議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第96回 「議員選出監査委員制度」は廃止すべきではないか?
NEW地方自治
2024.11.14
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年3月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
昨年3月末、定年退職を控えた筆者に労いの言葉をかけるため、代表監査委員が議会局長室に来られた。その時の「議選監査(議員選出監査委員制度)の廃止に尽力してくれてありがとう。おかげで監査体制は大いに強化された」との感謝の言葉を筆者は忘れない。
2017年の地方自治法改正で、議選監査は必置から、各議会の選択に委ねられることになった。そこで大津市議会では、議員間での機能論からの議論も踏まえて、改正法施行後速やかに廃止した。代表監査委員は、そのことによって、元行政職の代表監査委員のほかには、弁護士、公認会計士、社会保険労務士などの専門職が委員として任命され、監査体制が飛躍的に強化されたことに謝意を示されたのである。
■二元的代表制との矛盾
議員から監査委員を選出する議選監査については、執行部在籍時から疑問を感じていた。それは、議選監査委員は議会の構成員でありながら執行部の特別職を兼ねることになり、必然的に憲法に根拠置く「二元代表制を基礎とする地方自治制度において若干の自己撞着の感は否めない」(注1)ことになるからである。
注1 総務省自治行政局行政課監査制度専門官・渡邉康之「地方公共団体の監査制度について(九)」(『地方自治』№904、56頁)
戦後そのような制度設計がなされたのは、監査委員の「長に対する権威性の欠如について、その権威性を有する者として議会の権威を背景とする議員を監査委員の選任要件の一つとされたところである」(注2)との歴史的経緯が明らかになっている。
注2 総務省自治行政局行政課監査制度専門官・渡邉康之「地方公共団体の監査制度について(九)」(『地方自治』№904、55頁)
だが、監査の実効性は、法的効果として担保すべきものであり、政治的効果に期待した法制度設計など、現在ではあり得ないだろう。事実、現職の衆議院法制局職員に、「今、この制度が提案されたら認めるか」と個人的見解を求めたところ、「今ならこのような制度は難しい」との見解が示された。
■議員活動をスポイルする制度
さらに議員としての本質的な問題は、監査情報の守秘義務との関係で、議員本来の活動が事実上制限されることである。
法定されているわけではないが、議選監査委員は、決算審議からは外され、一般質問も行わないことが申し合わされている議会も多いが、まさに本末転倒であろう。議選監査委員になるために議員になった人はいないはずであり、本務である議員活動の一部放棄を事実上強いる制度など、おかしくはないだろうか。
■自治体監査のデフォルト変換
立法論的には議会内部の問題にとどまらず、自治体における監査制度のあり方の問題ではないだろうか。それは監査委員が、監査対象である長の総合調整権下にある一執行機関に位置付けられていることが、監査の実効性の制度的担保を困難にしているからだ。
したがって、監査委員を長から独立させ、議会に識見監査委員を置くほうが、合理的ではないだろうか(注3)。議会には基本的に書面検査権しかない(注4)が、日常的に行使し得る実地検査権を得れば、チェック機能は格段に向上するだろう(注5)。
注3 西尾勝・東京大学名誉教授も第29次地方制度調査会第5回専門小委員会で同主旨の意見陳述をされている。
注4 100条調査における実地調査を除く。
注5 現行の地方自治法98条でも議会から監査委員への監査請求権が規定されているが、機関を超える権限のため、その実効性に疑義を示す識者もいる。
ゆえに監査機能の議会への集約が、議選監査の制度的欠陥を抜本的に解消するとともに、行政に対する監査能力を向上させる最適解であろう。当面は議選監査の廃止にとどまろうとも、将来的には法改正を視野に入れた、監査体制の抜本的改革の議論が求められるのではないだろうか。
いずれにしても課題解決には機関内部の視点ではなく、自治体の課題として俯瞰することが必要であろう。
第97回 「シン・議会(事務)局職員」に求められるものは何か? は2024年12月12日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。