物の下敷きになったためと報道されている。先月号で旧耐震木造住宅の耐震化の重要性を述べたばかりであったが、残念な形で現実化してしまった。
住宅耐震化は全額公費で
「珠洲市によると、市内にある住宅約6000軒のうち、2018年度住宅耐震化は全額公費で末までに国の耐震基準を満たしていたのはわずか51%。同じ時期の全国の耐震化率(87%)と比べても極端に低かった。一方、20年の珠洲市の65歳以上の割合(高齢化率)は、石川県内で最も高い51.7%だ」(毎日新聞1月3日電子版)。
高齢者や低所得者が耐震化ができないのは、要は金がかかるからだ。そこで、全額公費負担で耐震化できれば、耐震化は格段に進む。その実例が高知県黒潮町であり、設計費、工事費併せて140万円までは全額助成し、1万人の人口で毎年百数十件の耐震化補助を実現している。
また、賃貸住宅については耐震性の表示をすべきである。たとえば1981年5月以前に建築確認を受けた賃貸住宅は「極めて危険」、1981年6月から2000年5月までは「やや危険」、2000年6月以降は「一応安全」と表示しリスクを伝えるべきなのだ。もし、大丈夫だと言いたいならば耐震診断をして耐震性を確認すれば良いだけだ。国民のほとんどが耐震基準を知らない以上、このような表示が重要だ。
災害関連死を防ぐために
(1)広域避難
関東大震災では、東京市220万人のうち70万人以上が地方に広域避難した。広域避難を積極的に進めることで行政への負担を減らしたのだ。
現時点で奥能登地方は、孤立集落が多く、停電、断水であり、冬期という極めて危険な状況にある。災害関連死は、低体温症による衰弱、誤嚥性肺炎、感染症、エコノミークラス症候群、生活不活発病による要介護度の重度化などにより発生し、しばらくすると自殺が増えてくる。早急に、暖かいところで、十分な栄養をとって、手足を伸ばしてゆっくり眠れる環境を作るのが大切だ。すでに、金沢市など近隣のホテル・旅館を「みなし避難所」として被災者を受け入れる活動が始まっている。
しかし、高齢者、障がい者等は往々にして「自分だけが良い思いをするのは申し訳ない」と考え、支援を拒むことがある。最初から行政や支援者が「〇月〇日まで○○ホテルに移動してください」と言われると広域避難に応じる可能性が高まる。本人の意思に任せるだけでは救えない命があることを認識しなくてはならない。
また、自宅に泥棒が入るのを心配する声もある。そこで、留守宅のパトロールの強化が必要になる。ある程度、元気な被災者を雇用してパトロール部隊を設置してはどうだろうか。広域避難のできる被災者が移動して、被災地の負担を減らすことが、残った被災者への支援を手厚くできる。このような意味で、広域避難は、一種の防災活動ともいえる。
災害関連死を防ぐ~地域支え合いセンター
2016年の熊本地震の災害関連死は、図1のように1週間で53名、1週間から1か月で71名にも上る。年齢的には70代以降の高齢者が圧倒的に多い。
しかも、熊本は初夏を思わせる4月中旬で電気、通信、道路は早期に復旧し、断水のみ続いている状況だった。能登半島地震は、多くの被災地が寒冷地帯で停電、断水、通信途絶、道路通行止めが続いていて、避難生活を送るには極めて条件が悪い。
また、図2を見ると、熊本地震の災害関連死の場所は自宅が一番多く、次に自宅から病院に搬送された方である。つまり、自宅で体調を壊しやすいのである。
一方で、最も被害が大きかった益城町において、出勤できた職員の従事業務は約7割が避難所、1.5割が物資である。とても在宅避難者を見守る余力がなかった。私も避難所運営の手伝いをしたが、職員がフル稼働しても避難所を回すので精一杯の状況だった。すなわち熊本地震クラスの災害になると職員は避難所運営だけで手一杯になってしまう。
そこで、通常は仮設住宅の設置時期に合わせて設置されることが多い「地域支え合いセンター」を早期に、できれば発災後直ちに立ち上げることを提案したい。現在は、社会福祉協議会が中心になってボランティアセンターを立ち上げることが多い。そしてボランティアセンター運営に忙殺されてしまう。それよりも地域福祉活動の中核として、高齢者等の見守り支援活動を優先して頂きたい。それが人命を守ることにつながる。
関連死を防ぐ~福祉避難所
認知症高齢者や知的・精神障がい者は、小中学校の体育館など大勢の人がいる所で避難生活を送るのは明らかに困難である。そこで、避難先としての福祉避難所が期待されるのだが、昨年の(一財)日本防火・危機管理促進協会の調査によれば、水、食料、トイレの備蓄があるのは指定福祉避難所で約3割、協定福祉避難所で約2割にとどまっている。
能登半島地震災害では、数か所で福祉避難所が開設されている。しかし、電気がなかったり、トイレ、水、食料の備蓄がないため、非常に厳しい運営を強いられた。本来、福祉避難所は高齢者や障がい者等が避難する場所であり、一般の避難所以上に冷暖房設備や備蓄物資がなければならないのだが、現実には十分な用意がない。
今般、多くの被災自治体はふるさと納税サイトで寄付を受け付けている。もちろん、被災者支援に使われるのが大事だが、次の災害に備えて福祉避難所の備蓄物資、非常用発電設備や給水槽の充実、簡易トイレの備蓄などにも意を注いでいただきたい。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。